●「神の子孫」が1000人いたから、ローマ帝国は世界を支配した
―― でも魂の苦悩に耐えられる人は、本当に少数ですね。
執行 そうでしょうね。
―― その少数の人が国の育成について影響力を持てる時代は、うまく回るわけですね。
執行 それが何度も喋った、英国のジェントルマンです。その英国が最高の成功例です、歴史では。だから魂の苦悩から、命を懸けた自分の信念を一つ持った人がジェントルマンとして認められた。それが2万人いたのが英国だったのです。
―― ジェントルマン2万人って、すごいですね。
執行 すごいけれど、今の量の社会から言えば大したことはありません。2万人なんて選挙も受からない。小選挙区だって何十万人ですから。
―― でもボーディングスクール(全寮制学校)で育って、オックスブリッジに行っている人の中での2万人だから、相当な比率になるわけですね。
執行 もちろんそうです。そのときに2万人いたから、英国は19世紀に世界七つの海を制覇したのです。全員がジェントルマンではなく、各セクションにいる指導者だけですが、トップにジェントルマンがある程度いれば、世界を支配するほどの圧倒的な国家の力を持つことができるのです。
―― まさにそれを2万人のジェントルマンで証明したと。
執行 歴史が証明しています。ローマ帝国もそうで、世界を制覇したときに今の人口比で1万人ぐらいいました。人口比を計算したことがありますが、ローマ帝国自体が3000万人しかいません。ほかのところは数十万人です。その当時の1000人だから、今で言うと1万4000~5000人のエリート層がローマにいました。このエリートは、あのカエサルも含めて全部ローマの神話上の家系です。
―― 元老院階級の……。
執行 元老院の階級です。だから日本で言えば、公家や天皇家から分かれた源氏とか。要するにもとをたどると神話に行き着く家系で、「神の子孫」と言われる人たちです。この人たちが1000人いた。この1000人がいたときのローマが世界を支配したのです。
―― 絶頂期だったわけですね。
執行 もともと民主主義や共和制は、そういう人たちが作った組織です。あのギリシャの(民主制の基礎をつくった)ソロンもそうです。ギリシャのポリスの市民は、ご存じだと思いますが、われわれの社会から見れば貴族です。(当時は)奴隷社会ですから。プラトンも全部、貴族です。働く必要もないし、みんなそういう階級です。
民主主義の思想の発祥というと、ギリシャでいえばソロンです。民主主義というと、われわれはポピュリズムのことと思っていますが、何のことはない、貴族主義なのです。絶対権力者1人を持たないだけで、要は合議制ということです。
あの当時の独裁家なんて、ペルシャ帝国の国王を見てもわかります。映画にもなっていますが、フィーリングで生きている国王が何もかも全部できたわけですから。
有名な話があって、西洋から来た誰かと「人間の首の構造がどうなっているか」という議論になった。これは実話で、名前は忘れましたが、首の構造の違いで対立したのです、トルコのスルタン(君主)と。すると、そこにいた召使いを「ちょっと来い」と呼んで、首をその場で切って「どうだ、やっぱりこうなっているじゃないか」と言った。そういうことをしている社会ですから。
―― なるほど。
執行 こういう社会、つまり絶対権力者を否定したのが民主主義です。でも、否定したのは今流に言うと、信念のために命を懸けている貴族たちです。これがローマ帝国で1000人いた。あの当時で1000人のそういう階級がいたら、世界を制覇できるほど国も興隆したということです。
―― そうですね。カエサルみたいな人が1000人いたと。
執行 カエサルは、もともとその1人ですから。ポンペイウスもそうだし、アントニウスもそうだし、ブルータスもそう。みんなそうです。
―― ある特定の層しか出ないのですね。
執行 そうです。ローマはロムルスとオオカミの神話がありますよね。あのオオカミの神話の時代から続く家系の人たちですから。日本だったら公家などと同じで、アメノコヤネノミコトとか神話上の先祖を持つ家系です。
ちなみに説明しておくと、ローマの神話の家系は全部、ポンペイウスもカエサルも野菜の名前です。豆、日本で言えばエンドウ豆とかサヤエンドウとか、そういう名前なのです。だから、発生学的には最初に農村社会を作った人たちの子孫ということです。
―― そういうことなのですね。
執行 エンドウ豆を作っていた人の子孫が指導者になったということです。
―― 面白い。やはり全然違いますね、民主主義のことは、先生に語ってもらうと理解の部分が全然違います。
執行 それは読書量の違いです。小林秀雄の言葉も面白いです。
―― 〈上手に思ひ出す事は非常...