●年金と保険――「機関投資家」としての強力なプレーヤーたち
―― (前回)機関投資家のお話をいただきましたけれど、具体的に機関投資家とはどのような感じなのですか。
夫馬 (先述したように)機関投資家の最も強力なプレーヤーが「お金が多い」という意味で誰か(何か)というと、「年金基金」です。しかも「公的年金」といわれる方なのです。これは、資産運用の業界の方にとっては常識的な話なのですが、それ以外の方にはなかなか伝わっていない現実です。
日本でいうと、「GPIF(Government Pension Investment Fundの略:日本の年金積立金管理運用独立行政法人のこと)」という名前が付いていますけれど、皆さんの給料の明細から勝手に天引きされている厚生年金、それから国民年金、この両方の過去からの積み立て分を運用しているのが年金基金(GPIF)なのです。ですので、今、日本のGPIFだけで約180兆円の資産を運用しているということです。
「(あれ?)日本の年金はお金がなかったのではないか。でも、(そこに)この180兆円はいったい何なんだろう。お金があるではないか」と思われるのですが、これは過去数十年の積み立て分なので、180兆円からどれほどまでにリターンを増やせるか、これがここから先どれだけ年金を減らせずにいけるかどうかの瀬戸際なのです。ですから、虎の子の180兆円を大事に運用しているところです。
―― これは、絶対増やさなければいけないお金ということですね。
夫馬 絶対増やさなければいけません。失敗したら、来年から年金はもっと減らさなければいけないということになってしまいます。こうした大事な年金基金は、日本にもありますが、公的年金制度は北欧にもあることで有名です。また、ヨーロッパにもありますし、今では韓国、そしてシンガポールやマレーシアにもある制度です。ということで、(機関投資家として強力なプレーヤーは)まず公的年金なのです。
それ以外にも、企業にお勤めの多くの方は、「企業年金」というものにも入られています。この企業年金も同じく年金基金なので、各国に同じように企業年金があり、彼らも資産運用をしています。実際に企業の株を買ったりして、運用したりします。
また、他のプレーヤーとして、同じような存在に「生命保険会社」があります。生命保険会社の方々が、最近では「年金型保険」という言い方をしますが、まさに将来の年金のための保険型の商品として積み立てているのが、生保の一つの大きな商品になっています。ですので、日本の保険会社にも数十兆円の資産運用をしているところがあるという状況です。
●年金基金・保険会社が初期の投資家になっていった背景
夫馬 この年金や保険の方たちの特徴ですが、「超長期投資家」といわれるのです。彼らは生前といいますか、20代、30代の頃から積み立てていき、支払うのは60歳、65歳、場合によって、これから70歳になるかもしれませんが、数十年の長期的な視点で投資ができる投資家なのです。なので、別に来年、再来年のリターンではなくて、50年、場合によっては100年構想でリターンを出していくために、経済界にどのように向き合っていくかどうか、ということがもともとの発想として生まれているのです。
けれど、これほどまでに環境面や社会面で社会が傷んでいく。場合によっては経済活動もままならなくなっていく。電気がなくなってしまうかもしれない。こういうことが起こる前の長期投資家たちは、長期投資家にもかかわらず短期目線しかなかったのです。50年後も100年後も、今と変わらないのであれば、今好調な企業に投資をし続けていけば、50年後も100年後も伸び続けるのではないかと思っていたので、未来に向けても、短期だけ気にすれば良かったのです。しかし、そうではない。気候変動の面にしても、社会の格差の問題にしても、放っておけば今まで通りにいかないだろう。ならば、どんどんと長期的に動いていかなければいけない。ということを、自然とこの年金・保険というプレーヤーの方が知るようになれば、(ESG投資が重要であるということが)当たり前に入ってくるのです。
すると、投資手法が自然と変わってきます。どれだけ利益が上がったか、売上が上がったかという足元の去年の業績を見ていても、50年後、100年後に安定的に伸びていく会社にはならないよねと。
ということで、未来に向けて望ましい方向性をつくっていき、資本主義のあり方を変えていけるプレーヤーを自分たちの意思で育てていくことが、世の中の安定にもなります。また、年金はもともと年金加入者の皆さんのハッピーのためにありますので、これ(ESG投資)が年金の方にとっても幸せであるに違いないですし、そこでリターンを十分にあげていけば年金制度も成り立つということです。
ですので、長期投資の方...