●世界経済でIMFが担う役割
前回までは、2020年から2022年までの世界経済がどのような動きになってきたのかを話してきました。2020年の危機にあたり経済活動が著しく停滞し、デフレになるかもしれないという状況から、各国のあらゆる財政金融政策の総動員の成果もあり、世界経済はどん底を脱し、今度はインフレ傾向になるという動きを示しています。
この間、私は2022年の夏までワシントンにおりまして、IMFが果たすべき役割を考え実行してきました。実は、IMFが世界経済危機にあたって果たした役割は、大変大きいものがありました。しかし、その実像はあまり日本の皆さんに伝わっていないということを、2022年夏にワシントンから帰国して知りました。
「IMFと世界経済危機とは何の関係があるの?」「この世界的な経済危機にIMFはどんな役割を果たしたの?」「何をIMFがしてきたの?」という疑問の声も聞こえるようです。
まず、世界経済危機でどのようなことをしたかを述べる前に、そもそもIMFとはどのような組織で、どういう機能があるのかを、今回の時間を使って説明します。
早速ですが下の図表を見てください。
1944年7月、ニューハンプシャーのブレトンウッズのホテルで、連合国44カ国の代表が、世界の大恐慌と第2次世界大戦を引き起こした過ちの回避を目指して、世界的な協力のもとに新しい経済秩序を構築するための会議を開催しました。
国際通貨協力の推進、貿易の拡大と経済成長の支援、繁栄を阻害する政策の阻止という重要な使命を、新しく作るIMF(国際通貨基金)に与えることを決めました。IMFとは、IMF協定という外交上の条約に基づいて設立されている国際機関です。協定の第1条には、国際金融の安定、国際通貨協力を推進するとともに、国際貿易や雇用、実質所得の促進、生産資源の開発及び為替の安定等、目的を規定しています。
1945年12月に設立され、ワシントンDCのホワイトハウスの近くに世界銀行と並んで本部があります。1945年当時、40カ国からスタートしたIMFは、2022年12月末現在、加盟国は190カ国となっています。大臣級の総務会のもとに、24名の理事からなる理事会が基本的施策を決定します。出資比率に応じた投票権を有し、日本は米国に次いで第2位の出資国です。
初の大型融資案件になったのは、1956年のスエズ危機でした。IMFの危機管理の役割を果たした最初の事例であり、IMFによるエジプト、フランス、イスラエル、イギリスの関係4カ国への初めての大規模な融資につながりました。1960年代はアフリカの独立が相次ぎ、当初アフリカの加盟国は3カ国だけでしたが、1960年代末には34カ国に増え、アフリカ経済の発展に尽力することになります。
ドルの国際流動性不足に対応した1969年のSDR創設の決定、1971年8月のドルの金兌換を停止したニクソン・ショックやオイル・ショックの後の石油取引におけるドル本位制、1980年代のメキシコ危機における危機管理、ソ連崩壊後の東側諸国の移行について、政策提言、技術支援、財政支援等を主導するなどの経験をしました。
●世界経済を常に裏側で支える3つの機能
1969年に創設されたSDRは、世界の経済システムに追加の国際流動性を提供し、各国の外貨準備を補う役目をします。IMFがSDRという外国準備を配分する、つまり一種の信用の創造を行うことができるのです。SDRは自由利用可能通貨というドルや円などに変換することができる、すなわち自由利用可能通貨を引き出せるという意味で、「スペシャル・ドローイング・ライツ(Special Drawing Rights:特別引出権)」という名前が付けられました。
その後も、アジア通貨危機、ロシア危機、ユーロ誕生、リーマン・ショックといった世界的な通貨危機にあたり、IMFは主導的な役割を果たしてきました。国際的な経済の危機的状況のときには、常にIMFが裏側で支えていると理解していただいて構わないと思います。
図の下の水色のところに、IMFの基本機能と見なされている3本柱を記載しています。IMFの基本的な機能は、国別・多角的サーベイランス、各国への融資機能、そして「キャパシティ・ディベロップメント(Capacity Development:CD)」といわれる能力開発の3つを指すことが多い。これから、この3つの基本的機能を説明します。
次の図表、「IMFの機能1:サーベイランス」をご覧ください。
IMFには、経済危機の防止に向けて、世界・地域・国レベルで、国際通貨制度をサーベイし、経済情勢のモニタリング、経済政策・金融政策の健全性の調査・助言を実施するというサーベイランス機能があります。
マルチ(多角的)の「多国間サーベイランス(Multilateral Surveillance)」と「国別のサーベイラ...