●日本が進むべき道は、アメリカか中国かの二者択一ではない
―― 今、お話を伺ったように、アメリカは国際秩序の維持から撤退していくという動きが見られます。今まで秩序を維持してきたものから退くとともに、America Firstを宣言し、自国のことを考えようという動きがあります。かたや中国は、今回ご指摘いただいたように、いろいろな問題点があり、1つの曲がり角に来ているという局面です。この両大国に挟まれた日本が今後どうしていくかというのは、かなり難しい問題だと思います。
アメリカでは、ドナルド・トランプ大統領が一方的に反中を主張しているわけではなく、民主党や共和党も含めたアメリカ全体としても、反中なのだというご意見もありました。その一方で「いやいや、そうは言っても、もしアメリカが急に中国と手を結んでしまったら、日本が棚ざらしになってしまう」という懸念もあります。米中が協力することで、むしろアメリカが利益を全部持っていってしまうのではないかという議論です。
他方で、米中対立が先ほどの「トゥキディデスの罠」のような形で続くんじゃないかという見方もあります。しかし、アメリカが退いて中国が大きくなった場合、日本はアメリカの陣営にいるべきなのか、そうではないのかという議論もあります。
これらについてはいろいろなご意見があると思いますが、以上のようなことを踏まえて、日本が今後どうしていくかということについて、両先生にお話をお伺いできればと思います。まず曽根先生、いかがでしょうか。
曽根 これは多分、二者択一ではないでしょう。とはいえ、良いとこ取りで両方と付き合うというような、そんなうまい話はあるのかという疑問が出てくると思います。もちろん、基本が日米同盟であるということに関しては、当面はその通りです。しかし日米同盟といっても、トランプ政権下のアメリカは、今まで過去の政権が言ってきたこととは相当違いがあります。その違いは、やっぱり考慮しなければなりません。例えば、かなり理不尽なことを言い出すときには、「それは理屈に合わない」ということを堂々と言うべきです。
こうしたことは、日本だけでなく、ヨーロッパの国はいずれも経験しています。「NATOの金を出すように」「もっと防衛費を負担するように」といったように。アメリカは日本だけではなく、他の国にも無理難題を言っています。その意味で、日本やヨーロッパの国々と共通の理解や対処方法があると思います。
一方、中国に対してですが、日本は歴史的に古くから付き合いがあります。2000年以上の歴史があると思います。漢字を書けば分かるということも大きいでしょう。先ほど、同じ漢字でも違う意味で使われていると言いましたが、実際には、日本人は韓国のハングルよりは中国の簡体字のほうが理解できます。そのなかで問題となるのは、中国にどのくらい距離感を持ちながら付き合っていけるのかということです。
●日本には明確なアジェンダを立てる必要がある
曽根 では「距離感を持ちながら」というとき、アメリカに対するロジックと、中国に対するロジックは、どのようなロジックなのでしょうか。そして、それはどうやって使い分けできるのでしょうか。それとも、ロジックは1つで表現が2つということなのでしょうか。日本の基本理念が「インド太平洋」では少し寂しい気がします。もう少し基本的な方針が必要です。「価値観外交」が重要視されている部分もありますが、世界中が信用できる秩序としては、「日本発の発想でこういう秩序をつくりましょう」という価値観だけでは十分ではありません。そのとき日本が費用負担をしないのであれば、発言力は足りないということです。あるいはバックアップとして力がないのであれば、それはシステムにならないということです。
ただし、日本は中国が今後直面するであろうさまざまな問題を、いくつか先取りしています。これは技術の問題だけではありません。例えば、中国においては、少子高齢化が今後直面する最大の課題の1つです。1人っ子政策を取っていたため、今後はなおさら人口が少なくなっていきます。社会保障は、経済成長が進んだ際に、制度設計がうまくなされなかったために、今後ツケが出てくるでしょう。また、介護についていえば、中国には現在、要介護の人が約4400万人いるといいます。しかし、介護システムは十分制度化されていません。それを2020年内に進めるといっていますが、地域差の問題もあります。しかも、社会保障において、地域差だけでなく、都市戸籍と農村戸籍の違いもあります。こうした観点から見ると、中国が今後直面する問題を、日本はすでに経験しています。
●明確なアイデアと秩序を提供できるかが鍵
曽根 ただ日本の競争力についていえば、技術や学問においても深刻です。アメリカやイギ...