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武田と上杉の取次が行っていた外交上の巧妙な駆け引き

戦国大名の外交、その舞台裏(6)取次の働き:後編

丸島和洋
東京都市大学共通教育部 人文・社会科学系 教授
概要・テキスト
取次になるということが一つの利権になっていたことで、大名の意向とは離れて勝手に外交を進めてしまうケースがあった。しかしそこでも、取次の体面を守る為、大名がそうした外交成果を追認することもあった。こうして取次は、大きな責任を負いながら外交上の駆け引きを行っていく。(全8話中第6話)
時間:11:04
収録日:2019/06/13
追加日:2020/02/12
≪全文≫

●勝手に動き出す取次


 そのため、極端な場合、大名の重臣が大名の意向を確認せずに外交交渉を開始してしまう場合もあります。そのような場合、大名は通常怒るのですが、利害関係が一致すると考えれば黙認することもあります。すると、勝手に外交を始めた人間が取次になります。取次は制度ではなく、一種の契約関係を大名が追認するということもしばしばあったからです。

 これに関して、面白い事態があります。薩摩(現・鹿児島県西部)の大名・島津義久の弟に、島津家久という人物がいます。家久は非常に積極的な人物で、九州の国衆たちを降伏させようとあの手この手と動き、さまざまな手を打ちました。ただ、これは義久や島津家の宿老たちが関知していないことでした。にもかかわらず、家久が勝手に話をつけてきていたのです。

 まず、肥後(現・熊本県)北部に阿蘇大社という神社があります。この神主が国衆です。神主なのに国衆というとおかしな気もしますが、中世では珍しくありません。この阿蘇家は、島津家に敵対していた龍造寺に従っていたのですが、島津が次第に北に勢力を伸ばしてくると怖くなってしまいました。そこで島津家に降伏したいと言い出します。ところがその時、降伏するけれども、島津の領国内に散らばっている阿蘇大社の領地を返してほしいという条件をつけました。大きな神社の領地ですから、あちこちに存在していたわけです。

 しかし、これはどう考えてもおかしな話です。降伏する側が条件を出すからです。しかも、今まで島津は阿蘇家の降伏を門前払いしてきました。当然、これでは話が通るわけはありません。

 そこで、島津家もおかしいと思い、阿蘇家に「どういうことだ」と問い質しました。すると、「実は島津家久様と相談の上で申し上げました」、という返事が返ってきたのです。つまり家久は、阿蘇家を寝返らせようと勝手に色よい条件を提示してしまっていたのです。阿蘇家からすれば、何しろ義久の弟が出してきた条件ですから、安心してその話を持ち出したのです。ところが、島津氏の側は「いったい何の話だ」と怒ってしまったという次第です。それで阿蘇家は慌てて条件をひっこめました。この後、いろいろ揉めるのですが、最終的に、「まあ赦(ゆる)してやろう」ということになり、阿蘇家は島津家に服属することになります。


●勝手に動いた場合でも、面目を潰さないように取次...

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