社会人向け教養サービス 『テンミニッツ・アカデミー』 が、巷の様々な豆知識や真実を無料でお届けしているコラムコーナーです。
DATE/ 2017.11.14

免疫力UPにがん予防、味噌の力とは?

 日本人の死因トップの座に定着してしまった感のあるがんですが、最近、ある日本の伝統食品ががん予防に非常に有効であると注目を浴びているのです。実は、どの家庭の台所にも必ずある「味噌」が免疫力を高め、がんの予防に効果があること、その他の点でも非常に健康によい食品であることが、医学的に証明されているのです。

日本人の活力源・味噌の歴史は奈良時代から

 食文化評論家として発酵商品をこよなく愛する東京農業大学名誉教授の小泉武夫氏によれば、味噌はもともと肉食の習慣のない日本人の食生活を長いこと支えてきました。味噌の原料は優れたたんぱく質である大豆。その大豆たんぱくが麹菌により分解されアミノ酸になります。アミノ酸は体内で活力源になりますから、一日の活動の前に朝一椀の味噌汁を飲むという日本人の典型的な食スタイルは非常に理にかなっていたわけです。

 こうした味噌の力を昔の日本人は科学的には知らずとも、十二分に感じてはいたのでしょう。なんと奈良時代から味噌は優れた保存料、美味しい調味料として存在していたというのですから驚きです。

すぐれた免疫力効果で消化器系のがん予防に有効

 さらに近年では、味噌が持つ医学的効果に関するさまざまな研究が行われています。たとえば、国立がん研究センターの免疫学の権威である故・平山雄氏は、味噌汁を毎日飲んでいる人は、消化器系のがん、特に胃がんや食道がんにかかる割合が低いことを突きとめました。味噌が免疫力アップに大きく貢献しているのです。この研究はその後、各大学医学部でも引き継がれ実証されています。

 加えて、広島大学原爆放射線医科学研究所の名誉教授・渡邊敦光氏は、味噌が体内に入った放射能を減らす効果を持つことを明らかにし、さらなる研究を進めています。まさに味噌は美味しい「薬」になり得るのですね。

味噌は減塩にも配慮したすぐれた発酵食品

 味噌が体にいいことは分かっているけれど塩分が気になる、という方も多いでしょう。ひと頃、「和食はヘルシーだけれど塩分が多い」と言われ、その塩分過多の張本人としてやり玉に挙げられたのが味噌汁でした。しかし、今は減塩に対する意識が浸透しており、必要以上にしょっぱい味噌汁にしないようにという健康指導も、各自治体で行われているようです。何より、味噌自体が減塩で作られているので、小泉氏は「免疫力をアップするためにも、どんどん味噌汁を飲むといい」と熱弁をふるっています。

 味噌のこのような効果は、もちろん「発酵」の力によるもの。味噌だけでなく、納豆に漬物、お酢などの発酵食品を日常的に無理なく摂取できるところに和食の魅力、底力があるといってもよいでしょう。近年、「飲む点滴」と注目されている甘酒も伝統の発酵食品ですね。

ライフスタイルに合った「一汁」を食卓の真ん中に!

 2013年12月に和食がユネスコ無形文化遺産に登録されました。小泉氏はそのための国の委員だったそうですが、小泉氏によると、そもそも和食は「一汁三菜」を基本の形としているといいます。ごはんと一椀の汁物に三つのおかずで和食の基本は成り立っているということです。三菜のうち一つは「香の物(漬物)」とされますから、汁物を味噌汁にすれば自ずと発酵食品でいろどられた豊かで健康にもいい献立になるということです。
 
 ちなみに、料理研究家の土井善治氏は伝統的な「一汁三菜」を現代の食スタイルに合わせた「一汁一菜」を提案しています。この場合の汁物はもちろん味噌汁。トマトやかぼちゃといった緑黄色野菜、ベーコンやソーセージなども自在に入れた「菜」を兼ねた具だくさん味噌汁にしましょう、ということです。このスタイルなら「一汁三菜なんて、毎日、三つのおかずを作るのは無理」という方も、無理なく続けることができるでしょう。こうして野菜も肉も、和洋いずれの食材も、おおらかに受け入れてまとめあげるのも、味噌の魅力かもしれません。

 病気は治療よりもまず予防からと言います。おいしくて効果てきめんの味噌の力を、もっと気軽に取り入れてみませんか。

<参考文献>
『一汁一菜でよいという提案』(土井善晴著、グラフィック社)
~最後までコラムを読んでくれた方へ~
「学ぶことが楽しい」方には 『テンミニッツTV』 がオススメです。
明日すぐには使えないかもしれないけど、10年後も役に立つ“大人の教養”を 5,600本以上。 『テンミニッツ・アカデミー』 で人気の教養講義をご紹介します。
1

習近平への権力集中…習近平思想と中国の夢と強国強軍

習近平への権力集中…習近平思想と中国の夢と強国強軍

習近平―その政治の「核心」とは何か?(1)習近平政権の特徴

国際社会における中国の動きに注目が集まっている。新冷戦ともいわれる米中摩擦が激化する中、2021年7月に中国共産党は創立100周年を迎えた。毛沢東以来、初めて「思想」という言葉を党規約に盛り込んだ習近平。彼が唱える「中...
収録日:2021/07/07
追加日:2021/09/07
小原雅博
東京大学名誉教授
2

大統領選が10年早かったら…全盛期のヒラリーはすごすぎた

大統領選が10年早かったら…全盛期のヒラリーはすごすぎた

内側から見たアメリカと日本(5)ヒラリーの無念と日米の半導体問題

ヒラリー・クリントン氏の全盛期は、当時夫のクリントン氏が大統領だった2000年代だったという島田氏。当時、ダボス会議での彼女の発言が全米の喝采を浴びたそうだが、およそ10年後、大統領選挙でトランプ氏と対峙した際、彼女...
収録日:2025/09/02
追加日:2025/11/24
3

熟睡のために――認知行動療法とポジティブ・ルーティーン

熟睡のために――認知行動療法とポジティブ・ルーティーン

熟睡できる環境・習慣とは(1)熟睡のための条件と認知行動療法

「熟睡とは健康な睡眠」だと西野氏はいうが、健康な睡眠のためには具体的にどうすればいいのか。睡眠とは壊れやすいもので、睡眠に影響を与える環境要因、内面的要因、身体的要因など、さまざまな要因を取り除いていくことが大...
収録日:2025/03/05
追加日:2025/11/23
西野精治
スタンフォード大学医学部精神科教授
4

密教の世界観は全宇宙を分割せずに「つないでいく」

密教の世界観は全宇宙を分割せずに「つないでいく」

エネルギーと医学から考える空海が拓く未来(4)全てをつなぐ密教の世界観

岡本浩氏、長谷川敏彦氏の話を受けて、今回から鎌田氏による講義となる。まず指摘するのは、空海が説く『弁顕密二教論』の考え方である。この著書で空海は、仏教の顕教は「中論」「唯識論」「空観」など世界を分割して見ていく...
収録日:2025/03/03
追加日:2025/11/20
5

なぜ「何回説明しても伝わらない」のか?鍵は認知の仕組み

なぜ「何回説明しても伝わらない」のか?鍵は認知の仕組み

何回説明しても伝わらない問題と認知科学(1)「スキーマ」問題と認知の仕組み

なぜ「何回説明しても伝わらない」という現象は起こるのか。対人コミュニケーションにおいて誰もが経験する理解や認識の行き違いだが、私たちは同じ言語を使っているのになぜすれ違うのか。この謎について、ベストセラー『「何...
収録日:2025/05/12
追加日:2025/11/02
今井むつみ
一般社団法人今井むつみ教育研究所代表理事 慶應義塾大学名誉教授