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中国のインフラ輸出は、政治的な時限爆弾になりかねない

「TPP」か「一帯一路」か(2)いま必要なのは様子見

白石隆
公立大学法人熊本県立大学 理事長
情報・テキスト
政策研究大学院大学(GRIPS)学長・白石隆氏によれば、昨年大きく脚光を浴びたアジアインフラ投資銀行を評価するには、もう少し時間が必要だという。インドネシアの高速鉄道計画の顛末が示すように、中国流のビジネスモデルがどの程度通用するかは不透明だからだ。過熱しがちな中国脅威論とは異なる、冷静な中国経済分析が語られる。(全5話中第2話)
時間:10:38
収録日:2016/03/09
追加日:2016/05/19
カテゴリー:
≪全文≫

●AIIBの使い勝手はよくないかもしれない


 その上で、シルクロード基金とAIIB(アジアインフラ投資銀行)について申しますと、これらの性格は非常に違います。シルクロード基金は、国有銀行の中にそういうファンドをつくり、それで中国の銀行として進める。ということは要するに、中国政府としていろいろなところに投資するわけで、非常に使い勝手の良いものです。別の言い方をすると、「よその国のことなど知ったことか」でやれます。かなり機動性も高いし、パキスタンなどを見ると、これをよく使っています。

 これに対してAIIBは、非常に脚光を浴びましたが、結局中国の政府から見ると、あまり使い勝手は良くないのではないかというのが最近の印象です。AIIBでもって開発金融をやり、それで中国の企業が露骨にビジネスをやっているという例は、寡聞にして私は見ていません。


●AIIBに対する日本政府の見解


 AIIBに関して、日本政府にはおそらく二つの考え方があります。私などは、少なくとも「入るよ」という意思表示をして、その上で中国とAIIBという銀行の性格について条件を詰めていき、国際的な金融機関に少しでもふさわしいものにした方がいいのではないかという立場です。その方が、例えば東南アジアやオーストラリアなどの期待にも応えることになり、「日本はやはり戦略的にものを考えた上で、AIIBに関与し、中国にも関与し、この地域のインフラ資金需要にも応えようとしている」というように見えたのではないかと思います。

 私はこう考えていたのですが、官邸とおそらく財務省は、そうは考えていないようです。AIIBは、所詮金融機関であるから資金を調達しなければならないが、国際的なクレジットの評価から言って、JICA(国際協力機構)やワールドバンク(世界銀行)と同じぐらいのクレジットが取れるわけがない。そうすると開発金融といっても、金利が高くなるので、それだったら結局、あまり良いプロジェクトにお金をつけられないのではないか。こう考えています。ある意味では、専門家として当然考えるところを非常に重視しており、今のところは様子を見ようという判断になったのかなとは思っています。

 政府がそう考えるのなら、それはそれできちんとした理由のあることです。ですから私としては、そこは政治的判断の問題になります。それはそれでいいのではないかというのが、私の立場です。ですからその意味では、まだそこのところの議論も、「やはり政府の決定の通りでしたね」と言えるまでの答えも出ていませんし、「あれはまずかったね」という答えも出ていません。やはりまだ様子見の段階だろうと思います。


●インドネシア高速鉄道計画の入札競争で見えたこと


 少なくとも、あと1年ぐらいたたないと分からないだろうなと思います。インドネシアの新幹線、あるいは高速鉄道の話に戻りますと、これは非常にいい例です。いくつか非常に面白いことが、この競争で分かりました。

 一つは、あるインドネシアの非常に有力な政治家が言っていた比喩ですが、「大統領にアクセスできるドアというのは、非常に小さいドアだ」ということです。中国はそのドアを通って大統領のところまで行ける人が二人ぐらいいるが、日本には一人もいないということを、去年の7月の段階で言われたことがあります。

 当時は、中央大学を卒業して日本語が非常に達者、パナソニックとのいろいろな事業実績のある大物経営者であるラフマット・ゴーベル氏が商業大臣でしたから、私も含めて日本の人たちは「この人が少なくともこのドアを開けられるのだろう」となんとなく思っていたのです。しかしそうではないということが分かったのですね。ですから私は、実は7月の段階で勝負はついていると思っていました。そして、その時に本当に勝負がついていたかは分かりませんが、実際はその通りになりました。

 ただその時に一つ思ったことは、要するに大統領へのアクセスがあるかないかで、この案件を政府としてどう扱うかというルールづくりの部分において負けてしまったということです。あれはB to Bになってしまったのですね。B to Bということは、政府にはガバメント・ギャランティー(政府保証)を出さないということです。今でもそうですが、当時の国有企業大臣は、このドアを開けて中国を入れられる人だったわけですが、彼女が結局国有企業に命令してコンソーシウムをつくらせ、中国の国有企業と一緒にジョイント・ベンチャーを立ち上げて、これで高速鉄道をつくりますということをやってしまった。B to Bにされたことで、日本としてはもうJBIC(国際協力銀行)すら出番がなく、それで勝負がついてしまったのです。


●結局、中国に全部持っていかれるのか


 しかし、この後...
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