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DATE/ 2017.09.18

LGBTの子どもが置かれている現状と問題点

 多くの事件、事故のニュースの中でも、子どものいじめに関するニュースにはとりわけ胸が痛みますが、実はこのいじめの中には、性的マイノリティであるLGBT(レズビアン・ゲイ・バイセクシュアル・トランスジェンダー)の子どもたちに対するいじめや排除が少なくないのです。

実態調査が分かったショッキングな事実

 こうした実態を正確に知るために、世界2大人権保護団体の1つであるNGO ヒューマン・ライツ・ウォッチ(HRW)日本が、LGBTの生徒、その親、先生や専門家らを対象にインタビューおよびアンケート調査を実施。2016年に「出る杭は打たれる 日本の学校におけるLGBT生徒へのいじめと排除」と題した報告書をまとめました。その中で、HRW日本代表の土井香苗氏は、LGBT生徒へのいじめを実際に経験したり見聞きしたりしたという回答は予想通り多かったとし、そのいじめの特徴として、先生の加担・容認というケースが相当数あるという点を挙げています。

 先生の加担というのはショッキングな事実ですが、「手助けしたくても、どのようにサポートしていいのか分からない」「チャンスがあれば、LGBT生徒の対応の仕方を学びたい」という先生の声も多く聞かれたというのが、せめてもの救いでしょうか。

「いじめは駄目」では解決しない

 土井氏は、「今の文科省の指導は『絶対いじめは駄目」というものだが、『駄目」一辺倒ではそれこそ駄目。特にLGBT生徒の場合はさまざまに複雑な背景を抱えていることが多く、そのような背景に対する教師の理解や専門的知識、経験が必要となってくる』と言います。

 とりわけトランスジェンダー、性同一性障害の子どもたちの悩みは深刻です。多くの子が中学入学時に制服を着ることになるのですが、心と体の性が一致しない彼らにとって、スカートやズボンを身につけることは、時に吐き気を催すほど嫌悪することも。それでも、先生からは「わがままだ」の一言で一蹴されてしまうことがほとんど。それ以外にも、トイレに行く、皆と一緒に着替えをするといった、ごく日常的な行為が苦痛で、しかし誰にもその悩みを打ち明けられずに不登校になってしまうケースもしばしばあるのだそうです。

性同一性障害特例法の問題点

 2003年に「性同一性障害者の性別の取扱いの特例に関する法律」、いわゆる性同一性障害特例法が成立しました。これにより、合法的に戸籍上の性を変えることができるようになったわけで、そのこと自体は非常に重要で確かな前進といえるでしょう。しかし、この特例法にはまだ大きな問題点がある、と土井氏は指摘します。

 主な問題点の1つは、「性同一性障害は精神障害」と位置づけられていること。さらに、戸籍を変えるためには、「生殖腺がないこと、または生殖腺の機能を永続的に欠く状態にあること」が必要とされ、いわゆる「断種手術」と呼ばれる手術が必要になってくることです。子どもたちにとっての精神的、肉体的苦痛は計り知れないものがあり、仮に手術を決心したとしても、精神障害であるという診断書はどうするのか、そのための保険証やお金はどうすればいいのか、といったハードルも数しれず。何よりも、親に事実を告白しなければならないという最大の難関が子どもたちの前に立ちはだかっているのです。

LGBTへのいじめや差別をなくすために

 土井氏はこのような特例法の見直しを含め、LGBTへのいじめや差別を禁止する法律、制度が急務であると国に、社会に訴えます。

 世界には、同性婚を法律的にも認めているLGBTへの理解が進んだ国がいくつもある一方で、約80カ国で性的マイノリティが刑事処罰の対象になっているそうです。幸い、日本ではそのようなことはありません。だからこそ大事なことは、LGBTへのいじめや差別がそうした子どもたちに刑事処罰にも等しい苦しみを与えていることを、一人でも多くの人が知ることではないでしょうか。
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