テンミニッツ・アカデミー|有識者による1話10分のオンライン講義
会員登録 テンミニッツ・アカデミーとは
社会人向け教養サービス 『テンミニッツ・アカデミー』 が、巷の様々な豆知識や真実を無料でお届けしているコラムコーナーです。
DATE/ 2018.07.18

今も独身「貴族」と言えるのか?独身のお金事情

 「独身貴族」は、「お金・時間が自由に使える独身者」を揶揄する言葉として1977年以降に広まった、と『日本語俗語辞書』には記されています。さて、この言葉、40年後の現在にも当てはまるのでしょうか。

なぜ、いつから。「独身」者たちの実態を知る

 40年前と比べて、「独身」の割合は増えました。2015年の国勢調査では、50歳まで一度も結婚したことがない人の割合を示す「生涯未婚率」が、男性23.3%、女性14.1%に上り、過去最高を更新しました。1977年時点と比べると、男性は10倍、女性は3倍以上の伸びを示しています。「男性の約4人に1人が一生独身?」と、さまざまなメディアでも紹介されましたが、その生活実態はどうなのでしょう。

 独身率を上げるもう一つの要因として、離婚の増加もあります。平成28年度の厚生労働省の調査結果では、日本の離婚率は1.73%、2分26秒に1組が離婚している計算です(婚姻率は5%、51秒に1組成立)。

 一度も結婚したことのない人、結婚はしたけれど生別・死別してしまった人を合わせ、「単身世帯」が増えています。その分布を見ると、女性60歳以上30.8%、男性35~59歳19.2%、男性35歳未満16.8%、男性60歳以上12.2%、女性35~59歳10.6%、女性35歳未満10.4%となっています。男性は全年代満遍なく、女性は60歳を超えると「一人暮らし」のケースが激増するようです。

 独身というと、ついつい35歳未満男性を念頭においてしまいますが、実態はこれほど多様なのですね。

収入を一人で好きに使えるか、頭割りにするか

 金融に関する啓蒙活動を行なう金融広報中央委員会(事務局は日本銀行情報サービス局内)では、毎年「家計の金融行動に関する世論調査」を実施しています。データは大きく「二人以上の世帯」と「単身世帯」に分けられているので、独身者(の中でも一人暮らしの人)のお金使いの傾向を知ることができます(単身世帯は全国2500人、二人以上の世帯は全国8000世帯のインターネット・モニターから調べたもので、調査期間はいずれも2017年6月23日~7月5日)。

 まず、収入から確認しましょう。二人以上の世帯では過去1年間の手取り収入(税引き後)は、平均値が487万円、中央値が400万円になります。同じ期間の単身世帯では、過去1年間の手取り収入(税引き後)は、平均値が269万円、中央値が225万円です。実態に近いといわれる中央値で比較すると、単身世帯の収入は二人以上世帯の56%ほど。これで「貴族」な生活は満喫できるのでしょうか。

 「二人以上世帯」のプロフィールとして、世帯人数は平均3.1人、世帯主の平均年齢は57歳となっています。一方「単身世帯」のプロフィールは、平均年齢44歳、男性6割、女性4割の比率です。

 もしも単純に世帯人員の人員で収入を頭割りするならば、二人以上世帯では129万円となり、単身者の57.3%程度しか確保できません。どちらに転んでも厳しいのが、現状のような気がしてきました。

「預貯金ゼロ」でも、それがどうした?

 「家計の金融行動に関する世論調査」では、金融資産の保有額、借入金の額、家計運営の評価など、さまざまな質問を投げています。

 金融資産の保有額では、単身者は平均値942万円、中央値32万円で、うち預貯金が47.3%をしめます。平均値と中央値に大きな差があるのは、単身者の46.4%が「金融資産ゼロ」と答えているからです。二人以上世帯ではどうかというと、金融資産の平均値は1,151万円、中央値は380万円。「金融資産ゼロ」と答えた世帯は31.2%です。

 単身者の場合、金融資産1億円以上と答えた人が30人いて、平均値を釣り上げています。このような人はまさに「独身貴族」を謳歌しているのでしょうが、一方で半数は貯金ナシと二極化の実態が見えるようです。

 さらに単身者の目立つ特徴は、「借入金がない・少ない」場合が多いこと。二人以上世帯では約4割が住宅ローンなどの借入金を抱えていますが、単身者で借入金のある人は15.8%、平均額も81万円と世帯持ちの1,151万円とは二桁違います。「借金がなく身軽」という点で、家庭持ちが独身者をうらやむのは、今も同じだと言えそうですね。

 老後の生活を「心配である」と回答した数字を見ると、単身者が約85%、二人以上世帯でも81.5%がそう答えています。心配な理由はどちらも「十分な金融資産がない」「年金や保険が十分でない」から。さらに「生活設計」については、「現在生活設計を立てていないし、今後も立てるつもりはない」単身者は28.8%、世帯持ちは22.9%でした。

 ほんのわずかな差ではありますが、「生活設計なんて」と笑い飛ばす単身者の姿勢が、世帯持ちからすると精神的な貴族性と見える可能性は否定できません。

<参考サイト>
・知るぽると:家計の金融行動に関する世論調査[単身世帯調査]平成29年調査結果
https://www.shiruporuto.jp/public/data/survey/yoron/tanshin/2017/
・知るぽると:家計の金融行動に関する世論調査[二人以上世帯調査]平成29年調査結果
https://www.shiruporuto.jp/public/data/survey/yoron/futari/2017/
~最後までコラムを読んでくれた方へ~
より深い大人の教養が身に付く 『テンミニッツTV』 をオススメします。
明日すぐには使えないかもしれないけど、10年後も役に立つ“大人の教養”を 5,500本以上。 『テンミニッツ・アカデミー』 で人気の教養講義をご紹介します。
1

狩猟採集生活の知恵を生かせ!共同保育実現に向けた動き

狩猟採集生活の知恵を生かせ!共同保育実現に向けた動き

ヒトは共同保育~生物学から考える子育て(3)共同保育を現代社会に取り戻す

ヒトは、そもそもの生き方であった狩猟採集生活でも子育てを分担してきた。それは農業社会においても大きくは変わらなかったが、しかし産業革命以降、都市化が進み、貨幣経済と核家族化と個人主義が浸透した。ヒトが従来行って...
収録日:2025/03/17
追加日:2025/09/14
長谷川眞理子
日本芸術文化振興会理事長 元総合研究大学院大学長
2

トランプ・ドクトリンの衝撃――民主主義からの大転換へ

トランプ・ドクトリンの衝撃――民主主義からの大転換へ

トランプ・ドクトリンと米国第一主義外交(1)リヤド演説とトランプ・ドクトリン

アメリカのトランプ大統領は、2025年5月に訪れたサウジアラビアでの演説で「トランプ・ドクトリン」を表明した。それは外交政策の指針を民主主義の牽引からビジネスファーストへと転換することを意味していた。中東歴訪において...
収録日:2025/08/04
追加日:2025/09/13
東秀敏
米国大統領制兼議会制研究所(CSPC)上級フェロー
3

外政家・原敬とは違う…職業外交官・幣原喜重郎の評価は?

外政家・原敬とは違う…職業外交官・幣原喜重郎の評価は?

外交とは何か~不戦不敗の要諦を問う(2)外交と軍事のバランス

国際関係においては外交と軍事(内政)のバランスが重要となる。著書では、近代日本において、それらのバランスが崩れていった過程を3つのステージに分けて解説しているが、今回はその中の、国のトップが外政家・原敬から職業外...
収録日:2025/04/15
追加日:2025/09/12
小原雅博
東京大学名誉教授
4

フーリエ解析、三角関数…数学を使えば音の原材料が分かる

フーリエ解析、三角関数…数学を使えば音の原材料が分かる

数学と音楽の不思議な関係(3)音と三角関数とフーリエ級数

音が波であることは分かっても、それが三角関数で支えられていると言われてもピンとこないという方は少なくないだろう。そこで、その話を補足するのが倍音や周波数という概念であり、そのことを目で確認できるとっておきのイメ...
収録日:2025/04/16
追加日:2025/09/11
中島さち子
ジャズピアニスト 数学研究者 STEAM 教育者 メディアアーティスト
5

各々の地でそれぞれ勝手に…森林率が高い島国・日本の特徴

各々の地でそれぞれ勝手に…森林率が高い島国・日本の特徴

「集権と分権」から考える日本の核心(5)島国という地理的条件と高い森林率

日本の政治史を見る上で地理的条件は外せない。「島国」という、外圧から離れて安心をもたらす環境と、「山がち」という大きな権力が生まれにくく拡張しにくい風土である。特に日本の国土は韓国やバルカン半島よりも高い割合の...
収録日:2025/06/14
追加日:2025/09/15
片山杜秀
慶應義塾大学法学部教授 音楽評論家