●日本は中国とどのような関係を築くべきか
―― また、小原先生にお聞きしたいことがございます。以下もご来場の方からのご質問です。
「中国は将来、アメリカと競争して覇権国家を目指そうとしているのではないでしょうか。その目的は、いずれは日本の沖縄県尖閣諸島を中国のものだと主張し、権利を得ることではないかと思います。『一帯一路』で東南アジアでの経済成長を考えているようですが、はたしてどのようになるのか、先生のお考えを教えていただきたいと思います」
このご質問に、前回お聞きできなかった、「一帯一路」や「中国製造2025」といった中国の戦略を絡めて、先生がどのようにご覧なっているかをお聞きできますでしょうか。
小原 こうしたテーマは、グラスに水が半分入っているのを見て、「半分も入っている」と考えるのか、「半分しか入っていない」と考えるのかの違いだと思います。つまり、楽観論か悲観論か、リベラリストかリアリストか、ということです。どちらの立場を取るかによって、見方がずいぶん違ってくると思います。もちろん、このたびの新型コロナウイルスの問題によって、今後、中国の政治や社会、経済が良くなっていくという面もあると思います。だから、問題を一面的に見ないということが大事です。
●北京オリンピック以降、中国政治のメッセージは変わってきている
小原 「一帯一路」も、プラスの部分はあります。だからこそ日本は、「一帯一路」という言葉は使っていませんが、「第三国市場協力」という言葉を使って、中国との連携を図っています。これは日本の国益にも関わっています。日本企業に勤められている方々からすれば、中国経済の今の勢いを日本経済に取り込んで、日本の利益にすることは重要です。日米の同盟関係も頭に置きながら、それをしたたかにやっていくために、こうした言葉を使って中国との協力を進めているのです。
そういうことからすると、「中国は覇権を取りにいっているので、とにかく全て反対だ」という単純な理屈ではないと私は思います。ただし、今のアメリカにおける政治の転換も含めたこれまでの流れを考えると、少し慎重になる必要もあります。これまでアメリカは中国に対し、関与と競争を重視してきました。しかし、今や議会では超党派で、また国内社会でも、中国警戒論・強硬論が広がっています。この背景には、やはり中国政治のシグナルというか、メッセージが変わってきたということがあると思います。
きっかけとなったのは、2008年の北京オリンピック開催です。同時期にリーマンショックに端を発する世界金融危機があり、それにより相対的に先進国、特にアメリカが力を落としました。イラクやアフガニスタンとの戦争もあったからです。そうしたなか、中国は1人勝ちをするような状況になったことで自信を強めていったのです。
そうした流れのなかで考えたいのは、鄧小平が残した「韜光養晦(とうこうようかい)」という言葉についてです。この言葉は、あまり力を見せつけずにじっくりと頭を下げて、ローキーで力を蓄えていくことを意味します。鄧小平は、こうした低姿勢の政治や外交を唱えてきましたが、それが2008~2010年ごろから、変わっていきました。尖閣諸島に対する中国のアクションを見ても、この時期が転換点です。
つまり、今言ったような「韜光養晦」が聞かれなくなって、むしろ、積極的に外に出ていくことが推奨され始めたのです。例えば、そのなかで、習近平国家主席は、「中国の夢」を語りました。これは別の言葉でいえば、「強国強軍の夢」、つまり強い国になり、強い軍隊を持つということです。植民地化や侵略のような、中国の長い歴史のなかでの近代の屈辱をいわば反面教師にし、弱ければ打たれるのだから、とにかく力を持たないといけないということを主張し始めたのです。その意味で今の指導部は、非常にリアリズムを重視した国をつくっています。
そういったなかで、アメリカが警戒し始めています。これまでのような対中政策は、実は間違っていたのではないかと考え始めているのです。「新冷戦」という言葉が出ていますが、アメリカは中国に対して、これまでと違った厳しい態度で向かっていかなければいけないという考え方が現在、広がっているのです。
●中国の夢と「トゥキディデスの罠」
―― ありがとうございます。覇権国家を中国が目指しているのではないかという部分を含めて、今のお話について、曽根先生、いかがお考えでしょうか。
曽根 まず考えるべきなのは、「中国の夢は覇権なのか」と解釈することについてです。また、尖閣諸島、あるいは南沙諸島の進出は少しやりすぎではないかという問題もあります。中国の核心的価値は何かというと、そこには台湾が含まれるでしょう。しかし、尖閣や南沙諸島などはそこに入っ...