テンミニッツTV|有識者による1話10分のオンライン講義
ログイン 会員登録
テンミニッツTVは、有識者の生の声を10分間で伝える新しい教養動画メディアです。
すでにご登録済みの方は
このエントリーをはてなブックマークに追加

「黄金のリンゴ」という神話が意味するもの

神話の「世界観」~日本と世界(4)不老不死と「黄金のリンゴ」

鎌田東二
京都大学名誉教授/上智大学大学院実践宗教学研究科特任教授
情報・テキスト
北欧神話と日本神話の決定的な違いは終末論の有無であり、そこから死の問題へとつながっていく。不老不死は人間の探求する一つの究極の理想ともいえるが、それと関連する神話として「黄金のリンゴ」という物語がある。それはどういうものなのか。(全8話中第4話)
※インタビュアー:川上達史(テンミニッツTV編集長)
時間:12:06
収録日:2020/12/07
追加日:2021/10/10
≪全文≫

●北欧の環境が終末論をつくった


鎌田 日本神話の楽天性がどこから生まれてきたのかといえば、やはり気候風土が1つの基盤にあります。日本という気候風土は人々が住みやすく、いろいろな変化はあっても、その変化の中で人間にいろいろな恵みがもたらされてきます。そのため、手にかけながら栽培をしたり、さまざまに手当したりしながら維持していけば、実りはずっと続いていく。このような生活感覚があったから、楽天的な神話が維持されてきたのだと思います。

 ところが北欧神話ですが、(北欧では)夏は白夜で、夜も明るいような日が続きます。しかし冬になったら数時間しか日照時間がないなど、ほとんど闇に閉ざされている。そのような気象環境、自然風土の中で育っていくと、世界が闇に包まれてくるという考え方が、当然ながら出てきます。

 そして、神々には2つの戦いがあります。夏と冬もそうですが、氷の世界と火の世界、昼の世界と夜の世界といった2つの戦いの中で、破壊と新しい打開が繰り返されるのだけれど、最終的には破滅してしまうという終末論的な考え方が出てきます。北欧神話の中には、そういった終末論的な世界最終戦争のようなものが起こり、そして神々も世界も滅んでしまうといった物語があるのです。

―― 神々も含めて滅んでしまうわけですね。

鎌田 神々も最終的には不死ではありません。日本の神々も死にます。神々の中には不死の神と死ぬ神の両方があります。日本の神々はほぼ死ぬのですが、でも神々の死は単なる死ではありません。死んでもずっと霊性として祀られ続け、存在し続けていると考えられているので、いわゆる人間が個体として死ぬというものではないのです。

 イザナギノミコトは死んで黄泉の国へ行くとなっています。でも黄泉の国で1つの存在性を発揮し、黄泉の国を動かしていくような力を持つ神になるわけです。

 オオクニヌシノカミも国譲りをした後、幽世(かくりよ)に行って、幽世の神としてこの世界を霊界のほうから支えるという位置づけになっていきます。このように、神々は死んでも、また違う存在性として働き続けていくという考えはあります。けれど、まったく死なない(不死)というわけではありません。


●人間が求め続けた不老不死


鎌田 その中で(北欧神話とか、ギリシャ神話では)「黄金のリンゴ」という神話物語があります。不老不死は、人間の探求する一つの究極の理想みたいなものですね。

―― 死なないということですね。年も取りません、死にません、と。

鎌田 秦の始皇帝がそうでしたね。ギルガメシュ(メソポタミア神話に登場する伝説的な王)も不老不死を得ようとしました。

―― 仏様もブッダも「なぜ死ぬのだろう、なぜ病気になるのだろう」という考えから悟りを開くわけですから、逆説的にいえば、どうやってそれを手に入れるかというのは非常に大きな目的だったのではと思います。

鎌田 そうですね。死生観といいますか、「生老病死」の死の問題は必ず人間が直面する大きな課題になります。死の恐怖、死の不安、死によって何かが終わってしまう――。死は一つの個体としての終末になるので、死を乗り越えるという思想は必ずどこかで出てくるわけです。

 死を乗り越える思想とは、「不老不死の何かがあるのだ」というものです。不老不死の薬なり木の実なりがあり、それを取ってきて食べる、あるいは投薬すれば、不老不死になることができる、というのです。

 今、臓器移植やAIにつないでサイボーグ化するなど、一種の不老不死に近いようなものを技術的に人間社会は作り上げているでしょう。そう考えると、不老不死への要求は人間社会の中に求められ続けている神話的な理念の1つといえるかもしれません。私は不老不死など絶対にほしくないし、死なないというのはかえって恐ろしいと思います。だけども一方で、不老不死を求めてきた歴史も強烈にあるのです。

 秦の始皇帝は徐福に不老不死の薬を探させて、それが日本の新宮、熊野に上陸したとか、あるいは他の所に上陸したという徐福上陸伝説(徐福神話)といった伝承が各地にあります。日本は不老不死の薬が実っている国だと思われていたということです。そして後には「黄金の国ジパング」ともいわれます。これは実際に金が出るというだけではなく、不老不死伝説とつながっていく神話的表象(イメージ)が極東の日本に付与されていたのだと思います。

 その北欧神話やギリシャ神話の中では、「黄金のリンゴ」が神話的シンボルとして出てきて、これが不老不死の象徴的果実になります。この「黄金のリンゴ」を食べると、不老不死になる。これはギリシャ神話においても北欧神話においても共通しています。


●日本神話で「黄金のリンゴ」に該当するもの


鎌田 この「黄金のリンゴ」に、日本神話の中では少...
テキスト全文を読む
(1カ月無料で登録)
会員登録すると資料をご覧いただくことができます。