●25時間勤務――独特な勤務形態のメリット
―― さらにお聞きしたいのが、働き方の部分です。東横インはホテルということもあって、独特の勤務体系を採っていると伺っています。そのことが、ある意味で女性が働きやすい環境となっていると思うのですが、どのような働き方なのかを教えていただけますか?
黒田 ホテルは365日24時間開いていますので、自分で「休む」と決めないと、休めないのです。どこが繁忙なのかは、各店舗によって違うため、会社からも「ここで休みなさい」というのが難しい。また、支配人たちの中には、お子さんを抱えた方も多く、中抜けしてもオッケーなので、自分で時間をコントロールするようにと言っています。たとえば、保護者会に行って、帰ってきて仕事を続けるとか、夕飯をご家族と一緒に召し上がって戻ってきて仕事をするとか、自由にしていただいています。
また、レアケースではありますが、ずっと専業主婦をしていたけれど、突然、ご主人がご病気で倒れられて自分が働かなければいけなくなった方もいらっしゃいます。ご主人がご飯の用意を自分でするのは難しく、ご飯の用意をするために一度戻って、それからまた会社に出勤するという働き方をしています。ご本人が大変なことには変わりありませんが、そういった女性にとっても働きやすい会社だと思います。
もう1つ特徴的なのが、フロントの働き方で、25時間勤務をしています。東横インをご利用いただいた方はお分かりになるかもしれませんが、チェックインのときにお迎えしたフロントとチェックアウトでお送りするフロントは同じ顔なのです。
―― なるほど。
黒田 8時間交代だとフロントが代わってしまうのですが、東横インは朝10時半に出勤して、翌朝の11時半に退勤するという25時間勤務をしています。もちろん休憩はその中に入っています。そして、11時半に退勤した日を含めて3日間はお休みです。
―― 例えば月曜日の10時半に出勤して、火曜日の朝の11時半に終わった場合、どうなりますか。
黒田 火水木と休んで、金曜日の10時半に出勤することになります。1カ月に8回だけ勤務すればいいので。
―― 月に8回、出勤すればいいということですね。
黒田 そうです。その間、資格の勉強をしている方もいますし、1回有給休暇を使えばかなり長い間休みが取れますので、海外旅行にも行けますし、少し大層な言い方になりますが、自己研鑽のために使っていただいています。
あと、最近は、フロントに男性も増えていて、なかには、奥様と一緒に子育てをしたいから東横インのフロントになった男性もいるのです。彼は、勤務が明けた日から奥様と一緒に子育てができる、子育てにいい環境だと喜んでフロントをやってくれています。それは女性も同じで、夜の勤務のときの一晩だけ見てくれる方がいれば、保育園のお迎えから子どもと接することができるのです。
―― なるほど。
黒田 とはいえ、必ずしもご主人がその日に帰ってこられるかどうか分かりませんし、お祖母様、お祖父様のサポートを受けられるかも分かりませんので、実際にはその一晩が少し大変なのです。
●女性だけでなく、男性にも嬉しい勤務形態
―― 例えば午前9時から午後6時とか、8時間べったりいなくてはいけないというのが、多くの会社での働き方です。もちろんホテルという仕事柄というのは多分にあるとは思いますが、比較的自由度の高い勤務ができるのは、家庭をお持ちの女性からすると、だいぶいろいろな選択ができる形ですね。
黒田 そうですね。働き方改革関連法で、有給休暇を必ず取るようにということがありますので、1年に5日間休んでいるかを管理するようになりましたが、以前はその部分についても任せていました。
―― 今後、女性が働いていくにあたって、どういう勤務形態が社会に増えていくとやりやすくなると思いますか? 別の言い方をしますと、例えばフロントでいえば、女性だけでなく、男性でも子育てのために使う方もいらっしゃるということでしたが、自由な勤務形態にしていることのメリットを、社長としてどのようにお感じになりますか?
黒田 フロントの25時間勤務というのは、採用のときにも説明が難しく、「そんなことできるのでしょうか」と恐れおののく方もたくさんいらっしゃいます。ただ、実は今勤務している方は、「8時間勤務に変えます」と言うと大反対するのです。
―― 大反対なのですね。
黒田 今の勤務形態を続けたいと言います。たしかに1回の仕事は大変ですが、その後長く休みが取れることをとても喜んでくれているフロントが多いのです。もちろん、年齢を重ねていくと、25時間勤務はきついとなることもありますので、大型店舗であれば25時間勤務以外に穴を埋めていくシフトがあって、日勤で来るフロントがいる店舗もありますので、そういっ...