●「一帯一路」は実態としてよりキャッチフレーズとして捉えると良い
―― 続いて、次のテーマに移りたいと思います。まさに今、中国や世界を見た場合、大きな背景となっているのが米中貿易戦争です。今後の世界の動きを見るにあたって、この米中貿易戦争がどのような意味を持つのか、中国とアメリカがどう動き、それが周りの国々にどんな影響を与えるか、それを見ていくのはまさに必須のことだと思います。
この米中貿易戦争の背景を考えるとき、一番には中国の近年の戦略を見ていく必要があると思います。もちろん、皆さんすでにご存じの通り、中国が「一帯一路」戦略や「中国製造2025」戦略のような技術覇権を強力に推進することによって、それに対するアメリカの強力なリアクションが起こっている状況です。この中国の一帯一路や技術覇権の戦略について分析いただきたいと思います。曽根先生、いかがでしょうか。
曽根 「一帯一路」は、キャッチフレーズとしては非常に優れていると思います。その実態は、中国が抱える責任の重さや財政出動などを考えると、そう簡単ではありません。ただ、「一帯一路とはシルクロードのことだ」という説明を見ると、なかなかうまいキャッチフレーズだと思います。それに比べて、日本は「インド太平洋戦略」などと銘打っていますが、言葉としては少し弱いかなと感じています。そうした意味で、「一帯一路」は、実態というよりもキャッチフレーズとして捉えると良いと思います。
●欧米の予想に反して、中国は権威主義体制のまま経済成長を遂げた
曽根 技術覇権についていえば、アメリカはずっと優位にいました。しかし、例えば5Gを考えてみると、基本的にはファーウェイ(中国)、ノキア(フィンランド)、エリクソン(スウェーデン)、サムソン(韓国)の4社が関わっていますが、ここにはアメリカの会社は入っていません。「ルーセントはどうしたの?」「シスコシステムズはどうしたの?」と言った感じです。要するに、ここにはアメリカの会社はないということです(実は、日本の会社もないのですが)。このように、アメリカは技術の優位性について、これまで一貫して自分たちに自信を持っていたのですが、ここで疑問が出てきました。
そうすると、2つの大きな反省が生まれます。1つは、中国は経済成長をして所得が伸び、中産階級(ミドルクラス)が増えたため、当然ながら国民...