●日本では小水力発電の大規模展開は難しい
―― 再生可能エネルギーには、太陽光発電、バイオ発電、地熱発電、風力発電など、いろいろな種類があります。その中の一つ、小水力発電について考えてみたいのですが、日本は農業土木予算の65パーセントを使って農業用水路を全国的に造り上げてきました。その用水路に、落差がなくても発電できるモーターと管理システムさえ設置すれば、ただ流れている水からいくらでも電気が取れるようになるともいわれています。そこで先生に、日本での小水力発電の可能性についてお聞かせ願えればと思います。
沖 日本での可能性は、発電量としてはそれほどないのではないでしょうか。ただ、人は経済のためだけに生きているわけではありません。自分たちが使うエネルギーが目の前でつくられる満足感は大きいものです。人口密度の低い集落、あるいは複数世帯の電力を賄えるくらいの小水力発電の普及は、地域コミュニティーの満足感を高める意味では、とても価値のあることではないかと私は思います。
農業用水路は何よりも水量が一定しており、確保された水の勢いを使うということですから、ある意味では未使用エネルギーの利用にもなるでしょう。ただ、都会での普及は無理です。小水力発電所には、農業用水路を使うものからきちんと落差を設けたものまでありますが、それなりの仕掛けをしても、せいぜい数千世帯分の電力しかつくれませんから、大規模な展開はなかなか難しいといわざるを得ません。
●小水力発電はアジアでの可能性が大きい
沖 小水力発電は、むしろ海外で、今まで電灯もなかったような土地での分散型エネルギーとして大きな可能性があります。それによって、国の底力が上がってくるのではないかと思います。
―― 国内というよりもモンスーン気候のアジアなどで、無限の可能性があるということですね。
沖 そうです。そして、アジア諸国などに小水力発電を普及させていくためには、本当にモジュール化されたパッケージ、極端にいえば、設置した瞬間から使える電源として売り込んでいける仕組みをつくることが大事だと思います。
―― すぐに系統接続できるモデルをつくるのですね。
沖 同時に、そのコミュニティーが自分たちでメンテナンスしていける仕組みを用意する必要もあるでしょう。物は必ず壊れますから、その維持管理のために、日本の技術者を各地域に派遣するのではなく、メンテナンスに対応できる現地ネットワークと現地人材をいかに早く日本でトレーニングしてつくり上げるか。これも大事なことです。
―― メンテナンス要因は大事ですね。
沖 現在、製造業は日本のGDPのたった2割で、残り8割がサービス業です。その中にメンテナンスも入っています。実際は、物を介してサービスを売っているのです。小水力発電の装置を売っているようでいて、あくまでもリモートな場所に電気をサービスする事業の一環として、物を提供しているという見方が必要なのです。
―― 昔、IBMが大型機を売っていた時と同じ感じですね。販売よりもメンテナンスの方がはるかにもうかると。
沖 物は、むしろその付属なのです。ただ、物が高いとトータルコストが上がるから、物のコストは下げる必要があります。
―― そう考えると、とても可能性が広がりますね。
●今やドイツは電力輸出国になっている
―― もう一つ、ドイツの例を教えていただきたいのですが、ドイツは、原発を続けるフランスから電力を輸入している国とばかり思っていたのですが、今やむしろ電力の輸出国になっています。オランダは農業改革を推し進めて、アメリカに次いで世界で2番目の輸出国になりました。ドイツも何らかの改革をしたのでしょうか。
沖 ドイツの電力事情はよく分かりませんが、ドイツについて話していて驚くのは、例えばリターナブル瓶です。ドイツは、ペットボトルをリサイクルしているのです。日本人はこれを精神的に受け入れません。どれほど洗浄していても嫌がります。ところが、洗浄しているのだから新品と同じだと言われたら、それを受け入れるのがドイツ社会なのです。
また、これはステレオタイプな見方で少々恥ずかしい言い方ですが、ドイツ社会は、頭で合理的だと分かったら、互いがそれを共有して社会規範にしてしまうような、ある意味で強制力を持っているのではないかと思います。原発を廃止するために家庭電力の使用量を減らさなければならないといわれたら、本当に電力の使用量を減らし、暖房を節約するのです。日本では、皆さんそれほど節約していません。頭では節約が必要だと分かっていても、寒くなれば、誰かが節約してくれるだろうと考えてしまうところがあります。そうではなくて、きちんと杓子定規に取り組む社会規範がドイツにはあると以前から感じています。
―― そ...