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「あなたの大統領」として語りかけて述べた「選民思想」

2020年度独立記念日演説と第2次米国革命(3)独立記念日演説の核心その1

東秀敏
米国安全保障企画研究員
情報・テキスト
ここからは4回に分けて、独立記念日演説の核心に迫っていく。1回目の今回は、まず演説の論理構造を支える「ヘーゲル弁証法」を理解した後、テキストの吟味に入る。トランプ支持層に訴える「米国例外主義」「謝罪外交からディール外交へ」さらに「全体主義に対抗する選民思想」と、冒頭から見どころは多い。(全7話中第3話)
時間:13:10
収録日:2020/07/29
追加日:2020/10/08
カテゴリー:
≪全文≫

●演説理解のために「ヘーゲル弁証法」を知る


 ここからは、独立記念日演説の核心に迫りたいと思います。

 まず、ラテン語に「Ordo Ab Chao」という言い回しがあり、英語訳は「Order out of Chaos」になります。つまり「カオスから生まれる秩序」というスローガンです。これはカトリックのスローガンでもあり、他の団体でも使われています。

 これは、ヘーゲル弁証法の政治適用の例として挙げられますが、トランプ氏の戦略として、このスローガンの本質はかなり重要なものです。

 ヘーゲルの弁証法では「テーゼ」と「アンチテーゼ」を見いだし、それらを止揚(統合)して「ジンテーゼ」に上昇させます。

 まず、「テーゼ」というのは命題です。例えば現在の問題や敵などがこれに当たります。これに対して「アンチテーゼ」は反対命題で、対抗策や味方になります。これらを「止揚(上昇)」する、すなわちテーゼとアンチテーゼを闘争させて生まれるのが「カオス」で、「ジンテーゼ」(合)となります。これは、革命や新制度ということになります。


●今回の演説の要点と「ヘーゲル弁証法」


 今回の演説の要点をヘーゲル弁証法から見ていくと、まず一番目に論理構成として、米国の偉大なる精神の発揚=米国例外主義をもってトランプ支持者をかなり扇動しています。そして、二番目に米国史におけるトランプ側の正当性の確認をします。つまり、民主党側との区別を明確にするのですが、ここで「選民思想」的なロジックが出てきます。

 第三段階で、ヘーゲル弁証法が始まります。まず、敵対勢力の指名をするわけで、トランプ側にとって敵とは何かというと、「左翼文化革命」で、これがテーゼとして成り立ちます。第四に、対策案の明確化がなされます。これが、トランプ側の対策案としての「米国革命」で、アンチテーゼになります。

 第五に、左翼文化革命vs米国革命からなる闘争というのが出てきます。これが止揚の段階で、カオスが出てくるわけです。まさに今、全国で行われている暴動が、この止揚の段階になります。第六に、「第二次米国革命」が出てきます。これはジンテーゼで、テーゼとアンチテーゼを融合させたものなのです。


●記念日演説にみる「米国の偉大なる精神の発揚」


 それでは、演説のテキストをもとに1個1個確認していきましょう。まず第一に、「米国の偉大なる精神の発揚」。つまり「米国例外主義」についてです。

 それにあたる文章を、まず英語で読みます。

“We gather tonight to herald the most important day in the history of nations: July 4th, 1776. At those words, every American heart should swell with pride. Every American family should cheer with delight. And every American patriot should be filled with joy, because each of you lives in the most magnificent country in the history of the world, and it will soon be greater than ever before.”

 これは米国を非常にベタ褒めしている内容です。日本語訳を読みます。

「我々は今夜諸国の歴史の中で最も重要な日を称賛するために集うのであります。その日とは1776年7月4日であります。これらの言葉を述べるにあたり、米国民一人一人の心が誇りに満たされるべきであります。米国民の家族一つ一つが喜びに歓呼を上げるべきであります。米国愛国者の一人一人が喜びに満たされるべきであります。なぜなら、皆さん一人一人が歴史上最も偉大なる国に住み、そしてその国は以前よりさらに偉大になるでしょう。」

 以上、強烈な米国例外主義を、うまく表した文章です。


●「米国例外主義」への踏み込みと米国保守層


 次に、「米国例外主義」の内容にどんどん踏み込んでいきます。まず英文をお聞きください。

“Our Founders launched not only a revolution in government, but a revolution in the pursuit of justice, equality, liberty, and prosperity. No nation has done more to advance the human condition than the United States of America. And no people have done more to promote human progress than the citizens of our great nation.”

 日本語訳を読みます。

「我々の建国の父は、政府における革命を起こしただけでなく、正義、平等、自由、繁栄の追求に革命を起こしたのであります。米国以上に人間の環境の向上に努めた国はありません。そして、我々の偉大なる国の市民より人間の進歩を奨励したものはいません」

 これは非常に重要なくだりです。このような「アメリカがベストである」と言い切る演説は、過去数年たいへん少なくなっていました。特にオバマ時代には、アメリカ例外主義が否...
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