テンミニッツTV|有識者による1話10分のオンライン講義
会員登録 テンミニッツTVとは
社会人向け教養サービス 『テンミニッツTV』 が、巷の様々な豆知識や真実を無料でお届けしているコラムコーナーです。
DATE/ 2017.11.27

タバコの最大のリスクは「ガン」ではなく「活性酸素」

とっておきの禁煙法-「体の錆び」について知る

 東京都が2017年9月、飲食店や公共施設などの屋内での喫煙を原則禁止とする条例を発表しました。今や飲食店の分煙、禁煙措置は珍しいことではなく、飛行機も全面禁煙が主流、オフィスでも喫煙室以外でのタバコはご法度というところが多いのではないでしょうか。とは言え、健康のために何度もタバコを止めようとはしてもうまくいかず、「趣味は禁煙」と開き直る人も大勢いそうですね。

 今回は、そんな「分かっちゃいるけど止められない」方たちのために、順天堂大学医学部大学院医学研究科教授・堀江重郎氏による、とっておきの禁煙法をお伝えします。といっても、特殊な薬や器具を使うのではなく、「体の錆び」について学ぼうというものです。

諸悪の根源は活性酸素

 私たちが呼吸によって取り入れる酸素は化学的に反応性が低いのですが、反応性の高い「活性酸素」というものがあり、これが体内で発生すると、非常にやっかいなのです。反応性が高いというのは、体の中のタンパク質やDNA、脂肪といった分子、細胞を損傷して錆びさせてしまうということ。たとえば、DNA異常は細胞のがん化に深く関係しています。このような活性酸素が悪さを働くことを「酸化ストレス」といいます。

 この活性酸素は、食事をしてエネルギーを作り出すときに、同時に発生しているのですが、人の体は、その活性酸素をちゃんと分解する仕組みを生まれながらに持っています。赤ちゃんなどは瞬時にこの活性酸素を分解してしまうそうですが、悲しいことに加齢とともにこの分解速度はだんだんと落ちてきてしまいます。結果、体内に蓄積した活性酸素が、体を徐々に錆びつかせていくわけです。 

喫煙で酸化ストレスが増える

 この活性酸素による酸化ストレスが増える原因は、加齢のほかに、高血糖、肥満、高血圧、メンタル面のストレス、(男性の場合は)男性ホルモンの減少、などいくつかあるのですが、これらのどれよりも活性酸素を増やしてしまうのが喫煙だ、と堀江氏は言います。

 活性酸素による酸化ストレスが、肺などの臓器だけでなく血管や脳神経をボロボロと錆びで侵していく様子を思い浮かべてみてください。そうです。タバコを吸うことで脳神経が錆びて、うつや認知症になりやすくなるとも言われているのです。やみくもに「タバコは健康の害になるので、禁煙しましょう」と言われるより、「タバコを吸うと活性酸素が大量に発生して、体を中から錆びつかせてしまう」とイメージする方が、よほど禁煙効果はあるのではないでしょうか。

体の錆びを増やさないために

 十分に「体の錆び」の恐さを認識したら、次に酸化ストレスを減らす方法も学んでおきましょう。一つは小食を心がけること。過度なダイエット、食事制限はよくありませんが、やはり昔からよく言われる「腹八分目」が、酸化ストレス防止にも効果的なようです。堀江氏によれば、アルコールの分解酵素には活性酸素を分解する働きのあるものもあるそうで、適度にお酒を飲める人なら、この酵素による効果も期待できるとのこと。けれども、過度な飲酒は逆に酸化ストレスの原因にもなるので、くれぐれも飲み過ぎに注意してください。  

 酸化ストレスを抑えるもう一つの方法は、抗酸化力のある食べ物を多く摂取すること。抗酸化力のある食べ物の代表格は果物や野菜です。バナナやリンゴ、みかんなどビタミン、ミネラルの豊富な季節の果物に、カボチャ、ニンジンといった、見るからに栄養のありそうな緑黄色野菜だけでなく、キャベツ、ダイコン、ハクサイなどの淡色野菜も抗酸化力が豊富です。おもしろいのは、鳥ガ好んで食べるブルーベリーなどベリー類もよいということ。鳥は小さな体で羽を動かし空を飛ぶわけですから、その分のエネルギーとともに莫大な活性酸素を発生させています。鳥は本能的に自分の体を守る方法を知っているのですね。

 こうしてみると、特別な食材を摂る必要はなく、要はバランスのよい食事をほどほどにすればよいようです。自然の恵みにも目をむけて、無理なく錆びない体を手に入れてください。なお、こうした食事をしてさえいれば、タバコをいくら吸っても構わないということではないので、その点は誤解のなきように。
~最後までコラムを読んでくれた方へ~
より深い大人の教養が身に付く 『テンミニッツTV』 をオススメします。
明日すぐには使えないかもしれないけど、10年後も役に立つ“大人の教養”を 5,500本以上。 『テンミニッツTV』 で人気の教養講義をご紹介します。
1

叩き潰せ、正しいのは自分だけ…ロイ・コーンの教えとは

叩き潰せ、正しいのは自分だけ…ロイ・コーンの教えとは

[深掘り]世界を壊すトランプ関税(1)トランプ大統領の動機と思考

トランプ政権が発表した関税政策は、世界を大きな混乱に落とし込んでいる。はたして、トランプ大統領の「動機」や「思考」の淵源とはいかなるものなのか。そして世界はどうなってしまうのか。

島田晴雄先生には、...
収録日:2025/04/15
追加日:2025/04/25
2

共生への道…ジョン・ロールズが説く「合理性と道理性」

共生への道…ジョン・ロールズが説く「合理性と道理性」

危機のデモクラシー…公共哲学から考える(5)共存・共生のための理性

フェイクが含まれた情報や陰謀論が跋扈する一方、多様性が尊重されるようになり多元化する人々の価値観。そうした現代社会で、いかにして私たちはともに公共性を保って生きていけるのか。多様でありながらいかに共存・共生でき...
収録日:2024/09/11
追加日:2025/04/25
齋藤純一
早稲田大学政治経済学術院政治経済学部教授
3

水にビジネスチャンス!?水道事業に官民連携の可能性

水にビジネスチャンス!?水道事業に官民連携の可能性

水から考える「持続可能」な未来(8)人材育成と水道事業の課題

日本企業の水資源に関するリスク開示の現状はどうなっているか。革新的な「超越人材」を生み育てるために必要な心構えとは何か。老朽化する水道インフラの更新について、海外のように日本も水道事業に民間資本が入る可能性はあ...
収録日:2024/09/14
追加日:2025/04/24
沖大幹
東京大学大学院工学系研究科 教授
4

太陽系は銀河系の中で塵のように小さな存在でしかない

太陽系は銀河系の中で塵のように小さな存在でしかない

ブラックホールとは何か(1)私たちが住む銀河系

銀河の中心にある巨大なブラックホールは一体何なのか。それを考えるためには、宇宙にある数多の銀河の構造について正しく理解する必要がある。私たちが住むこの太陽系は、天の川銀河という巨大な銀河のごくごく小さな一部分で...
収録日:2018/10/31
追加日:2019/03/26
岡朋治
慶應義塾大学理工学部物理学科教授
5

実は考古学者と人類学者で違う!? 渡来系弥生人の定義

実は考古学者と人類学者で違う!? 渡来系弥生人の定義

弥生人の実態~研究結果が明かす生活と文化(6)弥生人のDNA

後の二重構造説の見直しにつながっていく「ヤポネシアゲノムプロジェクト」は、これまで手薄だった弥生人のDNA分析によって、古代人の分布について新たな見方を示した。そして、鳥取県にある青谷上寺地遺跡の調査では、現代日本...
収録日:2024/07/29
追加日:2025/04/23
藤尾慎一郎
国立歴史民俗博物館 名誉教授