●爆発的にウイルスが拡大したとき、習近平政権の統治能力を問われる
―― 具体的にはどのような予測になるのでしょうか。
曽根 ガバナンスの批判は、前回小原先生がおっしゃった「治理」上の問題です。例えば、このウイルス拡大がもっと爆発的なものに、つまりコントロールできなくなったときに、習近平政権はまさしくその統治能力を問われることになります。ですから、政権としては全力を挙げてこれを抑え込もうとすることになります。
しかし、腕力・権力でウイルスを抑え込めるわけではありません。そこに科学的な知識や技術の問題があり、今と昔では大きく違います。例えば、Quarantine(検疫)ということであれば、かつては港が1つだったときには、そこに40日間留めおけば大丈夫だということでした。しかし今や、こうした港はそこら中にあります。日本でも水際作戦が難しいのは、どこからウイルスが入ってくるのかが分からないからです。しかも、2003年のSARSの頃に比べると、中国経済が発展しており、中国人が世界中に旅行します。もう1つ、中国の経済力、システム自体が世界のサプライチェーンに組み込まれているのです。
●SARSと新型コロナウイルスの違い
曽根 ですから、単純な話ではないのです。繰り返しますが、昔のように港は1つで40日間留置しておけば隔離・遮断できるという話ではありません。前回、公衆衛生と権力主義は非常に近い関係にあるということを言いましたが、ペストやコレラを防げた昔とは状況が全く違うのです。
今回、見落としてしまっていた1つの大きな原因は、2003年のSARSの時は症状が重くなってから人にうつるというウイルスだったということです。それに対して今回は、症状が軽い状況でウイルスが人にうつっています。軽いときにどのように見分けるのかは、まだ分かっていません。目で見ただけでは分からないので、顔認証もできません。この問題が、今回の1つの難しさになっています。
ウイルスの毒性はそれほど強くないという人もいるし、「いやいや、結構強いのだ」という人もいます。強さだけでいえば、それほどでもないのでしょう。しかし、広まる速度が相当速いというのが今回の特徴だと思います。
●正確な情報開示をいかにタイムリーに共有するかがポイントである
小原 今の権威主義という中国モデルは、2020年2月8日の『人民日報』でも、その利点が指摘されています。つまり、2つの大病院をあっという間につくってしまったという組織力、そして大都市を封鎖して歴史上最大規模の隔離を官民で行ったという団結力といった利点です。しかし、これには前提条件があります。おそらくそれは、正確な情報の開示をいかにタイムリーに共有するかというものです。間違った情報に基づいて、こうした権威主義体制の強みが発揮されてしまうと、逆効果になる可能性もあります。今回は、これが初期的な段階で起きてしまったのではないかというのが今、いわれていることです。
例えば、2020年1月23日に武漢市は閉鎖されています。1月27日には湖北省が封鎖されました。実際の旧正月は1月24日から始まっていますが、その前にすでに移動を始めています。15日くらいから、武漢市あるいは湖北省の人たちは里帰りをしており、半分くらいの人はそこから出て、いなくなっているのです。これはまさに、今も議論になっている健康保菌者の問題です。ウイルスの潜伏期間について、WHOは12.5日であるとしていますが、そうした症状がまだ現れていない人が中国全土に広がってしまいました。
●SARSのケースに倣えば、終息まで半年以上かかるかもしれない
小原 今、警戒されているのは、こうした人たちの職場復帰が始まっていることです。ただ、多くの都市がそれをなんとか防ごうといています。都市によっては家から出させないという強硬措置まで取ろうとしています。もちろんサプライチェーンも含めたネットワークや経済への影響もものすごく大きいのですが、同時に第2のピークがまた来るのではないかという見方が出てきています。第1のピークがいつ終わるのかについては、専門家のなかでも2月中だろうという見解で一致しています。
私は専門家ではありませんが、SARSのケースの場合、終息まで半年以上かかったことを考慮する必要があると思います。2002年11月に起き、WHOが終息宣言を出したのが2003年7月です。新型コロナウイルスもそれに倣えば、2019年12月に起きたので、終息するには2020年の夏までかかることになります。
そういったなかで、現在のように完全にコントロールできていない状況があり、その原因が初動にあったのではないかという点が指摘されています。今後の対応についても、情報の開示、あるいは情報の共有がいかに大事かということが問われるでしょう。