●5Gを使った新しい実証実験に成功
それでは、NTTドコモと東京大学中尾研究室が共同研究として取り組んでいる、5Gの実証実験のお話をさせていただきます。2019年11月に報道発表した案件なのですが、この度、5Gと水中ドローンを利用した漁場の遠隔監視の実証実験に成功しました。
この取り組みは、水産業界における労働者の負担削減を目指すものです。具体的には、広島県江田島市にある江田島湾で牡蛎(カキ)の養殖をしている、漁業従事者の方々のところにお邪魔した時のことです。
カキの養殖では、専用の筏を海の上に浮かべ、そこにカキをたくさんロープで吊るし、養殖をします。漁業に従事されている方は、毎回ボートを使って、実際にカキがどのように育っているかを見に行きます。しかし、こうした作業は、労働力不足と高齢化という観点からみても、大変な負担になっています。そこで、カキの養殖の進捗を、水中ドローンを使って遠隔で監視できれば良いのではないかということで、今回の取り組みが進められました。
●大容量通信だけでなく低遅延性を用いているところに特徴がある
5Gの性能のなかでも、大容量通信と低遅延性を使いました。水中ドローンで撮った映像を5Gで伝送し、漁業従事者が陸地で水中ドローンを操作しながら、その様子を確認するという実証実験です。
普通の5Gの実証実験と少し異なるのは、今回の場合、大容量の通信である映像をリアルタイムで配信するだけではなく、水中ドローンを実際に遠隔で操作するという点です。この操作は低遅延でないとうまくいきません。この実証実験は、大容量通信と低遅延通信という両方の性質を使ったユースケースであり、注目を集めています。
●5Gによってタイムラグのない水中ドローンの操縦が可能に
具体的な実証実験の仕組みを、上のスライドに示しました。エリクソン製の基地局とインテル製の移動局を使いました。インテル製の移動局はボートの上に乗っており、そこで水中ドローンと有線がつながれています。水中ドローンは、遠隔で5G通信越しに操作をされるのですが、同時にカキの養殖の様子を水中で捉えた映像が、同じように5Gの無線通信で陸地に送られます。
ポイントを赤字で示しました。水中ドローンのカメラで撮影した海中の映像を、陸上の5G基地局に向けて無線伝送をしつつ、並行してタイムラグのない水中ドローンの操縦信号を5G基地局から5G移動局に向けて無線伝送するというものです。
実際は28GHzのミリ波帯を使うので、非常に広帯域の伝送が実現できるのですが、今回の実験は、船舶をカキ養殖場の筏設置場所に合わせ、基地局から100~150メートルの範囲に停泊をさせて伝送を行いました。
●鮮明な画像の撮影に成功
これが水中ドローンからの実際の映像です。5Gの通信を通して、吊るされているカキがリアルタイムで伝送されている様子が、画面キャプチャーで表示されています。非常に綺麗で鮮明な映像が伝送されていることが分かります。また、操作者はタイムラグなく水中ドローンを操作することができました。われわれは、広島に行って約1週間この実験を行ったのですが、たまたま天気が良く、かなり良い映像が撮れました。関係者一同、非常に感動しました。
●2020年3月以降、一般の利用も可能に
上のスライドは、実験が実際にどのような場所で行われたのかを4枚の写真で示したものです。陸地からカキ筏までの距離は、数百メートルあるのですが、そこに5Gの通信基地局を持っていきました。この実験は、実験局免許を取得して行っているのですが、2020年3月以降は、5Gの公衆網が整備されることによって、自由にユースケースを使えるようになることが期待されています。
ただ、実際に実験してみると、船の上であるため波が高く、5Gのアンテナが上下に揺れるという問題がありました。しかし、こうした状況があっても、NTTドコモとの5Gの実験では、しっかりと5Gの伝送が行われることが確かめられました。
左下の写真は、私が水中ドローンを遠隔で操作している様子です。この日は風が強く寒かったのですが、かじかむ手で操作をしつつも、右下の画像のように、思ったところに水中ドローンを操作でき、カキの映像を捉えることができました。
●5Gを使うことでWiFi到達距離を拡張した
詳細について、もう少しお話しします。従来、水中ドローンはWiFiでの操作が多いのです。水中ドローンがWiFi端末の小さな機器に有線でつながっており、これが無線でスマートフォン側につながるというものです。スマホ側はWiFiの基地局として動作をするのですが、これでお互いに...