社会人向け教養サービス 『テンミニッツ・アカデミー』 が、巷の様々な豆知識や真実を無料でお届けしているコラムコーナーです。
DATE/ 2024.05.19

タコは犬よりも賢い?その驚きの知能とは

犬と同程度の脳神経細胞を持つタコ

 過去の話ではありますが、スペインが初の優勝を飾った2010年のFIFAワールドカップ南アフリカ大会、この試合結果の予想を見事的中させたタコがいたことを覚えていますか。そのタコとは、ドイツのシーライフ水族館で飼育されていたパウルくん。スペイン優勝だけでなく、ドイツ戦の勝敗予想も100%的中させて話題になりましたよね。

 パウルくんは勝敗予想に使用された国旗を識別していたと考えられており、タコに予言能力があるかは不明ながら、高い知能があることはわかっています。実はタコには約5億個もの神経細胞が備わっていて、これは犬と同程度(ご参考までに、人間は約1千億個)。無脊椎動物の中では最も賢いといわれます。

 ただし、だからといって犬と同じような賢さを示すわけでもないのが興味深いところ。タコは無脊椎動物の頭足類に分類され、犬や人間が分類される脊椎動物の哺乳類とはまったく違う生物です。からだのつくりが大きく異なっており、タコの脳はクルミほどの大きさしかないため、神経細胞も3分の1程度しか割り振られていません。3分の2の神経細胞は、8本の腕に割り振られているのです。つまり腕それぞれに小さな脳があり、本来の脳はそのまとめ役といえるでしょう。

 人間は脳に指令を集約しているため、左右の手で違う作業をするのは難しいですが、タコは腕それぞれが指令を出せるので、食料となる貝を割りながら別の獲物を探ることも普通にできるのです。

こんなこともできるタコ

 高い知能と複雑な神経系を持つタコは、このほかにも多くの驚きの行動を取ります。それはどんなものか、見てみましょう。

 道具を使って身を守る:貝やココナツの殻などの陰に隠れて、外敵から身を守ります。ときには、この“盾”を持って移動することもあります。道具を使うといえば、サルの仲間が食料を得るために木の枝などを使うことが知られていますが、道具を防具として役立てる動物はとても珍しいです。

 閉じこめられても脱出する:ビンの中に閉じこめられても、腕を駆使してフタを開け、脱出します。自分が“閉じこめられている”状況を理解できるので、水族館の広い水槽に入れられても逃げ出してしまいます。しかも、誰も見ていないかきちんと確認してから脱走するそうです。

 人間の顔を識別する:個体を識別する能力があり、人間の顔も見分けられます。同じ服を着たふたりの人間を使った実験で、ひとりにずっと食料を与えさせ、もうひとりにずっといやがらせをさせたところ、いやがらせをする人間にだけ水を吹きかけて威嚇するようになったのです。

 家を装飾する:石や貝殻など、実用性のないもので住居を飾り立てます。さらに、その住居は何世代にもわたって受け継がれることもあるとか。タコそれぞれにセンスがあるらしく、実用性がなくても気に入った“宝物”をコレクションとして溜めこむこともあります。

 このほかにもタコは鏡に映った自分を自分と認識する「鏡像自己認知能力」があり、夢を見るとも報告されています。

なぜタコの神経細胞はここまで発達したのか

 実は、鏡像自己認知能力は人間のほかにチンパンジーやイルカなど、わずかな脊椎動物にしか備わっていない高度な知能です。その点からタコは哺乳類に匹敵する賢さを持っており、部分的には犬より賢いともいえます。

 その一方で寿命が2年ほどしかなく、神経系が発達した生物にしては短命な点も特徴です。本来、発達した神経系は複雑な社会生活を営むために必要とされますが、タコは短命なこともあり、さほど複雑で活発な社会を構築することはありません。それなのになぜ、こんなに高い知能を発揮できるほどの神経細胞を持つのかはまだ解明されていませんが、タコのからだのつくりに関係しているのではないかと考えられています。

 まずなんといっても、タコの腕は8本もあるため、ひとつの脳にコントロールを任せると制御不能になる可能性が高いです。そこでそれぞれの腕にも“脳”を置いて独自の指示を出せるようにした結果、神経系が複雑になったと推測できます。

 またタコは体表の色や質感を自在に変化させる擬態能力に優れ、砂のようにも金属のようにも見せられるほか、筋肉をでこぼこの形状にして岩のように見せることもできます。この複雑な能力を操るために、神経系が発達したという推測もあります。

 人間では意思疎通が難しいタコですが、こっそり脱走したり家を飾ったりするところには親近感が持てますよね。将来、タコと会話できる技術が開発されたら、哺乳類よりも気が合う仲間になってくれるかもしれません。

<参考サイト>
・ダイヤモンド・オンライン タコは驚くほど賢い!知性の秘密はイヌ並みの神経細胞にあり
https://diamond.jp/articles/-/189309
・カラパイア ただものじゃない。タコのハイスペックさがわかる22の事実
http://karapaia.com/archives/52179869.html
・日本気象協会 海の賢者、タコの知性と能力がすごすぎる!8月8日は「タコの日」
https://tenki.jp/suppl/kous4/2020/08/08/29938.html

~最後までコラムを読んでくれた方へ~
雑学から一段上の「大人の教養」はいかがですか?
明日すぐには使えないかもしれないけど、10年後も役に立つ“大人の教養”を 5,600本以上。 『テンミニッツ・アカデミー』 で人気の教養講義をご紹介します。
1

深刻化する中国の人権問題…中国共産党の思惑と人権の本質

深刻化する中国の人権問題…中国共産党の思惑と人権の本質

中国共産党と人権問題(1)中国共産党の思惑と歴史的背景

チベット、内モンゴル、新疆ウイグルなど、少数民族に対する深刻な人権侵害をめぐって欧米諸国から強い批判を浴びている中国。しかし、こうした人権問題は今に始まったことではない。中華人民共和国建国の経緯と中国共産党の思...
収録日:2021/10/15
追加日:2021/12/24
橋爪大三郎
社会学者 東京科学大学名誉教授 大学院大学至善館教授
2

プロジェクトマネジメントとは?国際標準から考える特性

プロジェクトマネジメントとは?国際標準から考える特性

プロジェクトマネジメントの基本(1)国際標準とプロジェクトの定義

プロジェクトマネジメントが世界的に普及し始めたのは1990年代。ソフトウェア産業の発展とともに拡大を続け、時代のニーズを受けて多くのシーンに定着してきた。今回は、その基本に立ち返り、国際標準をもとに、プロジェクトと...
収録日:2025/09/10
追加日:2025/12/03
大塚有希子
法政大学専門職大学院イノベーションマネジメント研究科准教授
3

なぜ「何回説明しても伝わらない」のか?鍵は認知の仕組み

なぜ「何回説明しても伝わらない」のか?鍵は認知の仕組み

何回説明しても伝わらない問題と認知科学(1)「スキーマ」問題と認知の仕組み

なぜ「何回説明しても伝わらない」という現象は起こるのか。対人コミュニケーションにおいて誰もが経験する理解や認識の行き違いだが、私たちは同じ言語を使っているのになぜすれ違うのか。この謎について、ベストセラー『「何...
収録日:2025/05/12
追加日:2025/11/02
今井むつみ
一般社団法人今井むつみ教育研究所代表理事 慶應義塾大学名誉教授
4

ジャパン・アズ・ナンバーワンで満足!?学ばない日本の弊害

ジャパン・アズ・ナンバーワンで満足!?学ばない日本の弊害

内側から見たアメリカと日本(7)ジャパン・アズ・ナンバーワンの弊害

高度成長のために頑張った日本は「ジャパン・アズ・ナンバーワン」の評価を得たが、その後の日本企業の凋落、競争力の低下を考えると、その弊害を感じずにはおられない。読書人口が減っている現状をみると、いつのまにか「世界...
収録日:2025/09/02
追加日:2025/12/01
5

質疑編…司馬遼太郎の「史料読解」をどう評価する?

質疑編…司馬遼太郎の「史料読解」をどう評価する?

歴史の探り方、活かし方(7)史料の真贋を見極めるために

歴史上の出来事の本質を知るには、その真贋を見定めなければいけない。そのためにはどうすればいいのか。記述の異なる複数の本がある場合、いかにして真実を見極めるか。また、司馬遼太郎の作品が「歴史事実」として認識されて...
収録日:2025/04/26
追加日:2025/12/02