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世界中で警戒感が高まっている中国の諜報戦略

米中ハイテク覇権戦争(6)5Gと中国脅威論:後編

島田晴雄
慶應義塾大学名誉教授/テンミニッツTV副座長
情報・テキスト
5G技術は、情報通信の速度と規模を劇的に改善し、世界の情報通信を大きく変革してしまうポテンシャルを持っている。もともとヨーロッパが開発の先鞭をつけていたが、ファーウェイは積極的にこうした国々と協業し、現在では国際的にも最先端の技術を開発している。アメリカはこうした動きに警戒感を高め、欧州各国に対して規制を呼びかけているが、各国ともに自国の検査に基づいて対応を決定している。(全9話中第6話)
時間:10:34
収録日:2019/11/20
追加日:2020/02/15
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≪全文≫

●5Gという技術はどのようなものか


 さて、キーワードとして指摘している5Gですが、どういうものなのでしょうか。5Gは、4Gに比べるとダウンロードの場合10倍の通信速度を誇ります。さらに、アップロードの場合でも、約6倍の通信速度といわれています。この通信速度の改善によって、従来に比べてはるかに早く移動端末から情報を吸い上げることができます。この技術を軍や諜報部門に用いれば、国家の需要に応える強力な武器になるというのは確かだと思います。

 この5Gは、移動通信システムが進化の結果として、ここまで発展してきています。1Gは音声通話、2Gはメールやウェブ、3Gはプラットフォームとサービス、現在用いられている4Gになって大容量のコンテンツが送れるようになりました。

 国際電気通信連合という組織があり、ここで世界的な協議をしてさまざまな取り決めを行なっています。2015年9月に提示されたビジョンで、5Gの3つのシナリオが明示されたのです。1つは高速大容量通信。2番目が超信頼・低遅延、つまり非常に正確ということです、3番目が多数同時接続で、これはIoTなどに用いることができます。

 この大容量通信はなぜ今まで用いられてこなかったかというと、5Gに割り当てられた電波帯が非常に高い周波数帯なので、これまでの技術ではそれを用いることができないという事情がありました。基地局のアンテナを集積する技術、そのアンテナから非常に減衰しやすい高周波の電波を高い指向性を持って端末に送る「ビームフォーミング」という技術を総合的に組み合わせて、ダウンロードでは最大20ギガbps(ビット・パー・セカンド)、アップロードでは10ギガbpsと、先ほどいったようにそれぞれ10倍と6倍の速度を実現しました。ファーウェイはこの技術をいち早くマスターして、実装しているのです。

 2番目のポイントは、超信頼・低遅延です。これまで用いられてきた4G技術で電波を遠くから送る際に比べると、5Gの遅延は1ミリ秒と約10分の1にする精度だそうです。これを実現するためには、短い経路で通信を完結する「エッジコンピューティング」という技術や、通信の制御系と伝送系の2本を分離して、並行する技術を組み合わせる必要があります。これに関してもファーウェイは最先端に立っているわけです。

 3番目に重要な点は、4Gでは基地局あたり100台程度の端末に同時にアクセスできましたが、5Gでは100倍の1万台程度にアクセスできるようになったことです。こうなると、例えば工場に数千台の機械があると、その全てにアクセスできるので、無人工場ができます。日本でも開発が進められている、端末と基地局のやりとりの事前許可を省略するという「グラントフリー方式」を、ファーウェイはいち早く実現しているのです。このように、ファーウェイが最先端を走っているわけです。


●ファーウェイは欧州との国際的な協業で5G開発のトップに立った


 実はファーウェイはこの地位に至るまでに、非常に苦労しています。5Gの国際基準の設定では主導権を握っていたわけではありませんでした。欧州には多くの国と大小の通信ベンダーがあり、彼らが主導権を握っていました。アメリカ、韓国、日本がそれに追随していましたが、欧州がファーウェイを受け入れたので、国際協調が成立しました。その間隙を突いて、懸命に努力をしたようです。

 ファーウェイは優れた企業との国際的な協業を最大限に活用して、5Gでも製品開発と供給を推進してきました。近年になって、ようやく世界の先端に立てたのです。ファーウェイは通信機器の性能、価格、製造と提供の速さ、サービスの質に注力をしてきました。

 例として基地局を挙げましょう。4Gの基地局は非常に大きくて重いものが多く、トラックで運ばなければならず、設置にも人手と時間がかかりました。5G基地局では、ファーウェイはこれを徹底的に小型化しました。日本の基準では、例えば25キログラム以上の場合は2人以上で運ばなければいけないのですが、ファーウェイは25キログラム以下、つまり1人で背負えるものを作りました。これを4Gの上に重ねて使うと、すぐに展開することができる。このようにして、世界中の顧客から非常に高く評価されて、急速に浸透してきたのです。

 ところが、米中ハイテク戦争の過程で、アメリカがファーウェイの5Gを使わないように世界に圧力をかけました。5G市場で大きな比重を占めている欧州では、2019年の3月にEU加盟国の取り組みとEUの取り組みに分けて、ファーウェイとどう付き合うかは加盟国に委ねるという決定を出しました。その後、トランプ大統領やアメリカ政府の高官が欧州各国を訪問して、ファーウェイを排除するように要求しましたが、イギリスのメイ首相は自国で検査した結果、特段の問題はないという結論が出たので、その要求を拒否しました。フランスやドイツ...
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