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DATE/ 2023.07.04

「東大読書」の著者が解き明かす『頭がいい人は○○が違う』

「頭がいい人とそれ以外の人では、何が違うのか?」――きっと多くの人が1度は考えたことがあるはずです。頭がいい人たちには何か共通点があるのでしょうか。「頭の良さ」は先天的なもので後から努力しても変えられないのか。それとも、自分の意志と努力でなんとかなるものなのか。

 今回紹介する書籍『偏差値35から東大に合格してわかった 頭がいい人は○○が違う』(日経BP)では、「頭の良さは作れる」とはっきりいっています。本書は誰もが知りたい「頭をよくする方法」をわかりやすく教えてくれる一冊になっています。

 著者の西岡壱誠氏は、偏差値35から東大を目指し、合格を果たした経験をもつ人物で、ベストセラー『東大読書』(東洋経済新報社)の著者でもあります。東大在学中から人気漫画『ドラゴン桜2』に情報提供を行う東大生プロジェクトチームの代表を務め、ドラマ日曜劇場「ドラゴン桜」(TBS系)の監修も担当。現在は自身が設立した株式会社CARPEDIEM(カルペ・ディエム)の代表として、全国の高校で思考法・勉強法を伝えるプロジェクトを進めています。本書はそうした西岡氏の活動の集大成ともいえる内容です。

「頭をよくする」ための20の力

 本書は、東大に合格するくらい「頭のよい人」の条件を、「課題分解力」「反省力」など20の力に分けて解説しています。こうした条件を明らかにし、それをまねすることができれば、後天的に「頭をよくする」ことができる。つまり、その20の力を身につけることで、誰もが東大生のような思考力を手に入れることが可能だと西岡氏は言います。

 第1章では、頭がいい人の「思考法」に焦点を当て、「課題分解力」「疑問力」「質問力」「勉強力」など、頭の中の上手な整理の仕方が説明されます。そのなかで「勉強力」という項目では、頭がいい人は「雑学・豆知識が好き」という点が挙げられています。

 これは、「勉強」をつらくて苦しいものではなく、生活の延長線上で捉えるという考え方に関係しています。『ドラゴン桜』の桜木建二先生は、作中で東大生の親たちがどのように子どもに勉強を教えるかについて述べています。たとえば、子どもを買い物に連れて行ったときには、野菜の育ち方やお金の計算方法を教えるなど、日常生活を通じて学習させるのです。このようにして得た雑学・豆知識などを通じて好奇心旺盛な子どもが育ち、「机に向かわなくても、普通に生活しているなかで勉強ができる」ようになるといいます。これが無理なく勉強を続けるコツなのです。

 第2章では、頭がいい人の「行動」に着目し、「『型』力」「合理力」「計画力」「アップデート力」などの力が解説されます。その中の「アップデート力」という項目では、頭がいい人は「最新ツールを試す」ということが説明されます。西岡氏によれば、東大生たちのスマホには、1カ月以内にダウンロードしたアプリが平均して2個くらい入っているそうです。これは、「新しい道具があったら、一度は試してみたほうがいい」という「アップデート力」を示すものだといいます。きっと、東大生たちは今では、ChatGPTのような最新AIツールを普段の勉強に取り入れているのでしょう。

 第3章では、頭がいい人の「心の動かし方」を取り上げ、「反省力」「素直力」「客観力」「挑戦力」など、思考と行動を変える力が紹介されます。最後に置かれた「挑戦力」という項目では、「身のほどをわきまえない」ことの大事さが語られています。

 西岡氏は以前、『ドラゴン桜』の作者である三田紀房氏から、「東大に合格するために1番必要な資質ってなんだと思う?」と質問されたことがあるそうです。さて、皆さんは何だと思いますか。

「それは『東大を受けよう』と思う心だよ」というものでした。どんなに頭が良くても、東大を目指そうと決心しなければ合格する可能性はありません。「本当に『頭がいい人』というのは、自分で自分の限界を決めず、自分の意志で前に進んでいける人」だと西岡氏は言います。

『ドラゴン桜』のファンにとっても学びの多い内容

 本書の魅力のひとつは、漫画『ドラゴン桜』の副読本としても読めるということです。最初に本書を開いてみると、随所に引用された漫画『ドラゴン桜』からのシーンの多さに驚かされます。西岡氏は自身の経験を、『ドラゴン桜』のエピソードを交えながら紹介しています。

 例えば次のようなシーン。舞台となる高校に国語特別講師として赴任した芥川龍三郎先生が、生徒たちに何度も質問する場面です。芥川先生からしつこく質問が続くので、たまらず生徒の一人が「そんなのどうでもいいじゃん」と逆ギレ。すると、芥川先生は「だからあなたはバカなのだ!」と一喝します。「どうでもいいじゃん」と投げ出すことは思考停止であり、そのような態度の人間には東大合格など不可能だ。そう芥川先生が諭す印象的なシーンです。

 この場面を紹介しながら、西岡氏は登場人物に過去の自分を重ね、偏差値35だったころ、「わからない」と感じるとすぐに思考停止してしまっていたと言います。東大合格のために必要なのは、「わからない」を「わからない」の一言で片付けず、「自分に何がわかっていないのか」を具体的に突き止めること。こうした点に西岡氏は一つひとつ向き合っていき、ついには逆転合格を達成します。

 まさに漫画のような実体験を重ねた西岡氏が、自身の経験とプロジェクト活動を踏まえて『ドラゴン桜』の名シーンを解説することにより、創作物語である『ドラゴン桜』の内容にさらなるリアリティを持たせることに成功しているのです。そのため、本書は漫画やドラマのファンにとっても面白く読めるでしょう。

 ちなみに、本書は幅広い層の人にとって有意義な内容になっています。将来に受験を控えた生徒の皆さんにとっては、普段の勉強の仕方を見直すきっかけになります。それこそ、本書を読んでから東大を目指してもいいかもしれません。また、受験を終えた大学生にとっても、勉強や就職活動にいたるまで、さまざまな場面で参考になるでしょう。「頭がいい人」は「仕事ができる人」でもあると考えれば、ビジネスマンにとっても役に立ちます。誰が読んでも必ず参考になるところがあるはずです。

成功に必要なのは才能ではなく行動や習慣を変える努力

 余談ですが、今回本書を読んで連想したのは、ペンシルベニア大学の心理学者アンジェラ・ダックワースが提唱している“Grit”という概念です。著書『Grit: The Power of Passion and Perseverance』はアメリカでベストセラーになり、日本語にも翻訳されています。

 ダックワースの主張は、〈人が何らかの分野で成功し偉業を達成するために必要なのは「才能」ではなく「やり抜く力(Grit)」である〉ということです。ダックワースの研究からわかるのは、成功するために必要なものは才能などの先天的要素ではなく、行動や習慣を変える努力であるということです。これは本書の内容と通じるものがあると感じています。

 本書で一貫して語られていることは、「頭がいい人」になるためには、先天的な要素よりも、ちょっとした行動の変化や日常的な心がけが重要だということです。「私は頭が悪いから……」と思ってしまう人に対して、本書は少しずつ行動を変えてみることを提案します。行動が変われば習慣が変わり、習慣が変われば「頭の良さ」につながり、頭がよくなれば人生が変わる。その可能性の意味を考えると、本書は単に「頭のいい人」を作るだけでなく、「頭のいい人生」を作ることにも有益な一冊といえるのかもしれません。ぜひご一読して、その可能性をお試しください。

<参考文献>
『偏差値35から東大に合格してわかった 頭がいい人は○○が違う』(西岡壱誠著、日経BP)
https://bookplus.nikkei.com/atcl/catalog/23/05/25/00832/

<参考サイト>
西岡壱誠氏のツイッター
https://twitter.com/nishiokaissey?ref_src=twsrc%5Egoogle%7Ctwcamp%5Eserp%7Ctwgr%5Eauthor

株式会社CARPE DIEM
https://carpe-di-em.jp/
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