●中国共産党が持っていた革命思想
―― (学校などで)民主主義についての授業でも習いますが、ある意味では権力はどうしても暴走します。そうならないように、例えば三権分立で権力を分立させてお互いにチェックを働かせるとか、法律で君主が暴走しないようにチェックをしていく仕組みをつくり上げてきたのが近代国家だと思います。日本もそうです。
しかし、例えばソ連の共産党やナチスドイツ、あるいは中国共産党のような、いわゆる党が国の上にある全体主義国家では話が少し変わってくるということですね。
橋爪 はい。出来がそもそも違うので、三権分立や議会制民主主義など法の支配は馴染みません。そういうものを超えている別なシステムです。
例えると、まずナチスはがん細胞で手術するのが大変でした。そして、ソ連もがん細胞で退治するのに70年近くかかりました。ではこれをどう治療するのかというと、放射線治療や化学療法、または外科手術や免疫療法などいろいろあるのかもしれませんが、どうしたら治癒できるかはよく分かりません。
―― それを考えるのに、先生は中国共産党がこれまで歩んできた道を本の中でひも解いています。もともと中国共産党が国よりも上にあることを認められていたのは、「正しい存在」だからです。いわゆる科学的社会主義に基づけば、革命が科学的に正しいものであって、それを分かっているのが共産党なので、その「正しい存在」として指導していくということですね。
橋爪 それは共産主義革命の原則で、共産主義は階級闘争が歴史の本質だと考えます。大多数の人々を抑圧する少数の悪い権力者たちがいます。その人たちは少数なのに支配権を持っていて、国家権力や資本を持ち、人民を抑圧するいろいろな手段があり、それを使って悪いことをやり放題です。人民は、数は多いのですが無権利状態に置かれています。
これを何とかするには、その人民を代表する革命の主体、「前衛」が必要です。頭が良くて、やる気のある知識人が集まって、任意団体をこしらえて、共産党をつくって、革命を指導します。そして、その団体である共産党が人民の応援のもと国家権力を奪取する、つまり政府を乗っ取ってしまう、そういう考え方です。
政府を乗っ取るためにはまず団体が存在し、それが政府を乗っ取るという順番です。共産党が政府より上にあるのはそういうことです。これは予定された行動です。
しかし、これは階級闘争を戦って、共産主義社会をつくり出すための必要な「手段」にすぎません。マルクスは、「革命が成就した暁には国家権力はなくなるし、共産党も必要なくなる」と考えていました。ですから、国家権力を奪取してプロレタリア独裁をやるのは、革命のための必要悪なのです。革命をやらないのであれば、こんなことをする必要はありません。
●中国共産党は革命をやらない、ただの独裁政権
橋爪 さて、中国共産党は革命をやるのかといえば、階級闘争の定義もありませんし、共産主義革命をやろうとも言っていません。つまり、ただの独裁政権です。
―― 毛沢東時代と鄧小平以降の時代では、性格が大きく変わったということですね。
橋爪 はい。毛沢東本人は、社会主義・共産主義革命をやろうとしていたと思います。
―― 文化大革命や反右派闘争など、だいぶいろいろな闘争をやって、国内で何千万人といわれますが、かなり大きな犠牲者を出しました。
橋爪 合わせれば1億人ぐらいになりますね。死んだ人もいましたし、多くの人がひどい目に遭いました。
鄧小平が具体的に何を考えていたかは分かりませんが、生産力理論に乗っかっていて、「生産力が高まって経済が発展しないと、社会主義も共産主義もないだろう」と考えました。中国の問題として、まず生産力が滞っていることを挙げ、共産党は生産力を発展させなければいけないと考えました。簡単にいうと、近代化しましょうということです。
―― はい。
橋爪 「近代化してから、何をするかを考える」という順番だったと思います。そのため、共産主義なのか、そうでないのかが本人も曖昧です。「社会主義市場経済」と言っているので、社会主義をやりたいのか、あるいは市場経済、つまり資本主義をやりたいのか、二枚看板だからどちらなのかよく分かりません。
その後、じゃんじゃんと誰もが目を見張るような経済成長をして、もうあまり経済成長しなくてもいい、世界経済のトップランナーのところまで来ました。そしたら、次の目標は人民にこの利益を還元して、良い国をつくるという方向にいくと思っていました。しかしそうではなく、「中国の夢」と言っていて「世界のリーダーとなって世界を仕切っていくので、よろしく」という話になっているのです。誰もそんなことは頼んでいません。しかも、そのやり方が中国風で国際社会の...