●米中覇権争いの帰趨は決した
―― 前回、非常に重要なお話がありました。一つは、1979年がターニングポイントだったというお話です。ここで、サッチャーリズムの登場やホメイニ革命、鄧小平の改革開放等々が起きていたということですが、そこからちょうど40年あまり経て、今の状況があります。もし今が何かの転回点だとすると、現在のどういったものが次の時代をつくっていくのでしょうか。
中西 今回のウクライナ戦争が一番大きな意味を持つのは何か。私は、「グローバリゼーション」「グローバル化」というキーワードで考えてきたわけですが、もう一ついえるのは、このタイミングで起こったウクライナ戦争は、米中のグローバルな覇権争い、米中という超大国の覇権競争の帰趨を決する意味を持ったということだと思います。
―― 帰趨が決するわけですね。
中西 帰趨が決したと思います。これは大胆な言い方で、「ここまで言っていいのか」とお聞きになっている方には思われるかもしれません。いろいろな感想をお持ちいただいて結構ですし、それぞれがお考えいただきたいと思いますが、私はここで「中国、敗れたり」と思います。
中国がアメリカの覇権に挑戦するということは、あくまで未来に投影した“未来図”だったわけです。この大きな世界の大変動といわれるような秩序の転換を経ることなく、一応現状の中国経済が世界の中で占めている位置をキープできる状態が続いたという前提で、2030年、2035年、2040年代に米中の力関係がどうなるかといったことを、われわれは論じてきたわけです。
けれど、ウクライナ戦争がこのタイミングで起こりました。ロシアは世界経済からデカップリングされて当然です。そして、すでに現実にデカップルされています。さらに、そのロシアと中国がどういう距離感、スタンス、関係性を持つかということが今、問われている焦眉の国際政治、国政経済のテーマでもあります。
●「第三勢力」にどうアプローチするか
中西 今、世界は3分化されていると言われます。まずロシアの陣営で、そこには中国も入っていると見なされようとしています。それからアメリカを中心とする先進国、民主主義陣営。そして、そのいずれともはっきりと帰趨を定かにしない、旗幟を鮮明にしない第三勢力――インドがそうだといわれますが、ASEAN諸国、アフリカ諸国、中南米諸国、あるいはBRICSといわれる中国・ロシアの陣営に近いブラジルやインド、南アフリカ。こういった、中露陣営に近いのか、あるいは西側陣営に近いのか、一義的には定かではない第三の勢力も存在しています。
現在、そのような目で世界を見る分析が多いのですが、これも冷戦時代の一つの残像とでもいいますか、「第三世界」という括りで見れば、そういうこともあったかなと思われます。けれども、先ほど述べたASEAN諸国の動向を見ていると、中国経済とのつながりが深くとも、やはり西側の経済・貿易・金融のインフラに乗っかっていないと、経済発展はできない。特に今でいえば、ドル基軸体制や、あるいは西側の優れた技術です。中国にも技術はありますが、非常に限られたものです。インフラに関しては、圧倒的に中国は遅れています。
あるいは国際政治的な、特に重要な価値観の世界です。個人の自由や市場経済、本当の意味での経済の自由、あるいは資本のさまざまな動き、制約が少ない、あるいは人権が尊重されるなども、西側世界の水準で考えると、いろいろと問題のある国が第三勢力といわれる国々の中には多い。ですが、こういう国々でも、中国のような全体主義でいいのかというと、それは困るでしょう。
インドはもちろんアフリカ諸国でも、エジプトにしろ、サウジアラビアにしろ、どこの国でも、やはりアメリカ式民主主義は肌に合わない。あんなものは個人主義で、国がバラバラになってダメだ。では中国のように、共産主義的全体主義がいいのか。それも困る。プーチンのロシアのようなものがいいのか――。ということで、それらは個々バラバラに分かれてくると思いますが、やはり最終的に魅力があるのは、アメリカや日本、欧米諸国となってくる。日本や欧米諸国は、これから第三勢力といわれる国々にどうアプローチしていくかということが大事になってきます。
ですから、いきなり先進国並みの人権を守らせろとか、民主化しろとか、ロシアにも中国に対してわれわれと同じような経済制裁をしろとか、そんなことを上から目線で迫ると、こういった国々が本来持っている発展の指向性を歪めさせてしまい、国際社会における中露両勢力の側に引き寄せられてしまう。国際社会における政治的、経済的、あるいは地政学的な「バランスオブパワー」が、西側、あるいは民主主義陣営にとって不利になってしまいます。
●これから大事なのは「知恵の賢明な外交」
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