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日本は「苦悩」を投げ捨てて「戦争」に走ってしまった

人生のロゴス(2)インテリの苦悩

執行草舟
実業家/著述家/歌人
概要・テキスト
『人生のロゴス 私を創った言葉たち』(執行草舟著、実業之日本社)
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芥川龍之介の〈人生は一行のボオドレエルにも若(し)かない〉は、彼の苦悩の頂点で書かれた言葉である。この苦悩は日本的な伝統とヨーロッパ文明との対決であり、大正時代のインテリの苦悩でもある。東大教授だった橋田邦彦も、『正法眼蔵』を読みながら思索と苦悩を重ねていた。だが日本は、そのような苦悩を投げ捨てて、戦争に走ってしまう。橋田のような立派な人物も、軍国主義の流れの中で文部大臣に担ぎ上げられ、戦後は戦犯になってしまったのだ。しかし、日本はあと50年苦悩すれば、本当の日本文明が生まれていただろう。(全14話中第2話)
※インタビュアー:神藏孝之(テンミニッツTV論説主幹)
時間:10:04
収録日:2023/03/29
追加日:2023/06/02
カテゴリー:
≪全文≫

●芥川龍之介の苦悩の頂点で書かれた言葉


―― 次に芥川龍之介の〈人生は一行のボオドレエルにも若(し)かない〉ですが、先生が一番ご苦労されたときに、芥川龍之介のこの苦悩が私を救ってくれたと。

執行 そういうことです。私がこの言葉に出会ったのは小学生のときですが、この言葉に出会ってから大変なことがあるときは、いつもこの言葉を思い出していました。書いてあるものが家にあるので、必ず開き、この〈人生は一行のボオドレエルにも若(し)かない〉という言葉を見ていました。

 ボードレールは人間が日常性を捨てて宇宙とつながるというか、一つの芸術的な飛躍をしない限り、人生がダメになると『悪の華』など、いろいろなものでうたっている人です。要するに日常から非日常に飛躍しないと、人生には意味がない。そのためには命を懸けなければならないとうたっているのです。だから、ものすごく深い。

―― 深いですね。

執行 芥川龍之介は36歳で自殺するのだけれども、これはそのちょっと前に書いた文章です。

―― (芥川龍之介は)〈ぼんやりとした不安〉という言葉を書きましたね。

執行 そのちょっと前です。〈ぼんやりとした不安〉は遺書に載っていた言葉なので。それと同じ時期のもう少し前に、この文章を書いています。だから、芥川龍之介の苦悩の頂点で書かれた言葉です。


●欧州文明と日本文明の相克と融合に悩み抜いた大正時代のインテリ


執行 芥川龍之介はあの頃の、大正時代の日本の超インテリ、その頂点です。頂点の人の苦悩とは、要するに日本的な伝統とヨーロッパの文明との対決です。ヨーロッパ文明と日本文明が対決して、どちらが生きるか死ぬか。その融合の中に命を懸けて生きていたのが大正時代の日本の、いわゆるインテリです。 これは政治も経済も文学も哲学もそうです。だから自殺者も多い。みんな苦悩が頂点に来ているのです。明治以来の欧化政策というか……。

―― それをまともにくらったのですね。

執行 そう。一番くらったのが大正です。大正時代に〈人生は一行のボオドレエルにも若(し)かない〉という言葉を芥川龍之介は残して死んでいきましたが、本当はあと50年から100年ほど苦悩すれば(違いました)。

 これは橋田邦彦という東大教授だった生理学者で、(戦時中の)最後の文部大臣で戦犯になった人も言っています。あと50年、ヨーロッパ文明と日本...
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