テンミニッツTV|有識者による1話10分のオンライン講義
ログイン 会員登録 テンミニッツTVとは
社会人向け教養サービス 『テンミニッツTV』 が、巷の様々な豆知識や真実を無料でお届けしているコラムコーナーです。
DATE/ 2017.05.02

ここ10年間で給料が上がった仕事、下がった仕事とは?

 今の仕事の給料に満足している人も、そうでない人も、「これから順調に上がるのか、それとも下がるのか?」は、何より気になる動向です。AIの進化で「なくなる」仕事も増えると言われる現在、変化の真っただ中にある「給料」の動向について調べてみました。

給料が上がる原因、下がる原因とは?

 これまでの日本企業は「生活給」を中心とする年功序列制の給与体系をとっていました。会社に入って10年経てば○万円、20年経てば何割増しと計算ができたのです。労働組合も強く、「給料が下がる」のは、よほど会社の業績が悪くなったか、本人の勤務態度に問題があった場合だけでした。何よりも日本全体が高度成長期にあったため、「真面目に頑張れば報われる」のが当たり前の社会でした。

 近年はグローバリズムの影響などもあり、そうは問屋がおろさなくなりました。会社や業界全体の業績が、世界の経済やテクノロジーの動向と直結していて、海の向こうで新しい発明があると、それまでの努力も勤勉も水の泡となってしまう事態が増えてきました。

 私たちの給料を下げる要因は、一つに「供給過剰」、一つに「技術革新」、最後に「消費者の行動」だと言われます。その3点を頭の隅に置いて、これまでの流れを見ていきましょう。

この10年間で、給料が上がった仕事、下がった仕事

 10年前といえば、アップルが米国でiPhoneを発売した年に当たります。それからの10年間、働き方は決定的に変化していますね。ここでは、厚生労働省の賃金構造基本統計調査から、平成18年と28年を比較してみました。給与の増減率トップ3とワースト3には、以下の職種が並びました。

[2006→2016・給与の増減トップ3]

1 歯科医師   68.6万/月  △38.5%増
2 航空機操縦士 152.3万/月 △37.7%増
3 掘削・突破工 52.9万/月  △32.2%増

 「歯科医は供給過剰なんじゃないの?」と思われた方、はい、正解です。ただ、この統計には自営業は含まれないため、開業医は除外した数字となっています。また、最新機器や最新技術が次々に導入される昨今、設備投資の大変な「開業」を避けるケースも目立ちます。そのため、昔なら当然開業しているキャリアを持つ雇われ歯科医の給料が反映され、このような高い数値となっています。

 一方、航空機操縦士(パイロット)の伸び率がこれほど高いのは、業界再編の影響。2010年に起こったJALの経営破綻が逆に幸いして、パイロットの給与水準は高いほうへ統一されようとしています。
 
[2006→2016・給与の増減ワースト3]

1 はつり工   27.9万/月 ▲18.2%減
2 建具製造工  24.2万/月 ▲15.9%減
3 電気めっき工 27.1万/月 ▲13.7%減

 最も給料の減った「はつり工」とは、コンクリートやレンガなど、構築物の表面を削り取ったり、床や壁の穴あけ・コンクリート壊しなど、解体作業に従事する人のことです。公共施設が老朽化していく今後は需要が戻ってくる可能性も考えられます。建具製造は、戸や障子、ふすま、欄間を製造するもの。日本の住まいが変化し、消費者行動が変化するに伴って減ってきました。さらに「電気めっき」は、素材革命や加工技術の進歩による衰退傾向。とりわけ自動車のバンパーがウレタン樹脂に変わったことが大きい様子です。

5年スパンで発見できる、意外な現実!

 では、5年間での変化はどうでしょうか。より範囲が狭まることで、クローズアップされる職種は変わるのでしょうか。

[2011→2016・給与の増減トップ3]

1 航空機操縦士   152.3万/月 △37.3%増
2 掘削・突破工   52.9万/月 △36.4%増
3 航空機客室乗務員 44.7万/月 △31.6%増

 10年間の変化と比較すると、航空機の客室乗務員(CA)の存在が目立ちます。CAの場合、パイロットとは逆に、業界再編の波を受けて、比較的高給だったベテランCAが大量に離職。そのため給与水準が一時的に急減しました。この5年間はそこからの回復基調を表しています。

[2011→2016・給与の増減ワースト3]

1 不動産鑑定士  43.4万/月 ▲27.9%減
2 獣医師     40.6万/月 ▲18.6%減
3 記者      52.1万/月 ▲15.5%減

 不動産鑑定士の月給が下がったのは、企業の土地取引状況が2008年のリーマン・ショック以来ほぼ5年間不活発に終始したため、「消費行動の変化」によるものです。獣医師と記者が大幅に下落しているのは、「供給過剰」によるもの。獣医師は国家資格ですが、記者の場合は事情が違います。ネットメディアが激増したため、これまでは専門性の高さで高収入を得ていた「記者」という職業の定義自体が変わりました。クラウドソーシングのみで仕事を得るライターも「記者」と分類すれば、その月収は一気に下がります。

弁護士、社会保険労務士も給料ダウン!

 2016年と2015年、さらに3年前の2013年の給料を比較すると、より直近の様子がわかります。トップ3は2011年の顔ぶれから変化がありませんが、ワースト3に意外な職業が浮上してくるのです。

[2013→2016・給与の増減ワースト3]

1 弁護士       49.1万/月 ▲48.8%減
2 木型工       26.8万/月 ▲31.5%減
3 家庭用品外交販売員 26.5万/月 ▲27.5%減

[2015→2016・給与の増減ワースト3]

1 弁護士     49.1万/月 ▲67.7%減
2 はつり工    27.9万/月 ▲19.7%減
3 社会保険労務士 35.9万/月 ▲17.9%減

 司法制度改革による弁護士の過剰供給は大きな社会問題。司法修習を終えても法律事務所に就職できない「無職弁護士」がニュースになったのは、2013年頃です。さらにAIの導入で早々と脅かされるのは法律関係という情報も飛び交います。「供給過剰」と「技術革新」が結びつくと、あっという間に仕事の値打ちはダウン。弁護士はまさに受難の時代といえるでしょう。

<参考サイト>
・厚生労働省 賃金構造基本統計調査
http://www.e-stat.go.jp/SG1/estat/GL08020103.do?_toGL08020103_&tclassID=000001062209&cycleCode=0&requestSender=estat
~最後までコラムを読んでくれた方へ~
雑学から一段上の「大人の教養」はいかがですか?
明日すぐには使えないかもしれないけど、10年後も役に立つ“大人の教養”を 5,100本以上。 『テンミニッツTV』 で人気の教養講義をご紹介します。
1

運も実力のうち!?小早川の寝返りを生んだ黒田長政の好運

運も実力のうち!?小早川の寝返りを生んだ黒田長政の好運

運と歴史~人は運で決まるか(2)運に恵まれるにはどうすればいいか

普通の人間の「運」については、どう考えればいいのだろうか。例えば、日本において消費文化が花開いた江戸時代、11代将軍・徳川家斉の治世には、庶民が「運がめぐってこない」ことを皮肉った狂詩があった。運には「めぐりあわ...
収録日:2024/03/06
追加日:2024/04/25
山内昌之
東京大学名誉教授
2

陰の主役はイラン!?イスラエル・ハマス紛争の宗教的背景

陰の主役はイラン!?イスラエル・ハマス紛争の宗教的背景

グローバル・サウスは世界をどう変えるか(4)サウジアラビアとイランの存在感

中東のグローバル・サウスといえば、サウジアラビアとイランである。両国ともに世界的な産油国であり、世界の政治・経済に大きな存在感を示している。ただし、石油を武器にアメリカとの関係を深めてきたのがサウジアラビアであ...
収録日:2024/02/14
追加日:2024/04/24
島田晴雄
慶應義塾大学名誉教授
3

起業の極意!サム・アルトマンと松下幸之助

起業の極意!サム・アルトマンと松下幸之助

編集部ラジオ2024:4月24日(水)

ChatGPTを開発したことで一躍有名となったOpenAI創業者のサム・アルトマン。AIの発展によって社会は大きく、急速に変化しており、その中心的な人物こそが彼であるといっても過言ではありません。

そんなアルトマンが...
収録日:2024/04/15
追加日:2024/04/24
テンミニッツTV編集部
教養動画メディア
4

権威主義とポピュリズムへの対抗…歴史を学び、連帯しよう

権威主義とポピュリズムへの対抗…歴史を学び、連帯しよう

民主主義の本質(5)民主主義を守り育てるために

ポピュリズムや権威主義的な国家の脅威が迫る現在の国際社会。それに対抗し、民主主義的な社会を堅持するために、国際社会の中で日本はどのように振る舞うべきか。議論を進める前提として大事なのは「歴史から学ぶ」ことである...
収録日:2024/02/05
追加日:2024/04/23
橋爪大三郎
社会学者
5

ルネサンスはどうやって始まった?…美術の時代背景

ルネサンスはどうやって始まった?…美術の時代背景

ルネサンス美術の見方(1)ルネサンス美術とは何か

ルネサンス美術とはいったい何なのか。これを考えるためには、なぜその時代に古代ギリシャ、ローマの文化が復活しなければならなかったのかを考える必要がある。その鍵は、ルネサンス以前のイタリアの分裂した都市国家の状態や...
収録日:2019/09/06
追加日:2019/10/31
池上英洋
東京造形大学教授