戦国大名の外交、その舞台裏
この講義シリーズは第2話まで
登録不要無料視聴できます!
▶ 第1話を無料視聴する
閉じる
この講義の続きはもちろん、
5,000本以上の動画を好きなだけ見られる。
スキマ時間に“一流の教養”が身につく
まずは72時間¥0で体験
武田と上杉の取次が行っていた外交上の巧妙な駆け引き
戦国大名の外交、その舞台裏(6)取次の働き:後編
歴史と社会
丸島和洋(東京都市大学共通教育部 人文・社会科学系 教授)
取次になるということが一つの利権になっていたことで、大名の意向とは離れて勝手に外交を進めてしまうケースがあった。しかしそこでも、取次の体面を守る為、大名がそうした外交成果を追認することもあった。こうして取次は、大きな責任を負いながら外交上の駆け引きを行っていく。(全8話中第6話)
時間:11分04秒
収録日:2019年6月13日
追加日:2020年2月12日
≪全文≫

●勝手に動き出す取次


 そのため、極端な場合、大名の重臣が大名の意向を確認せずに外交交渉を開始してしまう場合もあります。そのような場合、大名は通常怒るのですが、利害関係が一致すると考えれば黙認することもあります。すると、勝手に外交を始めた人間が取次になります。取次は制度ではなく、一種の契約関係を大名が追認するということもしばしばあったからです。

 これに関して、面白い事態があります。薩摩(現・鹿児島県西部)の大名・島津義久の弟に、島津家久という人物がいます。家久は非常に積極的な人物で、九州の国衆たちを降伏させようとあの手この手と動き、さまざまな手を打ちました。ただ、これは義久や島津家の宿老たちが関知していないことでした。にもかかわらず、家久が勝手に話をつけてきていたのです。

 まず、肥後(現・熊本県)北部に阿蘇大社という神社があります。この神主が国衆です。神主なのに国衆というとおかしな気もしますが、中世では珍しくありません。この阿蘇家は、島津家に敵対していた龍造寺に従っていたのですが、島津が次第に北に勢力を伸ばしてくると怖くなってしまいました。そこで島津家に降伏したいと言い出します。ところがその時、降伏するけれども、島津の領国内に散らばっている阿蘇大社の領地を返してほしいという条件をつけました。大きな神社の領地ですから、あちこちに存在していたわけです。

 しかし、これはどう考えてもおかしな話です。降伏する側が条件を出すからです。しかも、今まで島津は阿蘇家の降伏を門前払いしてきました。当然、これでは話が通るわけはありません。

 そこで、島津家もおかしいと思い、阿蘇家に「どういうことだ」と問い質しました。すると、「実は島津家久様と相談の上で申し上げました」、という返事が返ってきたのです。つまり家久は、阿蘇家を寝返らせようと勝手に色よい条件を提示してしまっていたのです。阿蘇家からすれば、何しろ義久の弟が出してきた条件ですから、安心してその話を持ち出したのです。ところが、島津氏の側は「いったい何の話だ」と怒ってしまったという次第です。それで阿蘇家は慌てて条件をひっこめました。この後、いろいろ揉めるのですが、最終的に、「まあ赦(ゆる)してやろう」ということになり、阿蘇家は島津家に服属することになります。


●勝手に動いた場合でも、面目を潰さないように取次...


スキマ時間でも、ながら学びでも
第一人者による講義を1話10分でお届け
さっそく始めてみる
「歴史と社会」でまず見るべき講義シリーズ
概説・縄文時代~その最新常識(1)縄文時代のイメージと新たな発見
高校日本史で学んだ縄文時代のイメージが最新の研究で変化
山田康弘
インテリジェンス・ヒストリー入門(1)情報収集と行動
日本の外交には「インテリジェンス」が足りない
中西輝政
核DNAからさぐる日本のルーツ(1)人類の起源と広がり
人類の祖先たちの「出アフリカ」…その時期はいつ頃?
斎藤成也
大統領に告ぐ…硫黄島からの手紙の真実(1)ルーズベルトに与ふる書
奇跡の史実…硫黄島の戦いと「ルーズベルトに与ふる書」
門田隆将
豊臣政権に学ぶ「リーダーと補佐役」の関係(1)話し上手な天下人
織田信長と豊臣秀吉の関係…信長が評価した二つの才覚とは
小和田哲男
天下人・織田信長の実像に迫る(1)戦国時代の日本のすがた
近年の研究で変わってきた織田信長の実像
柴裕之

人気の講義ランキングTOP10
数学と音楽の不思議な関係(4)STEAM教育でつくる喜びを全ての人に
世界で最もクリエイティブな国は? STEAM教育が広がる理由
中島さち子
続・日本人の「所得の謎」徹底分析(2)政府債務と預金残高の背景
なぜ日本の所得水準は低いのに預金残高は大きいのか
養田功一郎
経験学習を促すリーダーシップ(2)経験から学ぶ力
米長邦雄のアンラーニング、弟子の弟子になってV字成長
松尾睦
「集権と分権」から考える日本の核心(5)島国という地理的条件と高い森林率
各々の地でそれぞれ勝手に…森林率が高い島国・日本の特徴
片山杜秀
外交とは何か~不戦不敗の要諦を問う(1)著書『外交とは何か』に込めた思い
外交とは何か…いかに軍事・内政と連動し国益を最大化するか
小原雅博
未来を知るための宇宙開発の歴史(9)宇宙開発を継続するための国際月探査
「国際月探査」とは?アルテミス合意と月探査の意味
川口淳一郎
第2の人生を明るくする労働市場改革(1)日本の労働市場が抱える問題
シニアの雇用、正規・非正規の格差…日本の労働市場の問題
宮本弘曉
戦前日本の「未完のファシズム」と現代(8)満州事変と世界大恐慌
「100年戦争」と考えて戦争に突入した日本の現実
片山杜秀
弥生人の実態~研究結果が明かす生活と文化(1)弥生時代はいつ始まったのか
なぜ弥生時代の始まりが600年も改まった?定説改訂の背景
藤尾慎一郎
海底の仕組みと地球のメカニズム(1)海底の生まれるところ
地球上の火山活動の8割を占める「中央海嶺」とは何か
沖野郷子