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マルコムXとネーション・オブ・イスラム

「イスラムとアメリカ」再考~米国内のイスラム教徒(8)マルコムX暗殺

山内昌之
東京大学名誉教授/歴史学者/武蔵野大学国際総合研究所客員教授
概要・テキスト
銃弾の跡(マルコムX暗殺)
歴史学者・山内昌之氏による「イスラムとアメリカ」を考察するシリーズ講話の最終話。今なお、アフリカ系アメリカ人にとっての屈指の英雄として語られるマルコムX。一時は「ネーション・オブ・イスラム」に傾倒したマルコムXだが、やがて彼は正当イスラムへの回帰を主張するようになる。その運命的な契機となった出来事とは何か?(全8話中最終話)
時間:06:23
収録日:2016/06/09
追加日:2016/08/04
カテゴリー:
≪全文≫

●マルコムXに込められた「X」の意味


 皆さん、こんにちは。

 モハメド・アリの死について縷々述べる機会に、マルコムXという名前が出てきました。マルコムXの「X」とは、前にも少しだけ触れましたが、自分の本来の家系の名前は永久に分からない、すなわち自分の祖先のアフリカ名というのは分からないから、その分からなさを象徴するのが「X」である、という意味なのです。

 本当の名前は「Little」と言いました。これは黒人を雇用した白人のプランテーション(農園)の主人が、自分が雇う黒人奴隷たちを分かりやすく識別するために付けた差別的な名前でした。BigやLittle、あるいはUgly(醜い)やSmall、Bigなどで、こうした名前から分かるように、このLittleという名前は白人の奴隷所有者から押し付けられたものだから、自分はもはや使わない、とマルコムXは言ったのです。これはカシアス・クレイの「クレイ(Clay、粘土・土)」が、白人の奴隷所有者から付けられた名前だから自分は使いたくないと言って、モハメド・アリに改姓したようなことと同様です。


●メッカ巡礼で真のイスラムに目覚めたマルコムX


 マルコムXはイライジャ・ムハンマドの教えを熱心に伝道しましたが、それは「イスラムの民」に多数のメンバーを引き入れる原動力ともなりました。マルコムXはこのイライジャ・ムハンマドの薫陶を受けてそこに入会し、そして、さらに新しい人たちを入会させたのです。その一人が何度もお話しましたが、元世界ヘビー級ボクシングチャンピオンのカシアス・クレイことモハメド・アリでした。また、その後、“Nation of Islam”(イスラムの民)と呼ばれる現在のアメリカ最大の黒人イスラムの結社のリーダーとなるルイス・ファラカーンという人物も、モハメド・アリと同様、イライジャ・ムハンマド、そしてマルコムXに導かれてイスラム教徒になったのです。

 マルコムXはメッカに巡礼します。そして、それによって彼は、自分たちのイスラム解釈がやや特異で、イスラムはアッラーに従う普遍的な同胞性、統一性をもっていなければならない、と考えるようになります。かつて自分の師であったイライジャ・ムハンマドは皮膚の色にこだわって「黒人は白人より高貴である」と言ったり、あるいは性的関係において非常に厳格であるイスラムの教えと違って...
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