昨今「8050問題」として取りざたされることの多い「引きこもり」の問題だが、その考え方には、日本と中国・韓国で「家族観」の違いがある。また、対応の仕方は日米で全く違うという。また、近年、教育格差が叫ばれる中、戦後の日本の教育については一つ誤解がある。「戦後、日本の教育は自由になった」と思われがちだが、実は戦前のほうが自由だったという。いったいどういうことなのか。このほか、同調圧力について、メンタルの病気についてなど、会場からの4つの質問に対して、與那覇氏が真摯に回答をしていく。(2025年8月30日開催:早稲田大学Life Redesign College〈LRC〉講座より、全7話中第7話)
※司会者:川上達史(テンミニッツ・アカデミー編集長)
≪全文≫
●同調圧力とメンタルの病気
【質問】コロナ禍の日本では、マスクをしていない人に「何でしないんだ!」と責める風潮がありました。またエスカレーターに乗るとき、右側が全部空いていても、みんな左側に並びます。これらは日本が農耕社会であったことと関係ありますか。
與那覇 「同調圧力」という言葉が、コロナの途中から流行るようになりました。それに関する問題ですね。つまり、他の人と違うことを言うとか、やることに対して、日本社会では非常にハードルが高い。それこそ山本七平さんが「これは異様だ」と思ったように、みんなと同じ高さに稲を揃えることが是とされ、それを乱す人が悪いことをやっているように捉えられてしまうということなのでしょう。
言い方を変えると、二宮尊徳(的)道徳にしても、中井久夫さんは、「尊徳はダメ」と言っているのではなく、尊徳的なやり方が機能する時代はそれで良かったのです。中井さん自身、尊徳に温かい眼差しを注いでいるところがあります。
エスカレーターの半分にひたすら並ぶ例のように、「みんなで一緒にこれをやって、その状態を維持しよう」というやり方が、合理性と合致していれば、それは日本にとって、すごくプラスな変化をもたらします。明治以降のスムーズな近代化も、たぶん合致したところがあったからできたのです。
ところが、合理的ではないものが、「みんなで一緒に丈の揃った田んぼを作りましょう」といった発想と結びつくと、本当に異常な状態になってしまうのです。
エスカレーターに関していうと、皆さん、体験されたことはありませんか。私はあまり飛行機に乗りませんが、空港のエスカレーターで片側に乗って、しかも持っているスーツケースを自分の隣ではなく、隣を空けたまま下の段に置く人がいる。その結果、行列が倍になってしまう。「それはダメだろう」と普通に思うのですが、みんながやっていることに逆らってスーツケースを隣に置く勇気が、なかなか出ないのですね。
だから、こういうことをどうしたらいいかは、これからの大きな課題だと思います。
【質問】
うつ病や統合失調症は、環境の影響もありますが、遺伝的な要素も大きいように思います。話を聞くと、子どもがそうだった場合、親や兄弟もそうだったというケースが非常に多い気がします。これまでの日本の歴史と関係ありますか。
與那覇 病気と遺伝の問題...