●これは狂気かもしれない。しかし筋が通っている
―― 先生、(ウィリアム・)シェークスピアの言葉も挙げていますね。〈これは狂気かもしれない。しかし筋が通っている〉。
執行 『ハムレット』です。私もこのとおりで、『葉隠』は狂気なのです。武士道は「狂う思想」ですから。だから私は『葉隠』が好きで、狂気に憧れているのです。
―― はい。
執行 世の中を動かしたのは狂気です、全部。狂気だけれど筋が通っているということは、人間の歴史や道理に適っているということです。だから、人間の歴史や人間生命の道理に適っていれば、狂気でいいということです。
これと同じようなこと言っているのが吉田松陰です。
吉田松陰も、人間にとって最も重要な働きは「狂」であると。もちろん『葉隠』もそうです。この狂気の段階に行けるのが、言葉を換えると信念なのです。
―― そうか。狂気だけど、信念。
執行 信念は全部、狂気。これは日本人に限りません。英国ジェントルマンもそうです。英国ジェントルマンの本はほとんど読み尽くしましたが、全員持っている信念は狂気です。今言ったローマの元老院議員、つまり神の子孫たちも全部、狂気です。
『ローマ帝国衰亡史』という、ローマがどんどんダメになっていくさまを(エドワード・)ギボンという英国の学者が書いている有名な本があります。この『ローマ帝国衰亡史』も読むとわかりますが、ローマ帝国がダメになりだしたのは、自分たちエリート層が神の子孫であることを疑いだしたときです。
―― 疑いだしたときですか。
執行 そう。だから「まともになった」ということです。今風に言うと「よい人になった」。だから、ローマが世界を支配していた頃は、元老院議員は全員が神の子孫だと信じて疑わないときです。これも重大です。
―― 重大ですね。ものすごく大事なところです。
●カルタゴは滅ぼさねばならぬーーその背景にあるもの
執行 あとは、有名な大カトー(マルクス・ポルキウス・カト・ケンソリウス)がいますね。カトー家も一番有名な貴族の家系で、何人も有名な人が出ています。
―― 小カトーでなく、大カトーのほうですね。
執行 そう、カルタゴとのポエニ戦争を戦った人です。誰と喋っていても、いつ演説していても、死ぬまで締めくくりの言葉が必ず「であるからゆえに、カルタゴは滅ぼさねばならぬ」だったと...