●新しい産業の誕生を阻害する現行制度
今現在、日本の経済成長が鈍い、世界に後れをとっていると心配されております。私は、その最大の原因というのは、新しい産業をつくらなくてはならない状況なのに、今ある法律や制度といったものが新しい産業が生まれることを邪魔しているからだろうと考えています。
これまでに、太陽電池や蓄電池などはすでに汎用品として安くなったのだから、どんどん推進するべきだということ(を話しました)。また、農林水産業を再生可能エネルギーと一体化することで、今まで農林水産業合わせて12兆円だった収入が40兆円~42兆円に上がり、非常に高い経済性が得られるという話をしてきました。
それからまた、人類は循環社会に向かっているわけですが、それを実現するためのビジネスモデルとして、サブスク型の経済──所有権を法人が持って、個別の消費者に所有権としては売らない──といったモデルが非常にフィットするだろうといったような話をしてきました。
なぜやらないのか、やればいいではないかということであり、こうしたビジネスを生み出せば、それが経済成長につながるということになるわけです。
ところが、現在の制度がそれを邪魔しています。これまで、特に第2次世界大戦の後の日本は非常にうまく復活して、世界のトップを走るようになるまでの経済成長を果たしてきました。そのためによかった制度や権限(があり)、あるいはどこがその権限を握っているかという構造があり、それらが邪魔しているということだと、私は思っています。
●再生可能エネルギーへの動きを阻害する日本独自の電力会社の仕組み
具体的に考えてみると、何が再生可能エネルギーを阻害しているのか。今の送電線がありますが、この送電線への接続という問題がそれを邪魔しているのです。つまり、メガソーラーを作ったり風力発電を作ったりしようとしても、(消費者に届けるには)送電線につながないとならない。ところが、送電線を持っているのは電力会社で、そこがつながせてくれないのです。
これは送電線に「空き」がないということではなく、空きがあってもなかなかつながせてくれないのです。極めて法外な料金を要求されたりするなどで、現実的につなげられない。なぜかというと、つながせてしまうと自分のところの売電量が減るから、という極めて明確な理由からつながせたくないわけです。
しかも、こういうことが起こるのは実は日本だけです。どうして日本でこういうことが起こるかというと、日本は発電から送配電までの全てを一つの電力会社が支配するという、世界でも稀な構造をとっているからです。
日本では、沖縄を含めて10に分けた地域のそれぞれに発電から送電まで全てを握る電力会社があり、地域独占型の構造を続けてきました。これは、戦後日本が全体としてどんどん発展していこうというときにはうまくいった仕組みです。ところが、今はこれまで機能してきた仕組みが破綻している時代です。
先に申し上げたように、新しい再エネをやろうとしても送配電網につなげられないといった形です。これは答えも明確で、世界が当たり前に行っているように、発電会社と送配電会社に分ければいいのです。
そのことは国としても意識して、分けようとはしました。具体的にどうなったかというと、一つのホールディング会社をつくり、その下に発電会社と送配電会社がぶら下がる。結局一つの会社ということになっているわけで、送配電会社のほうは自分の発電会社を優先する。既存の石炭火力発電を優先するということになって、新しい電力会社が再エネをやろうとしても、うまくできないという仕組みになっています。新しい産業を既存のシステムが邪魔しているというのは、例えばこういうことです。
●林業の新しい展開を阻害する不明地主の問題
他にも、健康の問題や医療など、それぞれの領域にそういう基本的な問題があります。
例えば林業。これも今後日本で新しく生まれると期待される産業であることを申し上げました。それがなぜできないかというと、誰が持っているか分からない山(不明地主)の問題が極めて大きいのです。すでに九州の総面積を超えているぐらい、不明の土地があります。
一方、林業というのは土地あたりの生産性が非常に低いから、大きな面積でやる必要があります。大きな面積でやろうとすると、その中に誰が持っているか分からないような土地が入っています。法律も、ある程度このことを意識してつくられています。最終的に誰が持っているか分からないような土地(の山林)は、自治体がOKすれば切ってもいい。このように変わっているのですが、この法律はまだ一度も使われたことがありません。切った後で、「あれは自分の土地だ。返せ」と言われることを恐れて、誰も実行...