●給与とは別途支給される「インセンティブ」とは?
―― 女性が多い職場で、社員の皆さん、チームのモチベーションをどうやって上げていくかという点について、東横インならではの工夫はございますか?
黒田 一番特徴的なものはインセンティブの仕組みだと思っています。
―― インセンティブですか?
黒田 いろいろなインセンティブがありますが、特に当社は稼働率にこだわっています。
―― ホテルの客室がどれだけ埋まったかというものですか。
黒田 はい。売上高ではなく、とにかくお客様を何人入れることができたか、何人のお客様にご利用いただけたかをとても大事にしています。ですから、基本給とは別に、稼働率が高くなればインセンティブが上がる稼働率連動奨励金を支給しているのです。
―― 奨励金があるのですね。
黒田 数あるインセンティブのうちの1つですが、自分の店舗の稼働率に応じて支給するもので、同じ店舗で働くスタッフはすべて同じ率で支給しています。例えば先月、85パーセントの稼働率となった場合、ある係数を基本給にかけることになります。基本給が違うため、額としては支配人が一番大きく、パートの方は出勤の多い人が多くなるようになっていますが、係数については店舗の全スタッフ同じなのです。
―― 高い稼働率を達成した場合には、皆さんもらえるのですね。
●あえて給料日と違う日に「現金」で渡す
黒田 そうです。スタッフ全員で店舗の稼働率を上げるという意識を高めてもらう狙いがあるため、パートの清掃スタッフから支配人まで、全員がもらえるようにしています。同じ係数で渡せるということに加えて、渡す日も工夫しています。給料日が20日なのですが、給料日と給料日の間にインセンティブを渡すようにしているのです。
―― 10日あたりでしょうか。
黒田 そうですね。20日にもらえるのは普通のお給料で、ちょうどお給料がなくなってきた10日ぐらいに、あえて違う封筒に入れて現金でインセンティブをお渡しするようにしています。支配人たちから全スタッフに、「先月の稼働率はこれぐらいだったので、こういうインセンティブですよ」と渡すのです。
インセンティブにはいくつか種類があって、例えばフロントは、会員を増やす役割を担っていますので、何人会員を増やせたかということもインセンティブに入っています。ですから、「あなたは先月会員を何件取ってくれたから、この金額です」と言いながらお渡ししています。
―― 10日あたりに、稼働率も、会員さんの分のインセンティブも含めてお渡しするのですね。これはなぜ、10日にやることになったのですか?
黒田 インセンティブは、賞与のように給与の何カ月分も入っているわけではありません。パートの方で何千円、フロントの方でも数万円程度なのですが、お給料がなくなった頃にもらえると、ありがたみも違います。また、金額の多寡にかかわらず、先月の結果をすぐもらえるということも大きいと思っています。
―― そこは大きいですね。ホテルが一丸となって達成したことが、31日なら31日で締めたものが、半月後に結果としてすぐに来る。速攻で大入袋がもらえるようでうれしいですね。
●手間がかかる作業をやめられない理由
黒田 そうですね。支配人には別途、本社で支配人全員分の現金を封筒に入れて、支配人会議でお渡ししています。支配人の場合は稼働率奨励金だけではなく、ほかにマネジメント能力を問うような係数もあるため、そういったものも含めてインセンティブとして入っています。基本給とは別にもらっている自分のがんばりそのものなので、封筒をそのまま12カ月分貯めて、息子さんが高校に進学するときの学用品にあてたという支配人もいて、その話を聞いたときはとても感動したことを覚えています。そういう使い方ができると、がんばる意欲も湧きますよね。「次は次男にそうします」と言われて、私もとてもうれしかったですね。
―― 初めから「これを子どものために使おう」という目標設定をされて、それに向かってがんばられたわけですね。
黒田 社歴が長くなれば、ある程度当たり前になってしまうかもしれませんが、社歴の浅い支配人ほど、仕事を覚えるのも大変で、責任も重いため、インセンティブの重みを感じてくれると私は思っています。
―― そうですね。今の時代に現金というのも珍しいですよね。最近は、給料も明細1枚で、「ご苦労様でした」ということになりがちですが、現金にこだわっている理由は、どういうところにあるのですか?
黒田 そうですね。手渡しをしたいという気持ちでしょうか。
―― 現場でいえば、支配人が全スタッフの方に現場で手渡ししたいということですよね。
黒田 そうです。
―― 支配人としては、やはり一体感というか、皆を労えるからでしょうか。
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