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米中問題で一番重要なのは「economic statecraft」

米中戦略的競争時代のアジアと日本(5)米中対立と揺れる東アジア

白石隆
公立大学法人熊本県立大学 理事長
情報・テキスト
同盟連携を基盤に対中国への姿勢を強めるアメリカに対抗し、大国主義のもと反発する国に容赦なく経済制裁を連発する中国。超大国同士の激しい争いの中で、東アジア、特に韓国と台湾は異なる立場を有している。日本はこの状況にどう向き合っていくべきなのか。(全7話中第5話)
(2021年11月24日開催島田塾講演「米中戦略的競争時代のアジアと日本」より)
時間:09:20
収録日:2021/11/24
追加日:2022/03/09
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キーワード:
≪全文≫

●対中戦略におけるアメリカの方針転換の流れ


 そういう中で何が起こっているかというと、アメリカは明らかに大戦略の転換をしました。

 オバマ大統領の時代には、インド太平洋戦略ということで、リバランシングとTPPでしたが、トランプ氏がTPPから抜けました。現在のバイデン政権もTPPに入るのは、議会との関係で非常に難しいので、結局、地政学的にはハブとスポークのシステムをいかに強化するかになっています。そこでQUAD(日米豪印戦略対話)を強化し、AUKUS(米英豪安全保障協力)をつくり、さあ、これから何をするかというところです。そこで基本的に重要なのは、南シナ海と、特に台湾をどう守るかです。それに対して韓国は、実はあまりそれに入りたくありません。それと同時に、地政学的には、ASEANの国々にどうエンゲージするかが非常に重要になっています。

 “geo-economics”では、特に新興国・途上国ではインフラ協力が大事です。そして、先進国同士、あるいは同盟国の間では、最近は“Trusted Partners”が非常に重要です。つまり、“Trust”=「信頼」が非常に重要になってきていて、その良い例が半導体です。信頼できる同盟国、あるいはパートナーとどういう形で協力するかという中で、特に科学技術イノベーションが重要になってきています。

 しかし、ここまで行くと、たぶん皆さんの中にももうすでに、「そうはいっても、どこまで信用できるのか」と思われている方もいると思います。アメリカの場合には、アメリカの社会自体がものすごく分断されているので、まだ揺り戻しはあると私は思います。おそらく次の新しい政治的な均衡が成立するまでには、二期では足りなくて、三期ほどかかるのではないかなと。つまり、楽観的といわれるかもしれませんが、これからまだ11~12年ぐらいはかかるでしょう。

 中国はやはり大国主義で、今はある意味ではきわめて自己中心的です。おそらく政策決定者の多くは、後ろを見ながらモノを言っているし、モノを決めているので、ここでも不確定性はものすごく上がっています。

 そういう中では当然のことながら、世界の中で不確定性が上がっていきます。新興国はやはりミドルパワーとして自信をつけているので、全部自国ファーストで、かなり“Opportunistic “(日和見主義)に動くようになってくると思います。


●米中戦略的競争にみる、中国の経済制裁の動き


 そういう中で重要なことですが、今回の米中対立では、偶発的に武力衝突のようなことがあると私は思います。そういう危険性は当然あって、実は心配している面もあります。しかし、おそらく一番重要なのは戦争ではなくて、“economic statecraft”です。 アメリカはその部分でサプライチェーンの再編や、新興技術開発における有志連合、あるいは自国でものすごいお金を投資しています。それに対して、中国は「自立更生」といいながら、気にくわない国にはどんどん経済制裁を連発しています。

 ここで1つだけフットノート的に申し上げておくと、経済制裁の対象は、第一に中国の国家戦略に影響しない分野で、第二に経済制裁しても代替ができる分野、そして第三にそのコストは消費者が広く負担する、そういう分野であると考えておくといいと思います。

 一番良い例がワインです。オーストラリアのワインに80パーセントぐらいの関税をかけます。これは、中国国家にとっては全く何の関係もありません。ある程度豊かな中間層以上に負担が広くいっています。別にオーストラリアのワインを飲まなくてもいいので、それこそチリのワインでも飲んでいればいいのです。これからは、実はこういうものをむしろ非常に注意しておかなければいけません。

 ここ(スライド)には書いていませんが、例えばトランプ政権のH・R・マクマスター氏(元大統領補佐官)の下で最終的には次席(大統領次席補佐官)になったマット・ポッティンジャー氏によると、「中国の経済制裁はこれからもっと厳しくなることを期待しておいたほうがいい。なぜかというと極めて理由は単純で、政府に対して直接何かを要求して、アメリカ政府や日本政府がそれに応えなくなれば、次にやるのは、そういう国のそれぞれのビジネスの非常に打ちやすいところを打って(ぶん殴って)、この人たちが政府に何とかしてくれというゲームをするはずだ」と。これは相当当たっていると私は思います。

 ただし、まだゲームは始まったばかりです。この図は、ファーウェイの5Gがどこに広がっていて、どこが禁止しているかを示したものです。まだ決まっていないところや、一応ファーウェイは入っていますが、まだどうか分からないところ...
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