●監督の仕事は、自分の言葉で伝えること
── 清宮さんは、当時どん底だった早稲田大学のラグビーをよみがえらせ、今回、やはりどん底で入替戦をしなければいけなかったヤマハ発動機ジュビロというチームを変えていかれました。その中で培われたプロフェッショナルとしての監督業を通して、リーダーとはどういうものを持っていなければいけないと思われますか。
清宮 僕もよく考えるのですが、今年のチームで、僕が選手たちに与えたものの中で一番大きなものは、やはり「伝える力」ですね。「俺たちは、こうしたいんだ」「こうするためには、ここが必要なんだ」、そして「これがこうなったら、こういうことができるんだ」ということを、本当に選手に分かりやすく伝えていくことが、僕の仕事だったのだなと思います。
例えば、まずい試合をしたとき、終わってから「お前、何やってんだ」と言って、これがどうした、こうした、ああしたなどと注意することは誰でもできます。ただ、「これは悪いプレーだ、これをよくしよう」と言っている限り、永遠と同じことを繰り返すだけなのです。自分たちはどうなりたいのかというところをしっかり伝えることで、本当に選手たちの根っこから変えられるのではないでしょうか。
── 現象面だけで、これが駄目だ、あれが駄目だと言っている限りは、いつまでたっても進展せず、根っこから変えることはできない。どうなりたいのか。どういう方向で俺たちはやっていくのか。そういうことを伝えるのが、非常に大事なのですね。
清宮 そう思います。僕以外にも優秀なコーチが居て、テクニカルな部分では、そういうコーチたちも発言をしますし、指導もして改善をします。そのような中で、僕が僕である理由、必然とは、そういうコーチたちが伝えようとしていることを自分の言葉に換えて、分かりやすく選手に伝えることなのかな、と一年かけて思いました。
── そういう思いがないと、「伝える」という形の集中力がどっと出てこないわけですね。つまり、コーチたちが教えていることを、トータル的に分かりやすく言い換えるときの言葉が出てこないということですね。
清宮 それが、僕の今年一年の仕事だったかなと思います。
●コーチたちの話を短くまとめるスタイルに
── 早稲田の時もそうしていたのでしょうか。
清宮 いや、早稲田の時は、もっと自分でやっていましたね。
── スタッフが居ないから、やはり自分でやっていたのですね。
清宮 スタッフは居ましたけれども、そこまでコーチたちに責任を与えていなかったのですね。
── ましてや、ヤマハと早稲田ではプロの組織と大学ですから、全然違いますよね。
清宮 例えば、ハーフタイムでロッカーに戻ってきた選手に、前半戦を終えて後半戦で何をどう変えていくのか、それを伝えるための時間が10分間あります。この時が、監督やコーチたちの仕事で、見せ場なのです。過去の僕なら、おそらくいろいろな選手に声を掛けたことで情報を伝えたつもりになり、10分間本当に働いたつもりになっていたのですが、今はそうではありません。
今、僕が出ていくのは、各コーチやリーダーたちが話していることを聞いてから、それをまとめて伝えるための30秒ぐらいだけなのです。ハーフタイムに僕が伝えることは、本当にシンプルに「これだけはやろう」といったことを一つか二つだけです。そのように変わったのも、今年からかもしれません。
── 長谷川慎さんがフォワードコーチで、ヘッドコーチが堀川隆延さん。
清宮 堀川コーチが選手たちに具体的な指示を出し、それをまとめる形で、僕が最後に「試合を決めるポイントはこれだ」というようなことを言った後、選手たちは出て行きます。
── それは新しいスタイルですよね。
清宮 僕の中ではそうですね。以前とは変わったスタイルです。
●選手の自主性を高めるため練習時から変更
── 早稲田の時は、全部個別に言っていたわけですね。サントリーの監督時代とも変わっていますか。
清宮 おそらく変わっていると思います。ただ、それはグラウンドでの練習面でも同じなのです。練習のスタイルも、以前は僕が笛を吹いて、選手たちと一緒にグラウンドを走っていたのです。そうやって、目の前で起こったことに対して、常に僕が笛と声を使いながら、「今のはこうするべきだ」とか、「お前、何やってるんだ」とか、「そこになんで入らないんだ」と声を掛けながら、練習を組み立てていたのです。
そのスタイルも、今年変えました。選手たちの自主性を高めるために、僕は外から見てまとめるというやり方をしました。笛を吹くのは堀川コーチで、僕は遠いところから見てまとめる。つまり、目の前で起こったことを注意するのは堀川コーチです。そういうスタイルに変えたことで、今年チームが良...