戦国大名の外交、その舞台裏
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大名の書状に付ける副状に秘められた取次の高度な外交戦略
戦国大名の外交、その舞台裏(5)取次の働き:前編
丸島和洋(東京都市大学共通教育部 人文・社会科学系 教授)
取次のさまざまな活動のうち重要なものとして、大名の書状に付す副状の作成がある。これによって外交相手に対して大名がどのような立場にあるのかを第三者の目から理解できるようにし、同時に家臣団とも一致団結していることが示された。こうした外交官としての重大な役割により、取次は一つの大きな利権になっていった。(全8話中第5話)
時間:9分57秒
収録日:2019年6月13日
追加日:2020年2月5日
≪全文≫

●取次の副状


 今回は、取次のさまざまな活動をもう少し掘り下げたいと思います。戦国大名の外交には、取次という外交官が大きな役割を果たしており、大名の書状に副状という書状を付して、大名の発言を保証するという役割があることは、これまでにお話ししました。こういった書状の作られ方について、面白い事例が残されているので、それをみていきたいと思います。

 例として挙げるのは、今の福島県南部の国衆である白河結城氏と、小田原北条氏の外交です。白河結城晴綱と北条氏康は友好関係にあり、しばしば書状を交わしていました。ところが、晴綱の耳に、不穏な噂が入りました。白河結城氏の宿敵であった常陸国北部(現・茨城県)の大名・佐竹義昭が北氏康と同盟を結んだというものです。その上、さらに婚約までしたという話が伝わってきました。仰天した晴綱は、氏康に事情を問い質す使者を派遣しました。

 使者が派遣された先は、北条氏内部で、白河結城氏との外交を担当している取次の北条綱成でした。北条綱成は、苗字から分かるように、北条氏の一門ですが、彼は相模の玉縄城を預かっており、小田原城にはいない存在でした。よって、綱成は、受け取った書状のなかに氏康宛の書状があるということで、ただちに小田原に転送しました。今度は氏康が驚く番です。

 氏康の弁明はこうでした。「確かに佐竹義昭が挨拶の使者を寄越したことはあり、これは認める。ただし、一度きりの話で、常陸という遠い国からの使者なので、追い返すのもどうかと思って、一度だけ、返事を出したのだ。同盟を結ぶなど、考えたこともない。もし佐竹を攻撃しろと言うのなら、一緒に実行しようと思う」。これが氏康の返事です。


●副状の命令書を一緒に送ってしまった


 面白いのはここからです。北条氏康は、取次である北条綱成に宛てて、副状を作りなさいという命令を記した書状を送りました。その際に、自分が白河晴綱に送った書状の写しを添付して、これを参考に副状を作りなさい、と指示しました。つまり、取次の発言と、自分の発言に矛盾が生じないように、配慮したのです。

 それを受け取った取次である綱成は、ただちに副状の作成に取り掛かりました。そして、晴綱の使者に書状を渡すことになるのですが、何を渡したかが問題になります。まず、氏康が晴綱に宛てた書状(返書)ですが、これはよいでしょう。次に取次であ...

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