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苦悩と葛藤の意義…文明を生み出すには地獄の池の底が要る

人生のロゴス(4)苦悩と葛藤

執行草舟
実業家/著述家/歌人
概要・テキスト
『人生のロゴス 私を創った言葉たち』(執行草舟著、実業之日本社)
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ダンテの『神曲』に〈地獄には、地獄の名誉がある〉とあるように、西洋はずっと葛藤を続けてきた。この言葉には、「本当の名誉心とは何か」ということが書いている。当時の人間は人間が持つ理想や憧れなどを神と対立する悪いものと思っていた。それが結果として、偉大な西洋文明を生んだのである。そのような葛藤を大衆文化は受けつけないところがあるが、ヨーロッパの場合、アメリカという新大陸への移民があったので、そのような大衆の圧力が結果として軽減されたところがあった。一方、日本は、明治以降の葛藤を続けることができなかった。その象徴的な事例が、リベラリズムが軍国主義に敗北していく過程である。これはまさに「苦悩を捨てていく過程」であった。そのようななかで、芥川龍之介、三島由紀夫などの「桁外れに頭のいい人」が感じ取ったものは何だったのか。(全14話中第4話)
※インタビュアー:神藏孝之(テンミニッツTV論説主幹)
時間:09:19
収録日:2023/03/29
追加日:2023/06/16
カテゴリー:
≪全文≫

● 葛藤が西洋文明を創り上げる一つの原動力になった


―― (本には)ダンテの『神曲』の言葉も出てきます。

 〈地獄には、地獄の名誉がある〉

 この言葉ですが、(西洋は)そうした葛藤をずっと続けてきた。中世から近世、近代に行くまでのあいだに。こういうものがないのですね、日本の中には。

執行 そうです。これは歴史の違いなので仕方ありませんが、日本人は日本人で今度は、西洋の民主主義などを融合するための地獄の苦しみを50年以上、100年ぐらい続けなければダメなのです。

 これまで2度やろうとしてダメでした。西洋人は歴史的にキリスト教と大衆文明の融合ができた。多くの人が死に、みんな大変でしたが、それを成し遂げたのが西洋の偉大なところです(それは邪魔がなかったというか……)。

 もう一つ言うと、西洋はやはり神に選ばれている面もあるのかもしれないけれども、西洋がアメリカ大陸を発見したことで、アメリカに余計な人間を全部、移民させることができた。あれで西洋は成功したのです。

―― 新大陸に行ってくれたから、やりやすかったわけですね。

執行 何か一つ、守れたのだと思います。それがあのヨーロッパの科学文明を生み出したのです。日本で言えば、大衆の圧力よりも、インテリのほうが強かったということ。だから、貧乏な大衆がみんなアメリカ大陸に行ったのです。

―― それで救われるわけですね。

執行 偶然ですが、ヨーロッパは歴史的にそういうものを抱えているのです。ダンテのこの言葉もすごいでしょう。

―― すごいですね。

執行 私も大好きな言葉です。

 〈地獄には、地獄の名誉がある〉

 これは人間の真実です。本当の名誉心とは何かを書いています。今の日本人や普通の人たちが名誉と考えている「綺麗なもの」「ありがたいもの」といったものとは違うのです。神と自分との対立でしょうか。

 この頃の人間は、神の前で神に負けています。人間が持っている理想や憧れ、美といったものは全部、悪いものと思っているのです。

―― 悪いものですか。

執行 神と対立しているから。

―― なるほど。

執行 人間なんて大したものではないことが分かっているのです、西洋人は。ルネッサンスが始まったところで。自分たちは「地獄の中で喘いでいるうじ虫だ」と、ダンテほどの人も思っている。それが結果として偉大な西洋文明を生んだ...
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