社会人向け教養サービス 『テンミニッツ・アカデミー』 が、巷の様々な豆知識や真実を無料でお届けしているコラムコーナーです。
DATE/ 2017.06.03

昔からあった「IT×金融」の技術革新とは?

 「フィンテック」という言葉を新聞紙上で見かけない日はないぐらい、この言葉は急速に浸透してきました。一見和製英語のように見えますが、実はれっきとした英語圏ネイティブの言葉です。つまり、この言葉は世界中が注目する「金融関係のビジネスが、テクノロジーの進歩により大きく変化する」現状を物語るための用語なのです。

銀行の窓口で行列していた時代を思い出せますか?

 さて、東京大学大学院経済学研究科・経済学部の柳川範之教授は、経済とITのどちらにも門外漢であっても、その重要性についてよく分かる事例を紹介しています。それは、すでに前世紀から始まっている技術革新によるものですが、なんだと思われますか。

 答えは銀行のATMです。今や店舗内だけでなく、駅などの公共施設、コンビニなどの小売店にも珍しくなくなったATMですが、日本で初めて導入されたのは1969年のこと(住友銀行新宿支店、梅田支店に設置)。初期のものはキャッシュカードによる支払いのみが可能で、ATM(現金自動預け払い機)ではなくCD(キャッシュディスペンサー=現金支払機)と呼ばれていました。

 ATMがない頃の銀行では、自分の口座の預け入れや払い出しにさえ用紙に記入・押印する必要があり、窓口の前でずっと並んでいたのです。

グーグルは「情報通信産業」でOKですか?

 このように柳川教授のユニークな点は、金融とITの融合を、昨日や今日始まった動向とはとらえていないところです。しかし技術革新は、金融の姿を変えるだけでなく、産業間の垣根をも壊そうとしています。その例として挙げられるのは、おなじみのグーグル。「グーグルって、何産業?」と聞かれて、すぐ答えられる人は少ないでしょう。

 もともとは検索エンジンからスタートした会社ですが、オンライン広告はもとより、マップやメール、翻訳、YouTubeなど、そのサービスはインターネット上のほぼあらゆるものをカバー。最近ではネットの世界を超えて、人工知能(AI)の開発でもトップレベルの研究機関となっています。

 既存の産業分類ではとらえられないようなビジネスが成立するのが、ITテクノロジーの進化がもたらした最大のポイントといえるでしょう。

金融の「保守の壁」は、今も必要なのでしょうか

 銀行の建物や銀行マンの服装などを見れば分かるように、金融業界は、他の産業よりも強い保守性を特徴としてきました。参入の垣根も極めて高く、誰でもが「やりたいからできる」ビジネスではありません。そのことが金融の健全性や安全性を守るポイントとされ、各国の法律や制度によって強く守られる産業として継続的に発展し続けてきたのです。

 しかし、インターネットによって「世界が近く」なった現在、金融のあり方は外為や株式市場から変わろうとしています。今後、金融とテクノロジーがより強力に結びつくことで、お金の動きがどうなるのかは、専門家でなくても気になる問題です。

 そのために柳川教授が強調しているのは、短期的な変化と中長期的な変化を選別することです。短期的な注目点は、フィンテックベンチャーと呼ばれる、かつてないビジネスチャンス。中長期的に見ていくべきなのは、仮想通貨(ビットコイン)やブロックチェーン技術に対する理解です。

 ITはどこまで金融を変えるのか。歴史の変革点としても賢い利用者としても、あるいはベンチャー起業家としても、目が離せない時代といえるでしょう。
~最後までコラムを読んでくれた方へ~
雑学から一段上の「大人の教養」はいかがですか?
明日すぐには使えないかもしれないけど、10年後も役に立つ“大人の教養”を 5,600本以上。 『テンミニッツ・アカデミー』 で人気の教養講義をご紹介します。
1

なぜ空海が現代社会に重要か――新しい社会の創造のために

なぜ空海が現代社会に重要か――新しい社会の創造のために

エネルギーと医学から考える空海が拓く未来(1)サイバー・フィジカル融合と心身一如

現代社会にとって空海の思想がいかに重要か。AIが仕事の仕組みを変え、超高齢社会が医療の仕組みを変え、高度化する情報・通信ネットワークが生活の仕組みを変えたが、それらによって急激な変化を遂げた現代社会に将来不安が増...
収録日:2025/03/03
追加日:2025/11/12
2

『武功夜話』は偽書か?…疑われた理由と執筆動機の評価

『武功夜話』は偽書か?…疑われた理由と執筆動機の評価

歴史の探り方、活かし方(5)史実・史料分析:秀吉と秀次編〈下〉

豊臣秀次事件に対する見方を変えた『武功夜話』だが、実は偽書疑惑もある。今回は、そのことに鋭く迫っていく。『武功夜話』は、豊臣秀吉に仕えて大名まで上り詰めた前野長康の功績を中心に記された史料だが、その発表・出版の...
収録日:2025/04/26
追加日:2025/11/28
3

日本企業が世界のビジネスに乗り遅れた要因はオウンゴール

日本企業が世界のビジネスに乗り遅れた要因はオウンゴール

内側から見たアメリカと日本(6)日本企業の敗因は二つのオウンゴール

日本企業が世界のビジネスに乗り遅れた主な要因として、二つのオウンゴールを挙げる島田氏。その一つとして台湾のモリス・チャン氏によるTSMC立ち上げの話を取り上げるが、日本はその動きに興味を示さず、かつて世界を席巻して...
収録日:2025/09/02
追加日:2025/11/25
4

歴史作家・中村彰彦先生に学ぶ歴史の探り方、活かし方

歴史作家・中村彰彦先生に学ぶ歴史の探り方、活かし方

編集部ラジオ2025(29)歴史作家の舞台裏を学べる

この人生を生きていくうえで、「歴史」をひもとくと貴重なヒントにいくつも出会えます。では、実際にはどのように歴史をひもといていけばいいのか。

今回の編集部ラジオでは、歴史作家の中村彰彦先生がご自身の方法論...
収録日:2025/10/17
追加日:2025/11/27
5

一強独裁=1人独裁の光と影…「強い中国」への動機と限界

一強独裁=1人独裁の光と影…「強い中国」への動機と限界

習近平中国の真実…米中関係・台湾問題(1)習近平の歴史的特徴とは?

「習近平中国」「習近平時代」における中国内政の特徴を見る上では、それ以前との比較が欠かせない。「中国は、毛沢東により立ち上がり、鄧小平により豊かになり、そして習近平により強くなる」という彼自身の言葉通りの路線が...
収録日:2025/07/01
追加日:2025/09/25
垂秀夫
元日本国駐中華人民共和国特命全権大使