●カイゼンか、ドラスティックな変化か
―― 今まで日本の場合は、例えば脱石炭については高効率石炭火力発電を進めたり、あるいは再生可能エネルギーについてはハイブリッドを進めるなど、ドラスティックな変化というよりは、「今までより良くする」という“カイゼン”的な取り組みでやってきたと思います。ですが、もはや“カイゼン”レベルではなく、ドラスティックに全てを変えていくというようにギアチェンジしたと見たほうがいいでしょうか。
小原 私は日本の強みの1つは“カイゼン”だと思います。一気に再生可能エネルギーにはもっていけません。今も述べたように(第2話)、電力供給の安定性は非常に重要です。今もエネルギー危機とまでいわれるように、石油にしろ天然ガスにしろ、化石燃料価格が非常に上がっている。そういった中で電力の安定供給、特に電力のバックアップといったことになると、どうしても天然ガスなどに頼らざるを得ない面があります。
そうした難しい状況の中で、日本としては、やはりエネルギー効率を上げていく必要があります。そうした技術革新は日本が非常に得意です。また同時並行的に、そのカイゼンも行う。そして同時に、新しいエネルギーである再生可能エネルギーへの転換も急ぐ。その全てが必要だと思います。
―― ありがとうございます。
●ガソリン車から電気自動車への転換
小原 CO2排出をどう削減していくかについて、きわめて大事になってくるのが「技術革新」です。「技術革新」を取り上げるとき、ポイントが2つあると思います。
1つは電気自動車(EV)です。独自動車大手メルセデス・ベンツの社長による「EVファーストからEVオンリーに動いていく」という言葉に象徴されるように、将来的には電気自動車がこれまでのエンジン自動車に取って替わるでしょう。そうした流れが今、できあがっていると思います。
COP26でもイギリスが「主要市場は2035年までに、世界は2040年までにエンジン車の販売を終了しましょう」と提案しました。こうした提案に対して、世界24カ国とアメリカのGMなど自動車メーカーが賛同しています。
今、電気自動車の市場はどうなっているかというと、世界の販売台数はテスラが圧倒的に世界一です。2021年は93万台という数字もあります。右の写真はもっとも売れている「モデル3」です。
では日本はどうかというと、やはり出遅れています。トヨタ自動車は、2030年に電池による電気自動車(BEV)を350万台販売するという大きな目標を打ち出しました。ただ2021年の統計を見ると、残念ながら日本のメーカーは電気自動車の販売台数において10位以内にも入っていませんでした。
それから電気自動車のもう1つの課題は、電気自動車を生産する、あるいはそれに必要なバッテリーを充電する際に使われる電気(電力)が何なのかということです。それが再生可能エネルギーでもたらされるのであればCO2を出さないので問題ありませんが、化石燃料が使われるとなると、電気自動車でCO2排出をなくしていくという目標が少し削がれてしまいます。
●水素エネルギーの可能性と実現への取り組み
小原 それからもう1つが水素です。水素はCO2が出ません。水素は宇宙にもっとも多く――70パーセントともいわれますが――存在している元素です。水素はたくさん存在しているのですが、有機化合物として存在しているので――例えば「水」として存在したり、あるいは化石燃料の中に含まれていたり――そこから取り出さなければいけません。
そうした技術的な問題をクリアしてきた中で、水素を使って発電(水素発電)し、家庭や工場に提供する。それからもう1つは、電気自動車との関係もありますが、水素の燃料電池車を、つくる。こうした大きな2つの動きがあるのです。
どちらにしろ、生産コストが非常に大きいという問題がこれまでありました。ただエネルギー効率が非常に大きいし、備蓄も輸送も可能になっています。例えばアンモニアに変換して輸送するといったことです。生産に当たっても、これまであまり使われていなかった価格の安い褐炭などを使うことによってコストを下げていくこともできると思います。
右下の写真は、サウジアラビアにある新都市計画で、「NEOM(ネオム)」と呼ばれています。ここでは巨大な水素発電所がつくられています。
水素燃料電池車についてですが、これについては各企業、特に日本ではトヨタ自動車が力を入れています。ですが実は、日本には大きな問題があります。それは水素ステーションが非常に少ないことです。 ガソリンスタンドは日本全国で3万カ所ほどあるのですが、水素ステーションは155カ所しかありません。こうしたインフラをはじめ、水素燃料電池車に移行していく上での環境づくりも、やはり進め...