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羽田空港D滑走路では1000トンものチタンを使用!

レアメタルの光と影(2)チタンの優れた特長

岡部徹
東京大学生産技術研究所 所長
情報・テキスト
http://www.nssmc.com/product/use/case/artificial_island/haneda.html
チタンには、いくつかの優れた特長があると、日本を代表するレアメタル研究の第一人者である岡部徹氏は言う。軽いのに高強度。さびない。生体適合性が高い。さらにチタンの合金は、形状記憶や超弾性などの特殊な物性を示すものもある。これらの特長を生かして、チタンはさまざまな場面で活用されている。その活用範囲をのぞいてみよう。(2015年4月20日開催日本ビジネス協会JBCインタラクティブセミナー講演「レアアースをはじめとするレアメタルの光と影」より、全7話中第2話目)
時間:07:11
収録日:2015/04/20
追加日:2015/08/10
≪全文≫

●ガンダムは、レアメタル的先見性の塊


 次の質問です。これ(浅草寺)とこれ(機動戦士ガンダム)を見て、「なるほど、今日の岡部は、この話をするのか」と分かる方、おられるでしょうか。おそらく、オタクの人には一発で分かると思います。もう少しヒントが要りますかね。皆様、分からないですか。では、ヒントにいきましょう。

 こうなると、もう分かりますね。答えはチタンです。

 最新鋭の大型航空機は「炭素繊維のかたまり」といわれるほど多量な炭素繊維を使っていますが、金属に用いる主要部品については、他の金属がどんどんチタン合金に替わっていて、今では合計10トンほど使うこともあります。また、皆様がよく利用される羽田空港のD滑走路では、海に浮いている部分の天井裏に1000トンもチタン板が使われています。これはすごいですね。ちなみに柱の垂直部分はステンレス鋼製だそうです。

 そして、ガンダムはなんと「ルナチタン」でできています。チタンとレアアースの合金だというから、すごい先見性があります。ただ、チタンとレアアースは、水と油のように混ざらず、今の科学技術の力ではこれらを上手く混合することはできません。しかし、ガンダムが動きまわる時代には、混ざらないレアメタルを混合して合金化する素晴らしい技術が開発されているという設定です。(初めてガンダムのストーリーが作られた)当時としては、すばらしい先見性があったと思います。


●実は今、有名な寺社仏閣はチタン屋根に


 では、これは何でしょう。皆様、知っていますね。浅草の浅草寺です。昔は重たい“素焼きの瓦を”使っていたのですが、今は、この瓦は薄いチタン箔で出来ており、中は中空です。ただ、中空だとへこんでしまうこともあるので、中に木を入れています。見た目はとても重たい瓦のふりをしていますが、実はとても軽いものです。

 チタンのような金属でつくると、ムラのない、のっぺりした、全く同じものが工業製品として出来上がります。ただ、それでは「素焼きの瓦“感”」が出ません。そこで、結構、手間がかかるのですが、わざとブラスト処理を変化させて色を何種類かに変えてランダムに仕上げ、意図的に色ムラをつけて重たい素焼きのふりをさせています。せっかくチタンなのに、“素焼きの瓦のふり”をしなければいけないのは、何かかわいそうですね。皆様は、今日を境にして、今後は浅草の浅草寺を「チタン寺」と呼ぶようにしてください。

 もっと驚くのは北野天満宮です。天満宮の屋根はもともと銅葺きで、「あの緑色は『緑青』と呼ばれているさびの一種なんだ。銅がさびると、(銅イオンの色である)緑青になるんだよ」と、親が子どもに“うんちく”を語る場所になっています。

 昔は、この緑青が雨水に溶けて銅イオンを含む水溶液が庭に垂れて、周りの木々を枯らしてしまうことがありました。しかし、今は実を言うと、この緑青色の屋根板も銅ではなく、今はチタンの板なのです。通常、チタンのままでは銀色のピンピカですから、緑青色に見えるよう表面処理をしているのです。

 チタンが、かわいそうでしょう。(本来は銀白色の)チタンなのに、(陶器や銅など)いろいろな別の素材のふりをしなければいけないのです。金閣寺の茶室もチタン葺きになってしまいましたが、皆、チタン製の板が使われているという事実はあまり言わないのです。一般にこの事実が知られてしまうとチタンの売れ行きに影響するかもしれませんが、実際は、チタンは意外なところで使われています。これは、飲み屋のうんちく話にしてください。


●軽くてさびないためチタンの用途は多岐に


 それから、フジテレビの社屋の銀色の球体の部分もチタンでできています。要は、金に糸目をつけなくていい所は、どんどんチタンに置き換わっているのです。なぜなら、絶対にさびないし、軽いので、屋根の下の構造物に影響がないからです。

 また、軽い上に、金属材料の中では一番強度があります。ですから、戦闘機には多量のチタン合金が使われています。実は、今も、チタンとこの合金の需要のほとんどは航空機産業が占めているのです。

 その次に使われているのは、蒸気を水に戻す復水器のパイプです。私たちはコンデンサー(凝集器)と呼んでいます。昔は熱伝導に優れた銅製のパイプを配管として用いいましたが、銅だと、海水を使った場合に少しずつ穴が開いたりします。すると、それをふさいでメンテをするためのコストが次々とかかります。チタンにすると、熱交換器はメンテナンスフリーになりますから、今は多くの熱交換器がチタンになっています。サウジアラビアなどが(石油や海水淡水化関連の)プラントをつくると多量のチタンを使いますので、チタンの売れ行きは良くなります。


●耐腐食性で売れ行きが伸びないチタンの悩み


 ただし...
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