●魏徴の言葉は「恩が中心」の純粋無垢
―― 先生の『人生のロゴス 私を創った言葉たち』(実業之日本社)という本について少しお話を聞かせていただけますか。
執行 私は命がけで読書をしてきました。読書が人生です。読書が一番最初に私の武士道をつくりました。そのような「武士道の読書」で得た、自分が座右銘にした人生を立てる言葉があります。簡単な言葉ですが、そんな座右銘に選んだ言葉を約190名分選びました。
小学校のときから70歳近くまで、自分の人生を立てるために選んだ言葉を1人1つずつ見開きで紹介しています。偉大な人の言葉が載り、その言葉と私との出会いや、どういう付き合い方をしたかといった解説が1ページずつ190人分書いてあります。
これを座右に置けば、どんな人でも必ず一つや二つは自分自身の生涯が立つような言葉に出会えます。そういう言葉をまとめたのです。これは役に立ちます。
―― これ、すごいです。バラバラ見ていると、必ず(こころに)引っかかるところが……。
執行 必ずあります。ない人はいません。
―― 最初にちょっと聞かせていただきたいのが、魏徴です。この言葉〈人生意気に感ず〉が大好きで、先生の解説と出会いがすごいと思いました。
執行 これは有名な詩です。
〈人生意気に感ず、功名誰(た)れか復(また)論ぜん〉
これは、日本男子なら誰でも好きではないでしょうか。私も数に漏れず、小学校から大好きな言葉です。
魏徴はご存じだと思いますが、中国の大唐帝国、世界で一番偉大だった頃の大唐帝国の建国の功臣です。有名な3代皇帝・太宗に仕えました。この人が書いた長い詩の最後のひとくだりで、〈人生意気に感ず、功名誰れか復論ぜん〉は誰もが一番好きなので取り上げています。
でも、これは私自身の武士道というのかな、格好つける意味ではなくて、「認めてもらいたい」「偉くなりたい」「やりがいを持ちたい」など、何か目的性がある魂で価値あることは絶対に成せないという意味です。
―― なるほど、絶対成せないと。
執行 いい言葉で言うと、純粋無垢。ただただ宇宙的な現象に対してぶつかっていく人だけが初めて何物かできると、魏徴が自分の人生から言っているのです。唐帝国創業の功臣ですから、彼の詩を読んでも一番心に残るのは、太宗皇帝を中心として恩義、日本人で言う人生の恩が中心になっていることです。
―― なるほど、恩が中心になっているのですね。
執行 恩が中心だからこそ、自分の出世とか目的、成功、幸福といったものがないのです。唐帝国の功臣で、太宗皇帝によって拾われ、一人前にしてもらった。だから、唐帝国を創るために自分が身を捨てて、やりたい。いわば武士道です。だから好きなのです。
―― 武士道そのものなのですね。
執行 『葉隠』そのものです。そういう意味で大好きで、小学校からずっと座右銘です。
―― なるほど。
●手帳に貼ってもいいから、見なければダメ
執行 ただ、こういう言葉には誰でも感応するのでしょうが、これは座右銘に掲げていないと、すぐにダメになるのです。「こういうことができる」と思うと大間違いで、人間はどんなに「ああ、素晴らしいな」「こういうふうに生きたい」と思っても、毎日見ていないと絶対ダメになります。
―― やはり毎日見ることがすごく大事なのですね。
執行 毎日見なければダメで、掲げることです。だから座右銘なのです。
―― なるほど。
執行 いつも手帳か何かに書いているものを見る。暗記しているだけではダメです。活字にして紙に書いて、手帳に貼ってもいいから見なければダメ。
―― 見なきゃダメなのですね。
執行 見なきゃダメ、読まなきゃダメ。これはかなり物事の中心的な考えです。今、あまりわかる人はいませんね。
―― それは先生、すごくいいことを教えていただきました。
執行 これは読むことが、どれだけ大切かということです。例えば、お経は暗記してやってもダメなのです、本当は。
キリスト教の祈祷文もそうです。みんな祈祷文を見ますが、祈祷書がどんなに簡単なお祈りでも、見て読まなければダメなのです。みんな暗記していますが、暗記したものを言ったのでは、ある種の自我になるからです。
―― なるほど。
執行 ところが、活字などで書いてあるものを読むと、心を込めれば魏徴の心と融和できるのです。言葉を暗記すると、自分になる。だから、お経などは暗記していても必ず読む。読まないとダメです。
―― 確かに読んでいますね。
執行 ほとんどの人はみんな、暗記しています。でも読まなきゃダメ。祝詞(のりと)もそうです。祝詞も必ず文を読む。読むことで祝詞の中に入っている魂と自分とのつながりが出てくるのです。暗記してしまうと全部、自分になってしまう。だから、この文...