テンミニッツTV|有識者による1話10分のオンライン講義
会員登録 テンミニッツTVとは
社会人向け教養サービス 『テンミニッツTV』 が、巷の様々な豆知識や真実を無料でお届けしているコラムコーナーです。
DATE/ 2016.05.18

吉野屋が牛丼以外のメニューを増やしている理由とは?

 吉野屋が、従来の牛丼以外のメニューを増やしているのをご存じでしょうか。
 現在は、ベジ丼・ベジ牛といったヘルシーメニュー、牛すき鍋膳、鰻重などがあります。さらに、「吉呑み」というコンセプトでアルコールメニューやおつまみメニューを増やしています。

 これは一言でいえば、すべて「客単価を上げる」試みです。先に紹介した新メニューはどれも牛丼より高級で、鰻重三枚盛は1650円もします(2016年4月現在)。また、吉呑みも、ひとりのお客様により多くのお金を使っていただこうとする工夫なのです。

 それにしても、なぜ吉野屋は客単価を上げようとしているのでしょうか。

アルバイトの賃金が上がっているからだ

 吉野屋が客単価を上げようとする理由は、大きくふたつあります。ひとつは、人々の生活様式が変わりつつあるなどの理由で、低価格の飲食店から客足が離れているからです。最近のマクドナルドの苦境をご存知の方は多いでしょう。2014年度と2015年度の営業成績を見ると、吉野屋も同様に客数が減っています。それを補うのが客単価アップなのです。

 おそらくそれ以上に大きいのが、アルバイト賃金の上昇です。実はここ3年近く、3大都市圏のアルバイト・パートの平均時給は前年同月よりも上がり続けています(株式会社リクルートジョブズ「アルバイト・パート募集時平均時給調査」より)。吉野家のような飲食店はアルバイト・パート比率が高いですから、時給の上昇は経営に大きな影響があります。そのコストを稼ぐには、客単価アップが欠かせないのです。

インフレや有効求人倍率の高まりが賃金アップの理由

 では、なぜアルバイト・パートの賃金が上がっているのでしょうか。そのあたりの状況について、学習院大学国際社会科学部教授・伊藤元重氏は、10MTVのなかで大きく3つの理由を挙げて解説しています。

一つ目は、2014年4月に消費税が8パーセントに上がり、少しずつですが物価が上がり始めていることです。二つ目は、「有効求人倍率」が高まっていることで、伊藤氏は、「過去23年で一番高い1992年の水準まできています」と話しています。さらに、少子高齢化で労働人口が減っていることが3つ目の理由です。2020年までに、労働供給は約6パーセント縮小すると言われているそうです。

これらの理由が重なって、アルバイト・パートの賃金が3大都市圏を中心に上がっていると考えられます。

今後はどこも単価と生産性アップが欠かせなくなる

 一方、厚生労働省の発表によれば、実質賃金は4年ほど上がっていないとのことです(日本経済新聞より)。ただ、アルバイト・パート賃金の上昇傾向を見ると、今後は実質賃金も上向く可能性があります。もしそうなったときに何が起こるかといえば、吉野家だけでなく、多くの企業が、価格か生産性を高めなくてはならなくなるということです。

これまでのように派遣やアルバイト比率を高め、人件費をカットするという方針ではビジネスが立ち行かなくなるでしょう。つまり、賃金とともに、価格と生産性も上がっていくことが、デフレを脱却してインフレに向かう道なのです。

<参考文献・参考サイト>
・吉野家月次報告
http://www.yoshinoya-holdings.com/ir/report/yoshinoya.html
・株式会社リクルートジョブズ「アルバイト・パート募集時平均時給調査」
http://www.recruitjobs.co.jp/info/pr20160317_361.html
・15年通年の実質賃金0.9%減 4年連続マイナス、毎月勤労統計(日本経済新聞)
http://www.nikkei.com/article/DGXLASFS23H03_T20C16A2EAF000/
~最後までコラムを読んでくれた方へ~
物知りもいいけど知的な教養人も“あり”だと思います。
明日すぐには使えないかもしれないけど、10年後も役に立つ“大人の教養”を 5,600本以上。 『テンミニッツTV』 で人気の教養講義をご紹介します。
1

ブレーキなき極右ポピュリズム…文化戦争を重視し経済軽視

ブレーキなき極右ポピュリズム…文化戦争を重視し経済軽視

第2次トランプ政権の危険性と本質(1)実は「経済重視」ではない?

「第二次トランプ政権は、第一次政権とは全く別の政権である」――そう見たほうが良いのだと、柿埜氏は語る。ついつい「第1次は経済重視の政権だった」と考えてしまいがちだが、実は第2次政権では「経済」の優先順位は低いのだと...
収録日:2025/04/07
追加日:2025/05/10
柿埜真吾
経済学者
2

大隈重信と福澤諭吉…実は多元性に富んでいた明治日本

大隈重信と福澤諭吉…実は多元性に富んでいた明治日本

デモクラシーの基盤とは何か(2)明治日本の惑溺と多元性

アメリカは民主主義の土壌が育まれていたが、日本はどうだったのだろうか。幕末の藩士たちはアメリカの建国の父たちに憧憬を抱いていた。そして、幕末から明治初期には雨後の筍のように、様々な政治結社も登場した。明治日本は...
収録日:2024/09/11
追加日:2025/05/16
3

【会員アンケート】談論風発!トランプ関税をどう考える?

【会員アンケート】談論風発!トランプ関税をどう考える?

編集部ラジオ2025(8)会員アンケート企画:トランプ関税

会員の皆さまからお寄せいただいたご意見を元に考え、テンミニッツTVの講義をつないでいく「会員アンケート企画」。今回は、「トランプ関税をどう考える?」というテーマでご意見をいただきました。

第2次トランプ...
収録日:2025/05/07
追加日:2025/05/15
テンミニッツTV編集部
教養動画メディア
4

今や化学兵器の主流…「バイナリー」兵器とは?

今や化学兵器の主流…「バイナリー」兵器とは?

医療から考える国家安全保障上の脅威(3)NBC兵器をめぐる最新情勢

2006年ロシアのKGB元職員暗殺には「ポロニウム210」というNBC兵器が用いられた。これは、検知しやすいγ線がほとんど出ない放射線核種で、監視の目を容易にすり抜ける。また、2017年金正男氏殺害に使われた「VX」は、2種の薬剤を...
収録日:2024/09/20
追加日:2025/05/15
山口芳裕
杏林大学医学部教授
5

生と死が明確に分かれていた…弥生人が生きていた世界とは

生と死が明確に分かれていた…弥生人が生きていた世界とは

弥生人の実態~研究結果が明かす生活と文化(9)弥生人の「生の世界」

弥生時代の衣食住には、いったいどんな文化があったのだろうか。土器やスタンプ痕の分析から浮かび上がる弥生人が生きていた世界、その生活をひもとくと、農耕の発展の経路や死生観など当時のさまざまな文化の背景が見えてくる...
収録日:2024/07/29
追加日:2025/05/14
藤尾慎一郎
国立歴史民俗博物館 名誉教授