ラカンの精神分析~心の謎を解き明かす
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暴いてはいけない!?心を理解する上で重要な「否定神学」とは
ラカンの精神分析~心の謎を解き明かす(5)否定神学とラカン理論の限界
斎藤環(つくばダイアローグハウス院長/筑波大学名誉教授)
なぜ精神分析において「暴いてはいけない」謎が必要なのか。それは、人間の心理や精神を理解する上で重要な「否定神学」の構造と深い関係がある。否定神学とは、神は決して言葉では言い表せない、つまり否定形式でしか語れないという考え方で、全てを解明することの愚かさを指摘していると斎藤氏は言う。いったいどういうことなのか。第5話では、否定神学について、具体的な事例を紹介しながら、その構造と2000年代以降の批判、そして「ラカン理論の限界」にも鋭く切り込んでいく。(全7話中第5話)
時間:13分05秒
収録日:2025年12月8日
追加日:2026年6月23日
≪全文≫

●否定神学――神を言い表すとすれば否定形式しか使えない


 ここから先は別の話になります。否定神学についてお話しします。

 まず否定神学とは何かですけれど、キリスト教神学の歴史においての一つの潮流です。どういうことかといいますと、神のことは決して言葉では言い表せない、神を言い表すとすれば否定形式しか使えないということです。つまり、「神は数も、序列も、大きさも、小ささも持たず、同等性でも不等性でもない。又相似性でも非相似性でもありえず、不動でもありえず、又動きもせず…」ということで、延々とリストが続いていきます。それを形容する全てのリストが出てきて、それら全てがノーと言われてしまう。どれでもないと言われてしまう。つまり、神は先ほど(第3話)の比喩でいうと、いわば現実界のようなもので、決して言葉でアプローチできない存在であると、この(神秘神学の)学者は言ったわけです。これが典型的な否定神学です。

 ニーチェによる「神の死」以降ですが、神は否定系でさえ語る価値を失っていきます。神に代わって無意識とか主体とか、そういうキー概念を代入して、それ自体は語れないけれど、それとの位置関係によって理論構築はできるという発想が流行りました。ラカンの理論はこれに極めて近い、ということです。

 例えば、去勢がそうです。去勢を経て人は言語を獲得するということは、象徴界の中心にファルスという穴が一個あるわけですね。この穴は謎で解明できないけれど、この穴があると想定すると、象徴界の作動(仕組み)がよく見えてくるという話です。

 他にも構造主義がそうであるように、ゼロ記号、つまり欠如を中心に据えると全体の構造が安定するという理論体系があります。ジジェクなどをはじめとするラカン派論調の基盤は、この初期ラカンが提唱した神経症論すなわち否定神学となります。

 中心に欠如があって、その欠如は説明できないけれど、それが全体の構造を支えていると考えると、とても厳密な議論が展開できるということで、非常に魅力的な議論となりました。

 エディプスについては、先ほど言いましたから省略しますけれど、「ペニスの象徴を作り出すことで、母親におけるペニスの欠損を埋め合わせようとす...

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