●「女性は家庭を守るべき」という根強い考え方をどうするか
―― 働き方についてございましたが、黒田社長ご自身も、一度ご出産で退社され、3年後にお戻りになったというご経歴をお持ちです。もちろん男性にもありますが、女性が社会に出て仕事をしていくときには、出産とか育児、さらに年を重ねると介護の問題など、いろいろな家庭の問題が、非常に大きくのしかかってくると思うのです。「壁」というと語弊がありますが、そういう問題をどうクリアして、活躍していくかという点については、どのようにお考えですか?
黒田 私が結婚して子どもを産んだ頃は、ちょうど働いている女性と専業主婦の女性との割合が逆転した時期なのです。私の友人も、子どもを産んで働いている人と働いていない人がちょうど半分ずつぐらいでした。私の場合は、自分の実家だったり、主人の実家だったりとサポートしてくれる人がたくさんいて、それから区のサポートなどを積極的に使うことができました。
ただ、そういう時代でしたので、子育ての主体はまだまだ女性であり、家庭を守るのも女性の仕事という風潮が強かった。私自身もそうでしたし、私の周りでも自分で子育てをしないといけない、自分が家庭を守らなくてはいけないという意識が強すぎて、「周囲に頼れない」と聞いたことがあります。その部分については私たち女性が変わっていかなくてはいけないと、他の女性経営者の方とも話をしています。
―― もっとうまく頼るように変わっていくということでしょうか。
黒田 そうですね。幼い子どもをどこかに預けることに罪悪感を感じてしまうお母さんがまだ多いのではないかと、女性の経営者の方とよく話をしています。
―― そのあたり、まさにご自身で体験しているからこそわかるのですね。
黒田 私自身、自分の実家だったり、主人の実家であれば罪悪感はないのですが、ベビーシッターになると、寂しい思いをさせているかなと思ってしまうのです。ただ、長い目で見たら、お母さんがいないわけでもありませんし、母親が無理してイライラするよりもいいかもしれません。ですので、女性自身が気持ちを切り替えなくてはいけないと思います。
あとは、なんと言っても日本人の男性には、働く女性に対して「なぜ、家にいないのだろう」と思う気持ちを変えてもらわないといけませんね。
―― 特に子どもが小さいうちは家にいてほしいと、男性は考えがちですね。
黒田 男性のなかには、子育ての「手伝いをしている」という感覚を持っている方も多いと思うのです。
―― 耳が痛い話ですね。
●「やる」と「手伝う」という決定的な違い
黒田 今でこそ手伝ってくれる男性は増えていますが、まだまだ「手伝い」なのです。一方の女性たちは手伝っているのではなく、やっています。例えば、私も主人に子どもを見てもらって、プライベートで飲みに行くことがありますが、「空いている?」と聞かなければいけません。
―― なるほど。
黒田 だけど、主人は「行ってくるからね」と言って、飲みに行きますよね。私が飲みにいくとき、主人は「行っておいで」と言ってくれるし、預かってくれますが、女性の場合は「預かってくれる?」と聞かなければいけないというのは、男性と女性の意識の大きな違いだと私は思っています。
―― 「今日は飲み会だから」で済む世界かどうかということですね。
黒田 そうですね。
―― おおいに耳が痛い話で、若い方は比較的変わってきているとは言いますが、社会全体として意識を変えていかないといけませんね。
あと、東横インの場合は、女性が多い職場だからこそ、ロールモデルがあるという話がございましたが、すでに子育てを経験された方、実際に介護に直面された方が、支配人さんにも、社員の方にもいらっしゃるでしょうから、「ああ、この人はこうやっていたのだな」とわかることのよさもありますね。
黒田 女性ばかりの職場ですから、「こういうことを抱えていて、仕事とどう両立すればいいのか」というようなプライベートの相談ができる相手、見本になる方が職場にいるというのはありますね。
黒田 「そうよね。大変だよね」と理解してもらえる。それだけでもいいのかもしれないですね。そういう意味では、子どもが大きくなった支配人から、「そうよね。中学受験のときは大変だよね」という対話が自然と出てくる会社ではありますね。
―― 女性役員のお話もありますが、どれだけ先行事例、ロールモデルになるような方を組織内につくっていけるかが大切ですね。世の中全体では、今それが行われている最中で、これからどんどんよくなっていくのだろうとは思いますが、どう蓄積していくか、どうつくっていくかについて、東横インでは積極的に先行してずっとやってきている。だからこそ、いい組織風土ができあが...