●「エクソダス」に始まるユダヤ人の歴史
皆さん、「エクソダス(出エジプト)」というストーリーを知っていますよね。モーゼが率いてあの紅海を渡り、ユダヤ人がエジプトから脱出する、という話です。あれは、『トーラ(モーゼ五書)』というユダヤ教の聖書に書いてあります。それを、キリスト教者たちが勝手に『旧約聖書』と位置づけたのです。ですから、ユダヤ人はものすごく怒っています。
なぜ、ユダヤ人の聖書を『旧約聖書』と言い、もう一つ、『新約聖書』をキリスト教徒は持っているかというと、イエス・キリストが生まれた以降は新約聖書、それ以前は神話だから『トーラ』だと言っているのです。「ふざけるな、『トーラ』の方が本当の人類の歴史である」と、ユダヤ人は思っています。その中に「エクソダス」の逸話が出ているのです。
エジプトから救出されたユダヤ人は、パレスチナに帰ろうと戻ってくるのですが、なんと50年間、砂漠で待ち続けてパレスチナに入らなかったのです。イスラエル人に「なぜ、そんな変なことをしたのか」と聞きましたら、「一回奴隷になった人間は、新しい国をつくる資格はない」という理由でした。ですから、皆、死に絶えて、子どもたちの世代になってパレスチナに入ってくるのです。
●ダビデ、ソロモン、ヘロデ―ユダヤが誇る大王たち
今は神話のようになっていますけれど、そのときにダビデ王が巨人ゴリアテをやっつけたという逸話があります。日本で言えば『古事記』のようなものです。このダビデ王は武力の王者としてずっと君臨していましたが、「殺戮(さつりく)者である」という理由で神殿を建てる資格がなかったのだそうです。しかし、彼の息子のソロモン大王は、手が血で汚れていないので、素晴らしい第一神殿をエルサレムのど真ん中につくるのです。
ところが、それからほどなく、バビロンという強国により、ユダヤ人はまた全員奴隷になってしまいます。バビロンに連れていかれ、何十年かして再びエルサレムに戻ってくる。そのときにヘロデ王を頂くのですが、このヘロデ王が第二神殿をつくります。ここは現在、一部、現物が残っています。
●ローマ帝国と同等の力を誇ったユダヤの栄華の時代
ヘロデ王は、第二神殿をエルサレムの小高い丘陵地につくりました。それは非常に大きなもので、丘陵地を埋め立てているというか、土盛りをして平地をつくったのです。12メートルの相当な高さの土盛りをしています。盛り土をして、一辺500メートルという大きな区画をつくり、そのど真ん中に高さ60メートルの神殿をつくりました。12メートルの上に60メートルですから、「上にあがったらローマが見える」というような気概を、ユダヤ人たちは持ったのだと思います。素晴らしい所です。ちなみに「嘆きの壁」というのがありますが、これは第二神殿の西側の壁の残骸の一部です。
ヘロデ王はまた、マサダという岩山に大変な宮殿をつくりました。この写真は模型なのですが、このような宮殿だったようです。500メートルの急峻な岩山のてっぺんに建っています。
1階はヘロデ王が来たときに、自分の宮殿として使います。2階がバルコニーになっていて、賓客が来たときに、ここでパーティーをしたのだそうです。3階は、臣下や従業員、その家族が住んでいて、倉庫があり、なんと温泉があるのです。ここに保存されていたのは、最高級のワインや家具で、それらは全部、ローマの皇帝が使っていたのとほとんど同じものを置いていたのです。
それは何を意味しているかというと、ヘロデ王は、「小さな国だけれども、大ローマ帝国に比肩する誇りを持った国の王なのだ」と言いたかったのだと思います。ですから、ここへ賓客を招くと、「なんだ、ローマと同じではないか」と皆が思ったのではないかと思います。
『テルマエ・ロマエ』をご覧になった方もいると思いますけれど、ローマ人は温泉好きですから、この宮殿には温泉があるのです。なぜ、岩山で雨が降らない砂漠に温泉ができるのかというと、これがすごい造りなのです。
朝晩の気温の変化で、岩山にちょっとした水滴ができる。その水滴が、一滴も漏らさずに全部誘導されて溜まるようになっている。1年に1回でも雨が降れば、全部それが溜まるようになっていて、温泉にするほど溜めている。頭のいい人たちですよね。そういう栄華の時代があったのです。
●マサダ砦におけるユダヤ最後の戦い
ところが、彼らはローマ帝国のご機嫌をどこかで損ねてしまったのです。ローマは、この頃そろそろキリスト教になろうとしており、ユダヤ人はイエス・キリストの処刑に加担した民族ということになっていますから、いろいろなものがあったのでしょうが、状況はユダヤ人にとってうまくいかず、とうとうローマ軍がエルサレムに攻め寄せて...