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日本が戦略的パートナーシップを築くべき国とはどこか

米中戦略的競争時代のアジアと日本(7)日本の有事対応と戦略的パートナーシップ

白石隆
公立大学法人熊本県立大学 理事長
情報・テキスト
台湾統一を目指して圧力を強める中国に対し、日本でも台湾有事について盛んに議論されている。両者の緊張関係が続く中、有事の際の日本のあり方やその備えはどうすればいいのか。また、日本は少子化でこれから国力が弱体化していくとなると、どの国と戦略的パートナーシップを築くべきなのか。講演後の質疑応答編。(全7話中第7話)
(2021年11月24日開催島田塾講演「米中戦略的競争時代の アジアと日本」より)
時間:14:26
収録日:2021/11/24
追加日:2022/03/23
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≪全文≫

●有事に向けて、日本として何をしておくべきか


―― 習近平路線を見ていると、台湾有事がいずれやって来そうな気がします。そのとき、平時とは違う対応が迫られるが、日本は平和ボケしていて危機感が足りない。また有事法制も非常に脆弱だと思います。日本としては今、どういうことをやるべきなのでしょうか。

白石 これはなかなか微妙な話です。日本としては、抑止力を強化するというのが一般的な言い方だと思います。つまり、中国が台湾に対して侵攻するなり、ブロッケードするなり、あるいはその組み合わせでやってきたときに、そのコストを少しでも上げることが基本的なことです。そこについては、今のところ日米連携ではそれを旨として連携していると私は理解しています。ごく小さい規模ですが、台湾には米軍部隊もあります。これがある意味では、有事のときには人質になります。人質というと言い方は悪いですが、これがあるからアメリカとしても介入せざるを得ません。私はそちらに行く可能性もないことはないと思っています。

 それに対して中国が何をやってくるかというと、やはり日米の溝をどうやって広げて、日本の対米信頼、アメリカの対日信頼をどう崩していくかが、おそらく一番重要な政治的な手になってくると思います。それに対しては、理想的には長期的に日米同盟の双務性が鍵になります。

 しかし、これはご承知の通り、政治的にはなかなか難しいのです。そのため、できないかもしれないことを考えて、防衛費の増額や防衛力の強化、あるいは防衛産業基盤の強化をやらざるを得ないと思います。これが中長期の基本的な考え方です。

 有事法制は、ご承知の通り非常に不十分なものです。しかし、明日起きたら始まっていたというような突発的なことはおそらくないので、ある程度の余裕はあると思います。だから何もしないということではなくて、ともかくそれを考えて、今から少しでも動くことが大切です。

 それでは現に何が起こるのかというと、台湾本島への侵攻です。これはもう軍事的にどう考えても、日本の南西方面の制空権と制海権は中国を抑えないといけません。そうすると、自動的に日本の防衛になります。その意味では有事法制でも何でも、こういう形で中国がやってくる可能性は小さいと私は思ってはいるのですが、そのときには、自動的に日本は日本の防衛になり、日米同盟も発動されます。そのためのいろいろな軍事的準備は今から怠らないようにしておけばいいのです。

 一番悩ましいのは、日米同盟の範囲外にある南シナ海の台湾領を取りに来たときにどうするかです。これについて、それ以上は言いませんが、頭が痛いのです。


●「中国の夢」の実現と少子高齢化社会の到来


―― 「中国の夢を実現するのはこれからの20年」(第3話)という話について、それは少子高齢化によって今後、経済成長が押し下げられることへの重圧が大きくかかってくるからだと思ったのですが、具体的な想定はあるのでしょうか。

白石 おそらく少し誤解があります。私は「中国の夢」を実現するウインドウ(窓)、すなわちその機会は20年ぐらいだと思います。なぜかというと、20年ぐらいたつと、もう少子高齢化なので、社会保障のほうに相当厚く資源配分しないと、おそらく中国の政治的安定そのものが保てない時代に入ってくるからです。そのため、私の議論は繁栄ではなく、常に大戦略のレベルの議論です。日本ほどとは言いませんが、ひょっとしたらそこで戦略の転換として、これからの10年ぐらいの間に、例えば社会福祉や医療費、介護を今よりもはるかに手厚くやれば、政治的にも安定して、経済的にも国内のマーケットだけでこれからもそこそこ中国は成長していく可能性は十分にあると考えています。ただし、今のような野心は捨てなければいけません。このことを是非言っておきたいのです。


●タイとミャンマーとの連携には民主化が条件


―― ASEANについて、ミドルパワーとの連携、あるいは有志連合という話は非常に興味深いところです。これは特に、海洋国家のフィリピンやインドネシア、マレーシア、シンガポールとの連携を軸にして、陸のASEANとは少し一線を画せという話でしょうか。

白石 そこは碁でいうと、ここはもう地にするのを諦めろという意味ではありません。なれるものだったらなったほうがいいのです。私はその最初の基本的な条件を民主化だと考えています。

 タイの場合には、この2年ぐらい、つまりコロナ禍でのタイの政治、あるいはもう少し前の2019年の選挙以来のタイの政治を見ていると、基本的には所得格差や資産格差を基本にした対立があります。特に、東北タイと北タイと、バンコクのミドルクラスとアッパークラスの対立です。タクシンと王党派の対立から、明らかに世代の対立に変わってきています。

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