テンミニッツ・アカデミー|有識者による1話10分のオンライン講義
会員登録 テンミニッツ・アカデミーとは
社会人向け教養サービス 『テンミニッツ・アカデミー』 が、巷の様々な豆知識や真実を無料でお届けしているコラムコーナーです。
DATE/ 2020.09.25

社会人が間違いやすいビジネス敬語とは?

 敬語は難しいと感じる人も多いのではないでしょうか。逆に考えると、うまく敬語を使えればビジネスの現場で有利になるとも言えます。また、普段からしっかり敬語が使えていれば、ちょっとした場面で失敗した時にも親近感が湧いて距離が縮まるかもしれません。何事も基本から。ここではビジネスシーンで間違えやすい敬語表現について、確認しておきましょう。

敬語は「適切で安定的な距離を取る」ためのもの

 敬語には、尊敬語、謙譲語、丁寧語があります。上下関係に応じて使い分けると思われがちですが、実は異なります。文化庁によると、立場の違いを越えて「相互尊重する」ということが現代での敬語の本質とされています。また、これは相手と「適切で安定的な距離を取る」ということではないでしょうか。

 仕事をする上で円滑に進むことはとても大事な要素です。このためには働く人間同士に適切な距離が重要です。ということで敬語を使う上では、仕事上の上下関係は関係ありません。ビジネスシーンでは常に、相手がどういう立場であっても尊敬語を使い、自分には謙譲語を使う。あとは基本的に丁寧語(です・ます調)で、というだけです。

「参る」「いただく」「申す」

 「参る」「いただく」「申す」は全て謙譲語です。つまり自分の行動に対して使います。ということで混乱するのは相手と一緒に行動する場合。

×「一緒に参りましょう」 → ○「お伴いたします」「ご案内します」

 「参る」はあくまで自分の行動だけに対して使いましょう。また、「ご一緒させていただきます」も間違い。文化庁によると、「させていただく」を使う場面は「自分側が行うことを、相手側又は第三者の許可を受けて行い、そのことで恩恵を受けるという事実や気持ちのある場合」とされています。これに沿った用法だと「コピーを取らせていただけますか」は使えます。ちなみに「いただく」は「もらう」と、「食べる」「飲む」の謙譲語です。

また、「参る」と同様、「申す」は古文でよく耳にした言い回しかもしれませんが、「言う」「発言する」の謙譲語です。

×「申されていました」 → ○「おっしゃっていました」
×「~と申されますと」 → ○「~とおっしゃいますと」

 「申す」は謙譲語なので、自分側の発言に対して使います。相手の発言は尊敬語の「おっしゃる」に置き換えましょう。状況によって「おっしゃる」が強すぎる場合「言われる」でもいいです。

二重敬語は基本的に間違い

 「言われる」は「言う」という動詞の後ろについて尊敬語にする助動詞「れる」「られる」がついたもの。これはさまざまな動詞で使用可能ですが、二重敬語になると逆に違和感がでるので注意です。

×「おっしゃられる」 → ○「おっしゃる」「言われる」
×「ご覧になられました」 → ○「ご覧になりました」
×「おいでになられました」→ ○「おいでになりました」
×「お読みになられる」 → ○「お読みになる」

 「お読みになる」のように「お」や「ご」をつけて丁寧な表現にすることもありますが、この時も後ろに「れる」「られる」をつけると二重敬語になります。

「お召し上がりになる」は許容されている

 ただ、ここまでの法則からすると例外扱いになりますが、いつのまにか定着してしまったと考えられる用語もあります。以下、平成19年の文化庁「敬語の指針」に掲載されていた例です。

○「お召し上がりになる」=「お」+「召し上がる」(基本的には「召し上がる」)
○「お読みになっていらっしゃる」=「お」+「いらっしゃる」(基本的には「お読みになる」)
○「御案内してさしあげる」=「ご」+「さしあげる」(基本的には「ご案内する」)

 ルールからすれば二重敬語ですが、言葉は生き物。よく使われるようになれば許容されます。また、たとえば「ご一緒させていただきます」であるとか「資料をご持参ください」といった表現は、現段階では敬語としては間違っているといえますが、違和感は強くありません。こういった表現はそのうち定着していく可能性もあります。

 ここまで見てきたように、日本語の敬語表現は簡単ではありません。しかし、大事なことは、相手を尊重することです。もし仕事上で間違った敬語を使う人がいても、そこは寛容にいきましょう。マナーがない人に対して嫌な気持ちになったりすると、そもそもの目的である「相互尊重」ができません。まずは相手を尊重することから。自分の敬語は磨いて、他者の敬語には寛容に、これでいいのではないでしょうか。

<参考サイト>
・第一話「敬語の心得」理解度チェックの解答|文化庁
https://www.bunka.go.jp/seisaku/kokugo_nihongo/kokugo_shisaku/keigo/chapter1/detail.html
・第三話「敬語のTPO~依頼の仕方~」理解度チェックの解答|文化庁
https://www.bunka.go.jp/seisaku/kokugo_nihongo/kokugo_shisaku/keigo/chapter3/detail.html
・「敬語の指針」 平成19年2月2日 文化審議会答申(PDF)|文化庁
https://www.bunka.go.jp/seisaku/bunkashingikai/sokai/sokai_6/pdf/keigo_tousin.pdf
・「~と申しますと」は間違い? - 正しい例文・誤った例文【ビジネス用語】|マイナビニュース
https://news.mynavi.jp/article/20180216-583825/
~最後までコラムを読んでくれた方へ~
より深い大人の教養が身に付く 『テンミニッツTV』 をオススメします。
明日すぐには使えないかもしれないけど、10年後も役に立つ“大人の教養”を 5,600本以上。 『テンミニッツ・アカデミー』 で人気の教養講義をご紹介します。
1

ショパン…ピアノのことを知り尽くした作曲家の波乱の人生

ショパン…ピアノのことを知り尽くした作曲家の波乱の人生

ショパンの音楽とポーランド(1)ショパンの生涯

ピアニスト江崎昌子氏が、ピアノ演奏を交えつつ「ショパンの音楽とポーランド」を紹介する連続シリーズ。第1話では、すべてのピアニストにとって「特別な作曲家」と言われる39年のショパンの生涯を駆け足で紹介する。1810年に生...
収録日:2022/10/13
追加日:2023/03/16
江崎昌子
洗足学園音楽大学・大学院教授 日本ショパン協会理事
2

歴史のif…2.26事件はなぜ成功しなかったのか

歴史のif…2.26事件はなぜ成功しなかったのか

クーデターの条件~台湾を事例に考える(5)世直しクーデターとその成功条件

クーデターには、腐敗した政治を正常化するために行われる「世直しクーデター」の側面もある。そうしたクーデターは、日本では江戸時代の「大塩平八郎の乱」が該当するが、台湾においては困難ではないか。それはなぜか。今回は...
収録日:2025/07/23
追加日:2025/10/17
上杉勇司
早稲田大学国際教養学部・国際コミュニケーション研究科教授 沖縄平和協力センター副理事長
3

国力がピークアウトする中国…習近平のレガシーとは?

国力がピークアウトする中国…習近平のレガシーとは?

習近平中国の真実…米中関係・台湾問題(6)習近平のレガシー

「時間は中国に有利」というのが中国の認識だが、中国の国力はすでに衰え始めているとの見方を提示した垂氏。また、台湾問題の解決が習近平主席のレガシーになり得るかだが、かつての香港返還問題を事例として、その可能性につ...
収録日:2025/07/01
追加日:2025/10/16
垂秀夫
元日本国駐中華人民共和国特命全権大使
4

なぜ算数が苦手な子どもが多いのか?学力喪失の真相に迫る

なぜ算数が苦手な子どもが多いのか?学力喪失の真相に迫る

学力喪失の危機~言語習得と理解の本質(1)数が理解できない子どもたち

たかが「1」、されど「1」――今、数の意味が理解できない子どもがたくさんいるという。そもそも私たちは、「1」という概念を、いつ、どのように理解していったのか。あらためて考え出すと不思議な、言葉という抽象概念の習得プロ...
収録日:2025/05/12
追加日:2025/10/06
今井むつみ
一般社団法人今井むつみ教育研究所代表理事 慶應義塾大学名誉教授
5

学力喪失と「人間の理解」の謎…今井むつみ先生に聞く

学力喪失と「人間の理解」の謎…今井むつみ先生に聞く

編集部ラジオ2025(24)「理解する」とはどういうこと?

今井むつみ先生が2024年秋に発刊された岩波新書『学力喪失――認知科学による回復への道筋』は、とても話題になった一冊です。今回、テンミニッツ・アカデミーでは、本書の内容について著者の今井先生にわかりやすくお話しいただ...
収録日:2025/09/29
追加日:2025/10/16