ラカンの精神分析~心の謎を解き明かす
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ほしいものが、ほしいわ。…欲望の無限運動が資本主義の基盤
ラカンの精神分析~心の謎を解き明かす(4)欲望と欲求と欲動
斎藤環(つくばダイアローグハウス院長/筑波大学名誉教授)
「ほしいものが、ほしいわ。」――これはいわゆるバブル期に糸井重里氏が作った有名なキャッチコピーだが、私たちが常日頃から抱く「ほしい」という思いは、どこから生まれるのか。第4話ではラカンの精神分析の視点から、人間に潜む3つの心の動きを解き明かす。満たされても次から次へとその対象がスライドしていく無限運動としての「欲望」。生物的に満たされれば満足するはずが、ときに過食などの歪みを生む「欲求」。そして、対象を持たず人間の最も根源的な方向性を定める「欲動」。これら酷似した概念の違いを整理し、現代社会に生きる人たちの精神構造を読み解く鍵を提示する。(全7話中第4話)
時間:6分53秒
収録日:2025年12月8日
追加日:2026年6月22日
≪全文≫

●欲望――「ほしいものが、ほしいわ。」決して満たされない無限運動


 これからは欲望(についての話)です。

 人は対象に名前を付けることで、必然的に対象を捉え損なうことになります。なぜならば、言語は対象の不在の代わりに獲得されるものだからです。(そして)欠如したシニフィアンによってもたらされる空白こそが欲望の基盤となります。

 欲望は普通、満たされても満足できません。欲望は、満たされるとすぐ次の対象を見つけてきて、そちらに対象がスライドしていくという無限運動です。

 この欲望の無限運動が資本主義の基盤にあると考えられています。みんながある時点で満足を獲得していたら、社会の進歩はそこで止まるわけですけれど、人々はみんな満足しない(満足しきってしまうことはない)ので、次から次へと(欲望の無限運動が進んで)いく。IT関係を見れば、よく分かりますよね。コンピュータができました。インターネットができました。Googleができました。SNSができました。今はAIの時代ですよね。これは人間の欲望がいかに無制限かということを意味していると思います。

 このように、欲望は決して満たされることがない一つの方向性を示す状態です。それは言語で構成されていると考えます。

 その例えとして、キャビアの例があります。フロイトが紹介する、ある肉屋の美人妻のエピソードは、欲望がいかに言葉によって構成されているかを物語っています。この女性はキャビアが好きだったのですけれど、彼女が夢に見たのはキャビアではなくサーモンでした。フロイトは当時、夢を「願望充足」と言っていたので、彼女はこの例を持ってきてフロイトに、「私はキャビアが好きなのにサーモンの夢を見たんだから、願望充足じゃないじゃん」と反論するのです。フロイトは負けん気が強いので、そんなことでは屈しません。神経症である彼女の欲望は――人間は誰もが神経症なのですけれど――、満たされない欲望を持ちたいという欲望であると解釈したのです。(つまり)彼女自身、満足したくないのだと解釈したのです。

 これは見事なこじつけですけれど、見事な解釈ともいえます。要するに、満たされない欲望を持ちたいという欲望は、人類に普遍的にあるものなのです。

 バブル期に糸井重里さんが作った有名なキャッチコピーに「ほしいものが、ほしいわ。...

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