●アメリカは中国の戦略をどう理解しているのか
それに対してアメリカはどう対応しているのかというと、これは2017年の安全保障戦略に非常にはっきり出ています。中国は、アメリカに対抗する力を持つ唯一の現状変更勢力です。ロシアも現状変更勢力ですが、そこまでの力はありません。
その基礎にある考え方は、中国は民主主義にもならないし、市場経済にもならないということです。それでは中国はどうやって「中国の夢」を実現しようとしているのかを地政学的にいうと、これについてはアメリカにいる中国研究者が非常にうまい言い方をしているのでそのまま書きますが、“Koreas in, Japan down, US out”です。つまり、北朝鮮と韓国は自分たちの勢力圏に引っ張り込み、日本は敵対しないように抑え込む。そして、アメリカは追い出す。これが地政学だということです。
その中で、国内市場中心の経済成長を進めます。そして、「軍民融合」で軍事的な力をつけ、先端新興の技術分野でも優位を取り、中国中心の経済秩序を作ろうとしているのです。これがアメリカの基本的な判断だと私は思います。
このあたりについてもしご関心があれば、特にドナルド・トランプ政権の初期に安全保障補佐官や次席をやった人たちのメモワールが最近出ているので、そういうものを見ると非常にいいと思います。ここ(スライド)には書いていませんが、特にハーバート・マクマスター氏のメモワールは、中国に対するアメリカの見方を非常によく示しています。
●中国の脅威に対するアメリカの戦略とは
その中でアメリカの安全保障戦略はどうなっているのかというと、基本的にはドナルド・トランプ氏の下でもそうでしたが、現在のジョー・バイデン大統領の下でも同盟連携を基礎として「自由で開かれたインド太平洋」を維持するということです。
しかし、中国の軍事力の強化によって、アメリカの空母機動部隊などは中国の周辺海域にはもう近づけない状態になっています。スライドの図は『エコノミスト』からですが、どういうことかというと、前方展開戦略は見直さざるを得ないということです。
次に、先端新興技術における優位については、やはり研究技術開発投資を行って、同時に先端技術開発についての管理を強化しています。そしてその基盤となる、特に半導体のサプライチェーンを再編して、中国に肝心のところを押さえられないようにしています。それをスマート・シティとして、実際に5Gや“smart grid”、IoTや“smart car”などといった形で実際に社会実装していき、優位を維持するのです。
しかし、一国だけではできないので、技術開発やサプライチェーンについては同盟連携として「有志連合」と言っています。これは、例えば半導体、あるいは量子技術の研究開発で有志連合を組むといった形で出てきています。
それから、国際通商体制についても、WTOがうまく動かないのでどうしようということが、おそらくはそんなに遠くない将来に問題として出てくると思います。また、途上国・新興国に対しては一帯一路への対応という形でいろいろなことをやっていきます。その根拠の一つになっているのが、こうした軍事的なバランスの変化です。
●「国防授権法」の制定で中国への科学技術の流出を防ぐ
それから科学技術についてですが、2015年にはもうすでに中国はアメリカに次ぐ大きな技術大国になっていて、残念ながら日本はどちらかというと劣後し始めています。これは、たぶん2023年や2024年頃にまた文科省のシンクタンクであるNISTEP(科学技術・学術政策研究所)から次の版が出たときには、もっと大きく変化していると思います。
その中で、私は最近、特に経済安全保障に非常に関心を持っています。アメリカで何を経済安全保障としてやっているかというと、一つ目ですが、一番重要なのは2019年の「国防授権法」です。その中では、最先端技術の研究開発推進のために、ものすごいお金をつぎ込んでいます。 例えばAIや量子技術、それから極超音速や宇宙、サイバーです。また、指向性エネルギー、すなわちレーザーにもやっています。二つ目は、日本でもやっていた、投資管理強化です。三つ目に、輸出管理強化を行っています。四つ目は、政府調達の制限です。五つ目は、サイバーセキュリティの強化です。六つ目は、特に中国の「千人計画」といった、人材獲得のプログラムについても管理を強化しています。
こうしたことは、日本も2018年以降ですが、かなりやり始めています。特に、今ぜひ一ついっておきたいのは、こういう技術は、現在ではAI...