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DATE/ 2016.08.04

「無駄な会議」は何故なくならないのか?

 日本人は長い時間働くのに、労働生産性は低いと言われます。つまり、長い時間職場に拘束される割に会社は儲からない、よって給料もそんなに増えないということです。

 日本の職場の労働生産性を下げる要因はいくつかありますが、その中でも大きなものは「会議」です。無駄な会議が多すぎることが日本人の労働時間を長引かせ、効率を下げているのです。

論理よりも感情が優先される会議

 一般論ですが、アメリカの会議では論理が、日本の会議では感情が優先されます。なぜでしょうか?

 アメリカ人が論理的で、日本人が感情的だからではありません。アメリカ人は仕事の場では、目的を達成するために最も優れた道を選ぶことを重視するのに対し、日本人は人間関係が壊れないことを重視するからです。

 アメリカの会議では活発に議論が交わされます。どちらの意見が優れているか、論理とデータを駆使して、ディベートが繰り広げられるのです。

 一方、日本の会議は、議論を戦わせ、どちらか一方を負かすということを非常に嫌います。あるいは、組織の権力者の意見を優先させ、全体でなんとなくその意見に従わなくてはいけない空気をつくり、その意見がたとえ間違っている可能性が高いとしても、その場では正しいことにしてしまうのです。

 そんな会議だったらする必要はないと思いますが、みなが集まって、一応賛成したという形をとることが日本式の会議では重要なのです。議論を交わしてより良い結論を導こうというのではなく、みなが合意した結論だから、協力して進みましょうということです。

 これは組織の外でも通用するような普遍的な正しさが重要なのではなく、組織の内側の調和が求められるがゆえのことです。

グローバル化以降はこのままではまずい

 実はこの「和をもって尊しとなす」精神は、かつての日本社会ではとても有効に機能していました。江戸時代の、村で協力し合いながら農業を行う社会ではもちろんのこと、戦後の高度経済成長の中でも、品質の優れた製品を大量生産するにはこの組織作りが最適だったのです。

 それは、変化の少ない安定した社会だったからだと言えます。そのような世の中では、従来型の組織の維持の方が、新しいチャレンジよりも重視されるのは当然のことで、調和を重視する会議も、それはそれで合理的だったと言えます。

 しかし、グローバル化が進む現代社会では、市場がひとつになり、非常に多くのプレイヤーで奪い合うという経済になってきています。つまり、勝者が全てを勝ち取り、敗者は全てを失うという経済です。

 激しい競争とイノベーションの中、従来型の商品やサービスは、またたく間に古くなり、新しい魅力や機能が次々に求められるということになってきています。組織もそれに合わせ、次の手を矢継ぎ早に打つことが求められるのですが、従来型の日本の会議では、そのような変化には対応できないのです。

 正しい結論よりも調和を重視していれば、組織の中は安定していますが、組織そのものが社会の中で生き残れなくなってしまいます。そうなっては元も子もありません。

一組織人としてはどうすれば良いのか

 日本企業でも現代社会に適応している企業では、すでに日本型の無駄な会議を止めて、より正しい結論を導くための会議体制に変えています。もし、あなたのいる会社が現在、調和重視型の会議を行っており今後もそれを続けるようなら、転職という可能性を視野に入れたほうがいいかもしれません。

 そうは言っても簡単に転職できない場合や、会社に愛着がある場合もあるでしょう。そのときは、正しい結論を導く会議に変えるために、次の方法が有効です。

・会議のゴールをはっきりと定義し、スタート時にみなに認識させる
・誰がどの発言をしたか、はっきりと記録をとる
・何も発言をしない人、無難なことしか言わない人はそもそも出席させない
・考え抜いた上での結論を実行した上での失敗は、マイナスではなく、うまく行かない方法をひとつ見つけたという形でプラスにとらえる

 これらを徹底させ、うまく行くようでしたら、その会社には未来があるでしょう。逆に、これらの方法が浸透しない、あるいはそもそも導入にも至らない企業は、将来的に生き残る可能性が低いといえるでしょう。もしも、そうした会社にいる場合、割り切って、自分自身の生き残りのための準備を始めたほうがいいのではないでしょうか。
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