社会人向け教養サービス 『テンミニッツ・アカデミー』 が、巷の様々な豆知識や真実を無料でお届けしているコラムコーナーです。
LGBTの子どもが置かれている現状と問題点
多くの事件、事故のニュースの中でも、子どものいじめに関するニュースにはとりわけ胸が痛みますが、実はこのいじめの中には、性的マイノリティであるLGBT(レズビアン・ゲイ・バイセクシュアル・トランスジェンダー)の子どもたちに対するいじめや排除が少なくないのです。
先生の加担というのはショッキングな事実ですが、「手助けしたくても、どのようにサポートしていいのか分からない」「チャンスがあれば、LGBT生徒の対応の仕方を学びたい」という先生の声も多く聞かれたというのが、せめてもの救いでしょうか。
とりわけトランスジェンダー、性同一性障害の子どもたちの悩みは深刻です。多くの子が中学入学時に制服を着ることになるのですが、心と体の性が一致しない彼らにとって、スカートやズボンを身につけることは、時に吐き気を催すほど嫌悪することも。それでも、先生からは「わがままだ」の一言で一蹴されてしまうことがほとんど。それ以外にも、トイレに行く、皆と一緒に着替えをするといった、ごく日常的な行為が苦痛で、しかし誰にもその悩みを打ち明けられずに不登校になってしまうケースもしばしばあるのだそうです。
主な問題点の1つは、「性同一性障害は精神障害」と位置づけられていること。さらに、戸籍を変えるためには、「生殖腺がないこと、または生殖腺の機能を永続的に欠く状態にあること」が必要とされ、いわゆる「断種手術」と呼ばれる手術が必要になってくることです。子どもたちにとっての精神的、肉体的苦痛は計り知れないものがあり、仮に手術を決心したとしても、精神障害であるという診断書はどうするのか、そのための保険証やお金はどうすればいいのか、といったハードルも数しれず。何よりも、親に事実を告白しなければならないという最大の難関が子どもたちの前に立ちはだかっているのです。
世界には、同性婚を法律的にも認めているLGBTへの理解が進んだ国がいくつもある一方で、約80カ国で性的マイノリティが刑事処罰の対象になっているそうです。幸い、日本ではそのようなことはありません。だからこそ大事なことは、LGBTへのいじめや差別がそうした子どもたちに刑事処罰にも等しい苦しみを与えていることを、一人でも多くの人が知ることではないでしょうか。
実態調査が分かったショッキングな事実
こうした実態を正確に知るために、世界2大人権保護団体の1つであるNGO ヒューマン・ライツ・ウォッチ(HRW)日本が、LGBTの生徒、その親、先生や専門家らを対象にインタビューおよびアンケート調査を実施。2016年に「出る杭は打たれる 日本の学校におけるLGBT生徒へのいじめと排除」と題した報告書をまとめました。その中で、HRW日本代表の土井香苗氏は、LGBT生徒へのいじめを実際に経験したり見聞きしたりしたという回答は予想通り多かったとし、そのいじめの特徴として、先生の加担・容認というケースが相当数あるという点を挙げています。先生の加担というのはショッキングな事実ですが、「手助けしたくても、どのようにサポートしていいのか分からない」「チャンスがあれば、LGBT生徒の対応の仕方を学びたい」という先生の声も多く聞かれたというのが、せめてもの救いでしょうか。
「いじめは駄目」では解決しない
土井氏は、「今の文科省の指導は『絶対いじめは駄目」というものだが、『駄目」一辺倒ではそれこそ駄目。特にLGBT生徒の場合はさまざまに複雑な背景を抱えていることが多く、そのような背景に対する教師の理解や専門的知識、経験が必要となってくる』と言います。とりわけトランスジェンダー、性同一性障害の子どもたちの悩みは深刻です。多くの子が中学入学時に制服を着ることになるのですが、心と体の性が一致しない彼らにとって、スカートやズボンを身につけることは、時に吐き気を催すほど嫌悪することも。それでも、先生からは「わがままだ」の一言で一蹴されてしまうことがほとんど。それ以外にも、トイレに行く、皆と一緒に着替えをするといった、ごく日常的な行為が苦痛で、しかし誰にもその悩みを打ち明けられずに不登校になってしまうケースもしばしばあるのだそうです。
性同一性障害特例法の問題点
2003年に「性同一性障害者の性別の取扱いの特例に関する法律」、いわゆる性同一性障害特例法が成立しました。これにより、合法的に戸籍上の性を変えることができるようになったわけで、そのこと自体は非常に重要で確かな前進といえるでしょう。しかし、この特例法にはまだ大きな問題点がある、と土井氏は指摘します。主な問題点の1つは、「性同一性障害は精神障害」と位置づけられていること。さらに、戸籍を変えるためには、「生殖腺がないこと、または生殖腺の機能を永続的に欠く状態にあること」が必要とされ、いわゆる「断種手術」と呼ばれる手術が必要になってくることです。子どもたちにとっての精神的、肉体的苦痛は計り知れないものがあり、仮に手術を決心したとしても、精神障害であるという診断書はどうするのか、そのための保険証やお金はどうすればいいのか、といったハードルも数しれず。何よりも、親に事実を告白しなければならないという最大の難関が子どもたちの前に立ちはだかっているのです。
LGBTへのいじめや差別をなくすために
土井氏はこのような特例法の見直しを含め、LGBTへのいじめや差別を禁止する法律、制度が急務であると国に、社会に訴えます。世界には、同性婚を法律的にも認めているLGBTへの理解が進んだ国がいくつもある一方で、約80カ国で性的マイノリティが刑事処罰の対象になっているそうです。幸い、日本ではそのようなことはありません。だからこそ大事なことは、LGBTへのいじめや差別がそうした子どもたちに刑事処罰にも等しい苦しみを与えていることを、一人でも多くの人が知ることではないでしょうか。
~最後までコラムを読んでくれた方へ~
「学ぶことが楽しい」方には 『テンミニッツTV』 がオススメです。
明日すぐには使えないかもしれないけど、10年後も役に立つ“大人の教養”を 5,600本以上。
『テンミニッツ・アカデミー』 で人気の教養講義をご紹介します。
知ってるつもり、過大評価…バイアス解決の鍵は「謙虚さ」
何回説明しても伝わらない問題と認知科学(3)認知バイアスとの正しい向き合い方
人間がこの世界を生きていく上で、バイアスは避けられない。しかし、そこに居直って自分を過大評価してしまうと、それは傲慢になる。よって、どんな仕事においてももっとも大切なことは「謙虚さ」だと言う今井氏。ただそれは、...
収録日:2025/05/12
追加日:2025/11/16
「50億人を救う」と宣言したゲイツとの粋なエピソード
内側から見たアメリカと日本(3)ビル・ゲイツの世界戦略
ラストベルトはアメリカの経営者により生まれたが、それは決して攻撃ではなく、合理的な経営判断による必然的なりゆきだった。その一例として島田氏は、マイクロソフトのビル・ゲイツ氏が中国でスピーチした光景を思い出す。世...
収録日:2025/09/02
追加日:2025/11/17
「宇宙の階層構造」誕生の謎に迫るのが宇宙物理学のテーマ
「宇宙の創生」の仕組みと宇宙物理学の歴史(1)宇宙の階層構造
宇宙とは何かを考えるうえで中国の古典である『荘子』・『淮南子(えなんじ)』に由来する「宇宙」という言葉が意味から考えてみたい。続いて、地球から始まり、太陽系、天の川銀河(銀河系)、局所銀河群、超銀河団、そして大...
収録日:2020/08/25
追加日:2020/12/13
脳内の量子的効果――ペンローズ=ハメロフ仮説とは
エネルギーと医学から考える空海が拓く未来(2)量子論と空海密教の本質
「ワット・ビット連携」の概念がある。これは神経と血管の関係にも似ており、両者が密接に関係するところから、それをもとに人間の本質について考察していくことになる。また、中村天風の思想から着想を得て、人間の心には霊性...
収録日:2025/03/03
追加日:2025/11/13
図書館の便利な活用法…全国の図書館からの「お取り寄せ」
歴史の探り方、活かし方(2)図書館「レファレンス」の活用
公共図書館では質の高い「レファレンス」サービスを提供しているが、活用する人は限られている。だが、実は全国の図書館ネットワークを縦横無尽に活用できる、驚くほどに便利な仕組みなのだ。今回は図書館のレファレンスで何が...
収録日:2025/04/26
追加日:2025/11/15


