●テレビの時代から劣化した現代人の個性と知能
執行 (その意味で)バーナード・ショウの〈無関心こそが、非人間性の本質である〉は、本当に深い言葉です。実は反対者とかそういうことではなく、人間性が最も発達しない人は歴史上、物事に無関心な人なのです。無関心な人が最も非情で、悪魔で、ひどい人間。今の日本は、ほとんどそうなっています。
―― 確かにそうですね。無関心ですから。
執行 前回話の出た山縣有朋は反対で、あらゆることに興味を持って、自分の権力基盤を作ることにもすごかった。あのような文明社会に興味を持っている人が、本当に温かい、国民のためになることもできるのです。山縣有朋は、いい例です。
―― 本当にそうですね。あれだけ膨大な人脈地図を作れるのは、人間に対してものすごい関心を持っていないと、できないですね。
執行 そう。どんな人間か隅々に至るまで、全部知っています。
―― 原敬もそうですね。
執行 あの頃の政治家には多い。そうじゃないと、(政治は)できないから。私が若い頃までの日本の偉い人は大体そうです。評論家で有名な村松剛もそうです。高校・大学とかわいがってもらいましたが、彼もインテリで有名です。若い頃に驚いたのは、人の微に入り細に入り親戚の末端に至るまで、学歴から職歴から肩書まで全部知っていることです。
―― すごいですね。
執行 彼はちょっと強面で、論客としても有名で、仏文学者としてもすごい。当時、一番の教養人です。私はかわいがられて、彼の家に何度も遊びに行きましたが、行くたびに驚きました。あまりに微に入り細に入りで。例えば、政治家の人脈でも閨閥とか、誰と誰が結婚して、できた子どもがこの人で、この人とあの人が結婚してということで全部知っている。
―― ものすごいですね。
執行 驚くのは世間などに興味ないというか、学問とフランス語、仏文学、あとはいろいろな政治だけ。その学問がすごいのです。
執行 例えば、関心ある政治家が1人いたとします。安倍さんなら安倍さん。すると安倍晋三さんの家系から、江戸時代以上にさかのぼって全部知っています。
―― やっぱりすごい人ですね。
執行 すごいですよ。
―― 人間に対する関心の度合いが全然違うのですね。
執行 そうでしょう。それは驚いてしまいます。今(の人)みたいに、非常に浅い知識で他人をけなしたり、人の言葉尻ばかりとらえたりする、あんなものは理解できません。そんな人が政治家をやっている。
少なくとも論客みたいに、ある政治家をけなすのなら、村松剛さんのように(する)。50年前は彼のように深く研究し、知っている人がそれを言っているということです。
―― 本当に劣化の仕方が速かったわけですね、日本も。
執行 1代ですね。
―― 1970年代は、そういう人がいた時代ですからね。
執行 何度も言っていますが、現代人はテレビを通して社会のことが好きだからダメなのです。私が一番成功した、自分を維持できたのは社会に関心がないからです。嫌いというか、そのぐらいにならないと、これだけの情報社会は流されてしまいます、知らないうちに。
テレビがある時代とない時代で、(そこが)決定打です。私が小学校3年生まで、うちもテレビはありませんでした、高度成長(期)前で。だから、私の知識の大半は、おばあちゃんと親から受けた知識です。それ以外ない。だから、みんなそれぞれが十人十色です。生まれた家によって教養も違う。みんな、そうでしょう。
―― そうですね。
執行 近所の家も、全部そうです。私が小学校3年のときから大体の家にテレビが少しずつ入りだして、『月光仮面』ではないですが、子どもも全員、世代の共通項ができた。そこからがダメなのです。どんどん個性が低下した。もう、ひどくなる一方です。
―― 確かにそうですね。テレビはおろかSNSになったら、もっとおかしくなりますね。
執行 テレビの時代が懐かしいぐらいですからね、今は(笑)。
―― もうここまで進んでしまうと難しいですね。
執行 そうです。劣化は世界レベルだから。日本だけなら戦後問題で解決できますが、今はドイツ、フランス、イギリス、どこを見ても(同じです)。あのヨーロッパにしても偉大だったのは、ちょっと前までです。今は全然ダメ。日本のほうがましで、ヨーロッパの劣化は見られたものではありません。これはホモ・サピエンスの問題です。もう民族の問題は通り越しました。
―― なるほど、ホモ・サピエンス自体の問題だということですね。
執行 知能の劣化という点では、もう民族を超えているので、ホモ・サピエンスの問題です。われわれが人類として、本当に存続できるかどうかというところです。
●「人間は幸せになるために生まれた」は現代人の最大の間違い
―― アン...