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米中ハイテク覇権戦争
米中対立は「トゥキディデスの罠」に陥ってしまうのか
米中ハイテク覇権戦争(8)トゥキディデスの罠と米中対立
政治と経済
島田晴雄(慶應義塾大学名誉教授/テンミニッツ・アカデミー副座長)
トゥキディデスの罠という故事を引用し、今日の米中の間の経済覇権争いが実際に戦争に至る可能性が大きいと、島田晴雄氏は警鐘を鳴らす。アメリカとしては中国を世界の仲間に入れようと一肌脱いだにもかかわらず、覇権の獲得を目指して独裁化傾向を強める中国に対して、強い懸念を示している。こうした一連の流れが、今日の深刻な経済対立を生んでいるという意味で、今日の国際関係を見る上で、歴史的な事実から考えることは極めて重要である。(全9話中第8話)
時間:13分05秒
収録日:2019年11月20日
追加日:2020年2月29日
収録日:2019年11月20日
追加日:2020年2月29日
≪全文≫
●トゥキディデスの罠
ここまでお話ししてきた通り、中国は長期的な戦略で邁進しています。アメリカは自国の覇権、特に技術的な面で覇権を脅かすということで、警戒感を高めています。この米中対立以前にも、覇権をめぐってたびたび戦争が起こっています。これを「トゥキディデスの罠」といいます。ギリシャの歴史学者トゥキディデスが描いた、紀元前5世紀のスパルタとアテネの覇権争いが、ペルポネソス戦争につながり、アテネが勝利しました。このことから「トゥキディデスの罠」とは、覇権をめぐる競争が戦争へと繋がってしまうことを警告しています。
ハーバード大学のベルファーセンターで、グラハム・アリソン教授を中心に応用歴史学の「トゥキディデスの罠研究プロジェクト」が何年か行われていました。この研究の結果、過去500年間の歴史を詳細に振り返ると、新興国が覇権国を脅かしたケースを16件確認し、そのうち12件で戦争が起きたと報告されています。
現在、中国が新興勢力として事実上の強力な覇権国であるアメリカを追い上げていることは明白です。トランプ政権はその中国に対して、経済力を減殺すべく高関税を賦課しています。また戦略的に極めて重要な通信インフラの構築で世界をリードしているファーウェイをはじめとする先端ハイテク企業に対して、アメリカ発の部品や技術の輸出禁止措置という制裁を科しており、事実上の戦争状態に近いといえます。この対立が「トゥキディデスの罠」に陥って、本当の戦争に発展するのかという点を、世界は固唾を呑んで注視しています。
アリソン教授は、覇権国アメリカに強迫観念と警戒感を抱かせる近年の中国の激しい追い上げを詳細に記述していますが、その内容は省略します。
●アメリカの懸念と中国国家の独裁的傾向の高まり
この中国の急速な台頭の中で、アメリカの経済力が相対的に低下します。覇権の相対的低下に関しても、懸念が始まっていると指摘しています。アリソン教授によると、アメリカ人はなぜか経済の優位はアメリカに不可分の権利で、アメリカのアイデンティティの1つだという認識も、ナイーブなアメリカ人は持っているということです。
中国がここまで急激に台頭してきたのは、実はアメリカがとってきた中国を仲間に入れる戦略が間違いだったという考えが、今、対中強硬派に広く持たれています。中国の1980年代以降の急速な発展で...
●トゥキディデスの罠
ここまでお話ししてきた通り、中国は長期的な戦略で邁進しています。アメリカは自国の覇権、特に技術的な面で覇権を脅かすということで、警戒感を高めています。この米中対立以前にも、覇権をめぐってたびたび戦争が起こっています。これを「トゥキディデスの罠」といいます。ギリシャの歴史学者トゥキディデスが描いた、紀元前5世紀のスパルタとアテネの覇権争いが、ペルポネソス戦争につながり、アテネが勝利しました。このことから「トゥキディデスの罠」とは、覇権をめぐる競争が戦争へと繋がってしまうことを警告しています。
ハーバード大学のベルファーセンターで、グラハム・アリソン教授を中心に応用歴史学の「トゥキディデスの罠研究プロジェクト」が何年か行われていました。この研究の結果、過去500年間の歴史を詳細に振り返ると、新興国が覇権国を脅かしたケースを16件確認し、そのうち12件で戦争が起きたと報告されています。
現在、中国が新興勢力として事実上の強力な覇権国であるアメリカを追い上げていることは明白です。トランプ政権はその中国に対して、経済力を減殺すべく高関税を賦課しています。また戦略的に極めて重要な通信インフラの構築で世界をリードしているファーウェイをはじめとする先端ハイテク企業に対して、アメリカ発の部品や技術の輸出禁止措置という制裁を科しており、事実上の戦争状態に近いといえます。この対立が「トゥキディデスの罠」に陥って、本当の戦争に発展するのかという点を、世界は固唾を呑んで注視しています。
アリソン教授は、覇権国アメリカに強迫観念と警戒感を抱かせる近年の中国の激しい追い上げを詳細に記述していますが、その内容は省略します。
●アメリカの懸念と中国国家の独裁的傾向の高まり
この中国の急速な台頭の中で、アメリカの経済力が相対的に低下します。覇権の相対的低下に関しても、懸念が始まっていると指摘しています。アリソン教授によると、アメリカ人はなぜか経済の優位はアメリカに不可分の権利で、アメリカのアイデンティティの1つだという認識も、ナイーブなアメリカ人は持っているということです。
中国がここまで急激に台頭してきたのは、実はアメリカがとってきた中国を仲間に入れる戦略が間違いだったという考えが、今、対中強硬派に広く持たれています。中国の1980年代以降の急速な発展で...