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コロナ感染症「危機のツケ」が今後の重要なテーマとなる

米中戦略的競争時代のアジアと日本(2)感染症拡大と不確実性の増大

白石隆
公立大学法人熊本県立大学 理事長
情報・テキスト
新型コロナウイルス感染症の拡大によって、世界的に不確実性がかつてないほど高まっている。先進国では経済が停滞し、所得格差も広がる一方で、中国経済は依然として成長を続け、国際的なプレゼンスを高めている。また、アジアの新興国はGDPが急激に上昇している。世界は今後どうなるのだろうか。(全7話中第2話)
(2021年11月24日開催島田塾講演「米中戦略的競争時代のアジアと日本」より)
時間:11:09
収録日:2021/11/24
追加日:2022/02/16
カテゴリー:
≪全文≫

●所得が倍増する新興国と停滞する先進国


 今まではずっとだいたい2019年までの話をしていました。しかし、新型コロナウイルス感染症の拡大で、今はずいぶんと景色が変わりつつあるので、それについて少しお話ししたいと思います。

 ここで最初に何が起こったかというと、もうご承知の通り、1つは不確実性が非常に高まりました。しかしそういう中でも中国はまだ伸びています。

 なぜ中国が伸びているかは、皆さんのほうがよくご存じだと思います。つまり、製造業の部門、すなわち“Global manufacturing value added”のところで中国がどんどんシェアを取っているからです。もっと分かりやすい言葉で言うと、中国が21世紀に入って世界の工場になってしまったということです。

 先ほど国力を経済の規模で見たときに、私は名目の数字を使いましたが、今度は1人当たりのGDPで見てみます。これは購買力平価で見ていて、特にこの表の場合には、それぞれの通貨の“constant price”(不変価格)で見ています。1人当たり実質でどのくらい所得が伸びたのかを、2000年と2019年の20年間の差で見ると、スライドのような形で伸びています。つまりインドネシア、あるいはフィリピンはだいたい20年で1人当たりの所得が倍になっています。さらに、ミャンマーは4倍以上になりました。しかしこれはクーデターの前です。そのため、ここから先はどうなるかというと、もちろん相当下がると思います。それから、ベトナムが2.8倍ぐらいになっています。やはり中国がすごくて、4.7倍ぐらいに伸び、インドも2.8倍ぐらいに伸びました。それに対して先進国は、日本の場合で20年かけて17パーセント所得が伸びましたが、それは日本だけではなくて、実は先進国のほとんどが所得の伸びは停滞しています。

 ここから何がいえるのかというと、私自身が一番重要だと思っているのは、こんなに長い期間、つまり20年にもわたって所得がかなりずっと着実に伸びると、当然のことながら、これからも自分たちの生活は良くなるに違いないと考えます。そのため、政府がその期待に応えられないと、政治は不安定化することが予想されます。それに対して、もう日本などでは、安定はしているけれど、あまりすさまじく伸びることは考えていません。私は実際に熊本で4年仕事をしていますが、特に熊本で若い人たちに会うと、自分たちの生活が良くなることをそんなに期待していません。その期待の違いが政治には結構効いてくると思っています。


●先進国と新興国の違い――自由、安全、豊かさのどれを優先させるか


 もう1つ、今度は感染症対応の中で面白いというか、もう少しきちんと考えておいたほうがよいと思ったことがあります。先進国と新興国では社会契約のあり方が違います。「社会契約」というと19世紀的な言葉に思えますが、実際にやはりそれぞれの国の国民の間にはそれなりの黙約のようなものがあると私は思っています。これが先進国と新興国ではずいぶん違うことがよく分かったと思います。

 先進国の場合、例えばアメリカではよく「豊かで自由な生活」といわれますが、それはアメリカ的な生活の一番基本なのだという考え方です。そういう考え方からいうと、日本や大陸ヨーロッパは、単に自由で豊かな生活ではなくて、自由で豊かで安全・安心な生活が、たぶん日本も含めた多くの先進国の理想です。アングロサクソンだけが少し違っていて、大陸ヨーロッパと日本は自由と安全と豊かさがあるのではないかと思います。

 どういうことかというと、アメリカの場合、ご承知の通り、例えばマスクをつけるのも自由に関わる問題として受け止められて、自由と安全の間のトレードオフをどう取るかで、実は民主党と共和党が対立し、あるいはトランプサポーターと民主党のサポーターが対立しました。そういう中での1つの答えとして、例えばジョー・バイデン大統領は新自由主義そのものを見直そうとしています。それに対して、例えば日本やドイツは、自由と安全のトレードオフだけではなくて、安全と豊かさのトレードオフや自由と豊かさのトレードオフなど、トレードオフが3つあります。これの答えの出し方は、政党では同じですが、政権によって少しずつニュアンスが違ってきています。

 それに対して新興国のほうはどこでもほぼ同じです。どこでも豊かさが第1で、安全が第2、自由は第3です。そのため、多くの新興国が権威主義的になっているとよくいわれます。これもある意味では、豊かさが第1であることを別の言い方でしているのに過ぎません。中国の場合には、特に安全と豊かさです。それも安全が圧倒的に大事で、豊かさが次で、自由は全...
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